第109話 狂気の目
「いやぁ、アイギスさんお久しぶりです」
「ああ。久しぶり。元気だったか?」
「はい、それはもう」
それからひと月ほど経ち、俺達の従業員たち全員分の布団が完成した後でエルヴィスさんと久しぶりに再会していた。
布団はドワーフ、エルフ、竜人それぞれにとても人気だったし、無償で提供したら物凄く感謝された。
いつもの半分の時間しか寝てなくても全てが快調になるし、日中全く眠くならないし、めちゃくちゃ元気になることが分かったので、その分を各々好きな時間を過ごすことに当てて過ごしているようだ。
エルフはシルや農作物の世話をしながらシルの麓で過ごす者が多く、竜人達は戦闘訓練をしたり、獣の山で狩りに出かけたりするようになり、ドワーフは好きなように鍛冶や酒造りに励みだした。
そのおかげで農作物の質がさらに向上したり、竜人達からブゥタ以外の肉が提供されたり、農具がレベルアップしたりするという成果を齎した。その分ウチで獲れた成果物と日々の暮らしの保証くらいでしか返せないのが心苦しい。
それと、ウチの動物たち用にヒーツジの毛を使って寝床を作ってやったら、次の日から物凄く元気になって大変だった。
ただ、そのおかげもあり、森からの虫は銀狼達が狩り殺すスピードが上がったし、ブゥタの肉、チキンバードの卵、ヒーツジの毛の品質もさらに高まった。
それとは別に、ドワーフが来たことにより、その中で多少料理が出来る者がいたので、俺達は少しだけ料理のレパートリーが増えた。
とは言え、ほんの少しだけだが。
基本的には濃い味付けの煮込み料理にするだけなんだが、それをウチの農作物や畜産物やったらあり得ないほど美味い料理に変貌するので、暫くの間ずっと煮込み料理を食べていたくらいだ。
それにコッメとあり得ないくらい合うので、俺とソフィーは何杯もおかわりしてしまったのは言うまでもないことだろう。
「おい!!この食材も酒の原料にしていいって本当か!?」
「ああ。ここにある材料はどれを使ってもいい。ただ、その分ドワーフたちにその食材の育成に協力してもらうがな」
「する。するぞ、いくらでも!!やってやらぁ!!」
また、俺がどの農作物もその分自分たちで育成するなら使ってもいいと許可を出したら、いくらでも手伝うという話になり、すぐにビール用以外の酒蔵も建つことになった。ビールじゃない酒を造るには年単位でかかるらしいので気長に待とうと思う。
さぞかしうまい酒ができることだろう。
「ガッハッハッ!!酒なら俺も手伝うぜ!!」
ウチの居候?
実際には敷地から微妙にはみ出しているので隣人兼従業員というのが正しい気がするが、バッカスも酒造りに参戦してドワーフたちと語り合いながら作業に従事し始めた。
勿論通常業務は減らしてやらなかった。
そんなこんなでこの一カ月でヒーツジの毛によってウチの牧場は色んな恩恵を受けることとなったのである。
成果物の価値が上がり、少しだけ従業員たちが気持ちよく働ける牧場になったのではないかと思う。
「そうか。それは良かった」
「それで今日は何の用件でしょうか?」
「分かってるんだろ?アレの件だよ」
「うむ」
エルヴィスさんがソワソワしながら白々しく用件を聞いてくるので、ソフィに目配せしながら話を進める。ソフィは俺の目線に頷いてヒーツジの毛を取り出した。
「おお!!やっとカーン商会にも卸していただけるのですか?」
「そ、そういうことだ。で、でも、他の農作物程は卸してやれん」
ひぇ!?
俺はエルヴィスさんの目に狼狽えながらも返事を返した。
彼の目はなんだか鬼気迫るというか、どこか狂気を孕んでいる気がして、絶対にこっちにノーとは言えない雰囲気を放っている。
あのヒーツジの毛は俺でも素晴らしい品質だというのが分かる。彼にしてみれば金の生る木に見えているのかもしれない。
そこまで沢山売れるのかというのは俺には分からない。でも、大きな商会を持つ彼が欲しがると言うのはそういうことなんだろう。
やはり商人というのは利益に貪欲というのは間違いない。
「ええ。ええ。それは構いませんとも」
「はぁ……卸せる量は後で倉庫に出してみせるからそれで上手い事やってくれ」
「承知しました」
俺の返事に先ほどまでの狂ったような雰囲気はどこかに霧散して嬉しそうににっこりとした笑みを浮かべて何度も頷くエルヴィスさん。
その態度によって俺は問題なさそうだと安堵する。
ただ、これまではこっちが出せるだけ出していたが、それでは俺の時間が失われるだけだと気づいたので、あらかじめ出せる量を決めておくことにした。
今までの分はしょうがないが、これからは絶対自分ののんびりした時間は確保してみせる!!
俺が牧場をする目的はモフモフとのんびりとした生活を送ること。それは忘れてはいけない目標なんだ。
これからも諦めるわけにはいかない。
モフモフに懸けて!!
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