何故か集まってくる!!

第110話 やっと手に入れた生活を乱す者

 エルヴィスさんにヒーツジ毛を卸すようになってから一週間。


「ふぅ~、癒されるなぁ」


 俺はやっと手に入れた少しゆっくりとした生活を満喫していた。


 エルヴィスさんに納品する分の農作物はエルフ達が育成し、成果物をレッドドラゴンと竜人達が運び、ドワーフたちが道具を作ったり、馬車を改良したりして仕事効率が向上して彼らだけで回るようになっている。


 ただ、動物たちの世話は基本的に俺がやっていた。なぜならモフモフと戯れるのは素晴らしいからだ。それにチキンバードは自分たちで卵を決めた場所に自分たちで持って行ってくれるので、俺たちがやるのは彼らのブラッシングと乳しぼり、肉拾い、毛刈り、そしてそれぞれ厩舎の掃除くらいだ。


 掃除も、彼らは頭も良くて各々綺麗好きだし、買ってきた排泄用の魔道具もあり、あまり汚れないのでそれほど手間じゃない。だから本当に俺がやっていることはたいしたことじゃない。


 それが終わった後は、ただモフモフと戯れながらのんびりとする。


「全く……我をもっと構えばよかろう」


 しかし、動物に構いすぎると何故かソフィが不機嫌になって俺の傍にやってきてピトリと俺に体を寄せてくる。


 今も隣で大きくなったチャチャの腹に二人で横になっていた。


 全くドラゴンだからか、俺を意識していないせいか距離感が近くて時々本当に困る。ただ、俺も最初の内は体がビクリとなるほどに驚いていたが、夜寝るときと言い、頻度が多くなれば徐々に慣れてくる。


 今ではそれくらいではなんとか動じずに済むようになってきた。


「グォオンッ」

「ワフッ」

「コッコッ」

「モーゥ」

「メェー」


 そして俺の周りはチャチャの他にもモフモフたちに囲まれていた。本当に幸せすぎるひと時だ。できることならこの時間が永遠に続けばいいと思うほどに。


 しかし、俺の願いは虚しくそんなゆっくりした時間は続かない。


「ん?」


 ソフィが何かを感じ取ったらしく、閉じていた目を開いて上体を起こす。


「どうした?」

「どうやら来客のようだぞ?」

「またか……」


 俺も体を起こして尋ねると、こんな辺境にまた来客らしい。


「なかなか骨のあるやつだと嬉しいんだがな」


 ソフィは気の長いドラゴンだけにのんびりと過ごすのも好きだが、それと同じくらい刺激的な物も好きだ。


 だから来訪者だと気づいて嬉しそうにしている。


「俺は全然嬉しくない。はぁ……仕方ない。行くか」

「うむ」


 俺としてはこんなところまでやってくるやつは大抵面倒な奴だと分かってきたので、思わずため息が出る。


 しかし、対応しないわけにも行かないから、気持ちを切り替え重い体を持ち上げてソフィの感知から少し遅れてやってきた銀狼達に連れられ、チャチャに乗ってその来客の場所に向かった。


「ひぇえええええ!?シルバーフェンリルの群れってどんな冗談だ!?」


 そこにはソフィが角を生やしているように翼を生やしているイケメンが銀狼達に転がされて叫んでいる。


 幸い殺していないのでボロボロになりながらも生きていた。


「おまえら、放してやれ」

『ウォン』

 

 俺の指示によって銀狼達が男から離れる。


「お、おい、俺が誰か分かっての狼藉か!?」

「お前みたいなやつは知らん。ここは俺の牧場だ。ここのルールに従わない奴は敵だ」


 なんだか知らないが偉そうに言うこいつに威圧を放ちながら言い返した。


 ここでは俺がルールだ。


「ひっ!?……い、いいのか!?そんなことをすれば魔王様と敵対することなるぞ?」


 魔族は俺の威圧に怯えながら吠える。


 おいおい、俺程度の威圧でそんな状態になるなんてどれだけ弱いんだ?


 しかし、こいつは何を言っているか分からないな。


「魔王?なんだそれは」

「魔王様を知らないだと!?なんて不敬な奴だ。ここで俺が成敗してくれる」

「できるならやってみろ。お前達は手を出すなよ」

「なめた真似を。ただの人間ごときが魔族である俺に適う訳がないであろう!!」


 よくわからないが、魔族が俺に襲い掛かってきたのでそのまま受け止める。


「なっ!?」

「どうした?そんなものか?」


 俺が全くのノーガードで受けて上で無傷だったことが信じられなかったのか驚愕する魔族に、ニヤリと笑って挑発してみる。


 ソフィほどの圧力も感じないし、問題ないだろう。


「ふふふふっ。いいでしょう。とっておきを見せてあげますよ!!」

「なんでもいいからさっさと打って来いよ」

「その言葉を後悔させてあげますよ」


 男は俺から飛びのいて何やら呪文を唱え始める。


「大丈夫だと思うか?」

「あの程度問題なかろう」


 念のため、少し離れてみているソフィに確認してみるが、どうやら問題ないらしい。


「ふははははっ。もう命乞いしても遅いぞ!!」

「いいから四の五の言わずやれよ」

「どこまでも舐めたやつだ。ここで死ぬがいい。デスサンダー!!」


―ドォオオオオオオンッ


 すさまじい稲光と共に俺に黒い稲妻が落ちる。


 あぁ。按摩みたいで気持ちいいな。


 その魔法は俺にとってその程度だった。


「あーっはっはっはっ。どうだ、それみたことか。俺に逆らったからだ」


 まだ煙が晴れていないのに俺が木端微塵にでもなったと思っているんだろうか。


「ふんっ」

「ひぇえええええ!?なんで無傷!?」


 俺が煙を吹き飛ばして全くダメージのない姿を見せたら、男は腰を抜かして俺に怯えながら問いかけてきた。


「いや。お前の攻撃が単純に弱すぎるからだ」

「化け物……」


 俺が事実を言ったら、呆然として心外な言葉を吐く魔族。


 いきなり襲い掛かってくるような礼儀知らずには言われたくはない。


「失礼な……とにかく用事があるならその魔王ってやつを連れて来い。話くらいは聞いてやる」

「くそっ!!覚えてろよー!!」


 俺が手で追い払う仕草ををしたら、魔族の男は捨て台詞を吐いて去っていった。


「はぁ~、せっかくの気分が台無しだ。今日は焼き肉パーティでもするか」

「それはいい」


 変な奴が絡んできたせいでげんなりしてしまったので気分を変えるために今日の夜は宴を開くことにした。

 

 ソフィも嬉しそうに笑ってくれたので問題ないだろう。


 その日は不愉快な出来事を忘れるために従業員たちと楽しく飲みまくった。

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