第118話 祝いの宴

 牧場の案内や従業員の紹介、そして料理を食べたりしていたら圧倒間に時間が過ぎていつのまに辺りは夕焼けに包まれていた。


 時間も時間なので俺達はそろそろ夕飯の準備をしなければならない。顔合わせも済んだし、今後魔王に個人消費分の食材を卸すことも口約束ではあるが、契約を結んだ。


 一応用事は済んだはずだ。


「そろそろ日が暮れるな。魔王はどうするんだ? そろそろ帰るか?」


 そこで魔王にどうするのか尋ねる。


「ん。そうじゃのう……」

「魔王様……そろそろ帰りませんと……」


 魔王は顎に手を当てて思案するが、ジムナスが魔王の耳元で何かを囁いている。


「もしよかった夕飯を食べてくか?」


 特に用もないのならと思って俺は彼女を夕飯に誘ってみる。


 昼も滅茶苦茶美味そうに大根鍋を食べていたからな。あれだけ俺達で作った食材を美味そうに食べてくれるのなら生産者冥利に尽きる。


「おお!! それはいいな!! ぜひご相伴に与らせてもらうのじゃ」

「魔王様!!」


 魔王は嬉しそうに提案に乗ってきたが、ジムナスが咎めるような口調で彼女を呼ぶ。


「ジムナスは一々うるさいのう!! 決めたったら決めたのじゃ。魔王城の部下達には上手い事言っておくように!!」

「え、それじゃあ、私が夕食を食べられませんよね!?」


 魔王はうるさそうに耳を塞ぎながら、姑のように一々小言を言ってくるジムナスを魔王城に帰らせようとする。


 それを聞いたジムナスは悲鳴のような声を上げた。


 どうやら魔王だけがウチの料理を食べるのがズルいと思っているようだ。


「じゃあ、お主もグチグチと小言を言うでないわ」

「明日怒られますよ」

「一緒に怒られればいいじゃろう?」

「はぁ~、分かりましたよ」

「うむ、それでいいのじゃ」


 二人で何度か言い合いをして、お互いがすっきりとした表情になった。


 どうやら魔王とジムナスさんの間で何やら決まったらしい。


「それで食べていくのか?」

「うむ。折角招待してもらったからの。ぜひご一緒させてもらうのじゃ」

「不詳このジムナスも魔王様と共に参加させていただきます」

「分かった」


 夕食を食べていくことになったようなので、二人の分も追加で調理をする。とはいえ、俺達が出来るのはドワーフの煮込み料理くらいなので然して変わらない。


 そこで俺達は、ドワーフ監修の下、昼の大根鍋とはまた別のピリ辛で濃厚なブゥタのホルモンを使った煮込み料理を巨大な鍋で作り上げた。


「くぅ~、いい匂いがするな!!」

「これは中々食欲のそそる匂いですね!!」

「胃袋を刺激する匂いですな、これは」


 そうこうしている内に、高位古代竜たちを筆頭にして、ウチに住んでいる人型の存在達が集まってくる。


 ペットやドラゴン達は自分たちの厩舎で待機だ。数の多いのと、体が大きすぎて広場に収まりきらないからな。


 家畜たちのご飯は俺達とは別に作っている。ただ、ドラゴンに関しては基本的に魔力を多分に含んだここの水と自分たちで狩りで済ませるという話になっている。


 彼らの分の料理まで作っていたら正直手も食材も足りなくなるからな。彼らも水があればそれでいいと言っているので、非常に感謝している。


「よーし、やっぱり仕事終わりはこれを飲まないとな!!」


 その後で、仕事を終えたドワーフ数人が巨大な樽をいくつか抱えてもってきた。あの樽は確か酒蔵にあったものだったはずだ。


 だからそれが何かある程度予想できた。


「おお!! それはもしかして!!」

「そうだ。ビールが完成したんだ!!」


 そう、それはビール。ドワーフの里で飲んで以来、あのシュワシュワした感触と、喉を通り抜ける際の爽やかさや清涼感が何とも言えず癖になる。


 それが完成したとあって俺もテンションが上がってしまった。


「早かったな!!」

「それが、ここの食材と水を使ったら数日で出来上がってな。まさかこんなに早く出来ると思わなかったが、出来は保証するぞ」


 俺はあまりに出来上がるのが早いことが気になったが、どうやらウチの食材と水が酒に適しすぎてすぐに良い物が出来上がったらしい。


 しかもペロリと舌を出している所をみると、あれはちゃっかり味見まで済ませている顔だ。


 これは飲まないわけにいかないだろう。


「よくやってくれた。量は気にせずに今日は出来たビールを飲めるだけ飲もう」

「いいのかよ!!」


 俺の提案にブリギル達ドワーフは目を真ん丸にして驚いている。


 それもそのはず。彼らはかなりの大酒飲み。彼らが量を気にせずに飲んだら、かなりの量の酒が消費される。


 しかし、今日はうちの食材で初めてできたビールのお祝いだし、せっかくお客さんの魔王とジムナスさんもいる。それに、今の所酒はウチでだけ消費するものだから、納品しなければいけないわけでもない。


 だから、今日は皆に気持ちよく酒を飲んでもらいたかった。


「勿論だ。今日は祝いだ。勿論魔王とジムナスさんも飲んでくれるよな!!」

「うむ。妾も酒は好きじゃ。それがドワーフが作ったもので、原材料はここの食材を使用していると聞けば、飲む以外の選択肢はないのう」

「それほど強く勧められては仕方ありませんね。勿論いただきますよ」


 魔王たちからも快く酒を飲んでくれるというので、早速俺達はビールの完成の祝杯と彼らの歓迎会を兼ねた祝宴を挙げた。


 その日はいつまでも牧場に笑い声が響いていた。

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