第125話 卵の出所(第三者視点)
「あ、いらっしゃい。今日もTKGでいい?」
「あ、はい、お願いします」
勇者は初めてTKGを食べてから一週間、ファーステストの街に滞在していた。その間、毎日TKGを食べに通っている。
彼はなけなしのお金でこの街までやって来たが、滞在しているだけでは懐は寒くなる一方。そこで彼は冒険者として登録して日銭を稼ぐことにした。
ビビりの少年は採取依頼を受ける。
ファーステストの街の西以外は比較的モンスターも弱く、彼でも逃げられる程度の存在しかいない。それに、卵の効果により力が漲り、結界によって攻撃を防ぐことができるため命の危険は少ない。
そのため、彼のように臆病でもなんとかお金を稼ぐことができた。
「確かに力は漲るし、美味しいんだけど。効果は長く続かないんだよねぇ」
噂を信じてここまでやってきたら、確かにその卵は凄い効果を持っていた。全能感が漲ってなんでもできるような気持ちにもなる。
しかし、それは一時のもの。
彼が求めているのは永続的に湧く勇気。街に出回っている卵を食べるだけではこれ以上の成果は見込めそうになかった。
勇者として訓練をしていた時も必死に探してようやく見つかったのがこの街の卵だったのに、これ以上の効果は見込めそうにないので少々落ち込み始めている。
「あ、リビータさんこんにちは。今日は視察ですか?」
「ええ。お店はどうですか?」
そこにエルヴィス商会のリビータがやってきた。何故ならここはエルヴィスの指示で卵を卸している店の一つだからだ。
その理由はこの店が少々経営不振だったため助けたかったことと、自身の鑑定結果の裏付けのために卵を人々に食べさせてその効果を調べるためだった。
リビータと店主の会話が勇者の耳にも入っていく。
「はい。リビータさんが卸してくれた卵のお陰で毎日繁盛してますよ」
「それは良かった。それで卵の効果のほどはどうですか?」
「そうですね。概ねエルヴィスさんに聞いたお話でほぼ間違いないかと思います」
「そうですか。一応まとめた物を頂いても良いですか?」
「分かりました」
リビータは店主と話しながら卵の性能について確認を取り、卸す代わりに書く約束になっている報告書を店主から受け取った。
それを聞いていた勇者は、リビータがこの凄い卵を卸している人物だと理解する。そして、もしかしたらこの人なら卵以外に勇気が出る食べ物やアイテムを知っているのではないかと考えた。
「それではまた来ますね」
「はい、ありがとうございます」
用事を済ませたリビータは店の外に出ていく。
「すみません。お勘定お願いします」
「あ、はーい!!」
このチャンスを逃すまいと一気にTKGをかき込んで食べ終えた勇者は、店員を呼んで会計を済ませてすぐにリビータの後を追った。
「あの人は……」
勇者は外に出るとリビータの姿を探す。彼の姿はすぐに見つかった。リビータは馬車に乗り込むところであった。
「よし、あの馬車を追いかけよう」
勇者はリビータの正体と情報を得るために馬車の後を尾行する。十分ほどついていった結果、その馬車が辿り着いたのはエルヴィス商会。
「ここに行けば何か分かるかもしれない……」
馬車が入っていた建物を見て、藁にも縋る思いで勇者は商会の敷居を跨いだ。
「いらっしゃいませ、何かご入用ですか?」
中に入ると平の職員が勇者を出迎える。
「あの、すみません。力が漲る卵についてお聞きしたいんですけど……」
「えー、大変申し訳ございません。あの卵に関しましては何もお話しすることができないのです」
勇者は早速卵の事を尋ねるが、職員は今までも同じような質問を受けており、上からのお達しでその話題に関しては一切答えないという方針になっているので、頭を下げて断りを入れる。
「これを見ても、ですか?」
「これは!? 少々お待ちください!!」
しかし、次に勇者が露にしたものを見て、職員は自分の権限ではどうしようもない相手だと悟り、エルヴィスとリビータを呼びに走った。
すぐにリビータとエルヴィスが別々に勇者の前に現れる。
「すいません、お待たせいたしました。何かお知りになりたいとか?」
エルヴィスが代表して勇者に話しかける。彼らが現れたのは少年が見せたのが王族に縁のある者だと分かる品物だったからだ。
「はい。どうしても勇気が出る食べ物を知りたいんです。どうにか教えていただくことはできませんでしょうか?」
「なるほど。勇気が湧いてくるアイテムですか……すぐにはお答えできませんが、少しお調べしますので、数日お待ちいただけますか?」
エルヴィスと言えど一国の王を相手にするのは少し分が悪い。
少々考えた末にエルヴィスはアイギスなら何か持っている可能性があると考えた。ただ、あくまで予想でしかなったので、こちらとしては確認を取るために数日の時間を貰いたかった。
「わ、分かりました」
少年も情報さえもらえるなら後数日くらい時間がかかったとしても問題ないので、エルヴィスの提案に頷いた。
数日後。
「無の大地に行けば、もしかしたら何か見つかるかもしれませんよ」
そう言われて渡されたのは無の大地と呼ばれる場所までの道を示した地図だった。少年は地図を受け取って更なる食材かアイテムを求めて旅立つのであった。
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