第108話 の、伸びてる!!
「ふわぁ~」
翌日。俺は目を覚ますと、まだ夜は明けきっていないようで薄暗かった。しかし、体はしっかりと疲れが取れていて凄く快調だ。
これもこの素晴らしい寝心地の布団のおかげだろうか。しかも心なしかいつも以上に体が軽い気がする。全くヒーツジの毛っていうのは素晴らしいな。
「すー……すー……」
「普段はあんなに偉そうなのに寝てる姿は相変わらず子供みたいだな」
隣ではソフィがスヤスヤと警戒する様子もなく寝ていた。
彼女はドラゴンを模した寝間着を着ている。勿論元のままではなく、なんというか可愛らしい感じに改変されたものだ。自分がドラゴンなのにそれでいいのかと思う。
まぁこの寝間着をきたソフィは可愛いから眼福で俺にとってはいいことなのだが……。
ちなみにこれはベッドとは別に余った分を使ってサービスでチロルさんが作ってくれた寝間着だ。この寝間着もとんでもないリラックス効果があって、着てるだけで滅茶苦茶癒され、まるで湯にでも使っているかのような幸福感を得ることが出来る。
服といい、布団といい俺はとんでもない物を手に入れてしまったと実感した。
それはそうと、最初からそうだが、こいつは警戒心がなさ過ぎる。
全く俺に襲われたらどうするつもりなのか。
俺にそんな度胸があるわけないがな。
俺の傍だと安心するともとれるし、男として意識されていないともとれる。なかなか難しい問題だ。
そもそもドラゴンが人間の男を好ましく思ったりしないかもしれないが。こっちとしては見た目が人間にしか見えなくなっているのでドキドキしてしまうというのに。
「もう少し寝るか……」
もう完全に回復していつも同じくらい寝たような感覚があるが、折角のんびりと生活するためにここに引っ越してきたんだ。二度寝を堪能するのも悪くないだろう。
俺は再び目を閉じる。何を考える間もなく眠りに落ちた。
「アイギス、そろそろ起きろ」
「んあ?」
気付けばまだ寝間着のままのソフィに起こされることになった。
「よく寝ていたな」
「いやぁ、このベッドと寝間着がとんでもなく心地よくてな」
「それは我もこの身で体感した故よく分かる。我も起きたのはついさっきだ」
微笑むソフィに上体を起こして体のあちこちを動かして調子を確かめながら返事をしたら、彼女も俺の言葉に賛同するように頷いた。
俺が一度起きた時に気持ちよさそうに寝ていたからな。
「ヒーツジを受け入れてよかったな」
「うむ。この品は我の国でも販売したいものだ」
「その辺りはエルヴィスさんとヒーツジたちと相談だな」
「分かっている」
俺もソフィもすっかりヒーツジの毛製品の虜になってしまった。
ただ、口約束とはいえ、エルヴィスさんに売ると約束しているからな。エルヴィスさんを通さずに勝手にドラクロアに売る訳にもいかないだろう。
そんなことをしたらエルヴィスさんからの信頼を裏切ることになる。もし仮にやってしまったら、俺が商売するのは難しいことになるかもしれない。
エルヴィスさんも信頼が一番大事だと言っていた。蔑ろにする訳にはいかない。
ソフィも元統治者だからそういう話は理解しているようだ。
「それじゃあ、今日はヒーツジ達の様子を見たらエルヴィスさんの所に行こう」
「うむ」
俺達はヒーツジの許に向かった。
「え?」
「む?」
ヒーツジのいる厩舎に足を踏み入れ、ヒーツジを見た瞬間俺達は目を疑った。何故なら、ヒーツジの多くが毛が伸びていたからだ。
たった一日しか経っていないのにヒーツジの毛は、昨日刈る前と同じ状態になっていた。
「こんなことって……」
「まさかな農作物だけではないとは……」
俺とソフィは目の前の光景に呆然とするほかなかった。
「メェ~」
「メェ~」
「メェ~」
「メェ~」
「メェ~」
ヒーツジ達が俺達を見つけるなり毛を刈ってくれとおねだりするように群がってくる。
「どうやら毛を刈って欲しいようだぞ」
「それは視れば大体わかる。仕方ない……この毛を手土産に持っていこう」
「うむ。その方が覚えもめでたかろう」
俺が思っていたことは正しかったらしく、俺達は少しゆっくりとした生活ができるようになったはずの時間が使ってヒーツジの毛を刈ることに没頭した。
気づけば昼を過ぎていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます