第111話 魔王様は頭が痛い(第三者視点)
「無の大地の牧場主は不敬だから即刻抹殺しましょう、とのことです」
「なんじゃと!?それ本気か?」
信じられない言葉を聞いて驚愕する魔王。
「部下の部下からの報告は、ですが」
「一体誰を送ったのじゃ?」
「アホールです」
ジムナスが涼し気な表情で答え、魔王は訝し気な視線を送る。
「なぜあのバカを送ったのじゃ!!丁重にと言っておったであろう!!」
「それが、あの者が「私が連れてくる」と勝手に立候補して止める間もなく、出て行ってしまったそうです」
憤慨する魔王に、ジムナスは忌々し気に答えた。
アイギスの牧場を訪れたのはアホールという魔族。
この魔族は無駄に力の強い魔族の家の血を引いていて、アホなのだが軽々に処罰するわけにもいかず、独断専行や人間を見下すのおかげで魔族にとっては頭の痛い存在であった。
「アホールのやつは名前の通り本当にアホな奴じゃな……」
「はぁ……おっしゃる通りです」
魔王は頭を頭を押さえ苦々しい表情になり、ジムナスもその心情を理解するように苦笑いを浮かべた。
「それで、実際はどうだったのじゃ?」
「そうですね。無の大地には実際に牧場がございました。しかも普通の牧場ではございません」
「そうか……」
頭の痛いアホールの問題は放っておいて、本題に移る。
当然アホールだけに任せることはしていなかったジムナスが報告を始めた。彼の言葉を聞いて思案顔になる魔王。
未だに信じがたいが、きちんと調べた上であるというのならあるのだろうと考える。
「はい。まず無の大地にあるはずのない水が川となって流れておりました。その水は非常に澄んでいて、清浄な力を宿しているそうです」
「なに!?本当か!?」
一つ目の報告から魔王は目を見開いた。
それもそのはず。あの地に川などある訳がないからだ。地面は何人も破壊できない地盤。そこに川などできようもない。
「ええ。その牧場の中心には木の最上位精霊の化身たる大樹の成木が聳え立っております」
「は?」
続いた言葉で魔王は目が点になった。川の件もそうだが、二つ目の話はさらに信じたい内容だった。
「さらに、あの真っ平らな破壊不能な地面が耕され、畑が作られておりました」
「いや、そうではない。その前の話じゃ。いや、今の話も全く意味不明じゃが」
魔王の反応を無視して続ける報告を止め、その前の話を尋ねる。
「そうですね。あの牧場には最上位精霊の依り代であろう大樹が牧場の中央に青々と茂っておるのです。一体いつ深淵の森から代替わりしたのか分かりませんが、すでに立派な大木として牧場の象徴になっているそうです」
「妾、すでに頭がパンクしそうなんじゃが?」
詳しい話を聞いたことを後悔しそうになる魔王。
なぜなら最上位精霊は深淵の森を支配していて自分達も迂闊に手を出せない相手。
そろそろ代替わりなのは知っていたが、それほどの相手が自分達も気づかない間に無の大地に新しく根を張り、尚且つ何十年、何百年とかけて成長するはずのその体がすでに成木になっていることは理解しがたい話であった。
「はい。私も報告を受けた時は自分がおかしくなったのではと思いましたので、魔王様の反応は間違いないかと」
「はぁ……続けよ」
ジムナスは魔王の様子に苦笑し、魔王もあまりの情報量の多さに眉間を揉んで辟易となりながら報告を続けさせる。
「はっ。その周りの耕されている土地には畑があり、そこには青々とした農作物が生えており、それらをエルフたちが世話をしておりました。そして、それらを守るようにシャイニングバード、セイクリッドモフィ、アルティメットブゥ、ヒーリングシープが放し飼いにされております」
「……」
「さらに牧場全体の警備としてベヒーモスを筆頭としてシルバーフェンリル――」
「待て待て待て……」
報告を止められなかったジムナスはそのまま続けようと次の話に移ったが、魔王に止められた。
魔王は話を止めなかったのではない。止められなかったのだ。あまりに驚いてしまったからだ。
その放牧されているモンスター全てが伝説と言われるほどに希少かつ強い力を持ったモンスターで、誰かに従うなどという話を聞いたことがなかったのである。
しかも続けられたジムナスの話にはさらにおかしな名前が並んでおり、一度話を止めざるを得なかった。
「はい?」
「もうどこから突っ込んだらいいかわからん」
話を止められたジムナスが首を傾げ、魔王は苦悶に満ちた表情で首を振った。
「私もそう思います」
「はぁ……どうしたらいいのじゃ?」
これ以上話を聞いても埒があかなそうだと思った魔王が尋ねる。
「牧場主は魔王様がくるのなら話を聞いてもいいという言っておりました。直接出向くのが早いのではないでしょうか」
「そうか。それなら牧場主の通り、妾が直接出向こうではないか。その牧場にはそれだけの価値がある」
「そうですな」
「早速準備を進めるのじゃ」
「ははっ」
こうして魔王はアイギスの牧場に直接出向くことになった。
それらの元凶であるアイギスも驚愕のオンパレードであることをまだ魔王は知らない。
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