第071話 え、何この人、怖いんですけど!?(第三者視点)
ここは獣の山のさらに奥にある林を抜けた先にある草原。その草原には支配者として一つの種族が存在していた。
それは見た目はウシモーフそっくりの存在。その名はセイクリッドモフィ。本来のウシモーフはその見た目通り鈍重であり、性格も温厚で、ある程度の肉食獣に見つかれれば、あっさりと食料になってしまう程度には弱い。
しかし、一方でセイクリッドモフィは、性格は獰猛で、縄張りが侵されたと分かればすぐさまその相手に襲い掛かって痛い目を見せたり、自身の襲い掛かってきた相手は容赦なく殺してしまう。
見た目が鈍重にも関わらず、実際にはとんでもなく俊敏でAランクモンスター程度なら簡単に殺してしまうほどだ。群れとなれば、シルバーフェンリルの群れ、とまではいかないもののそれに近い強さがあった。
さらに、その名の通り強い浄化の力も持っていて、弱いアンデッドであれば近づいただけで浄化してしまう存在でもあった。敵は暴力で撃滅。まるで破戒僧にような立ち位置のモンスターである。
「この草めっちゃウッマ!!」
そんなセイクリッドモフィの一匹が今日も呑気に草原の草を食べてご満悦の声を上げていた。
「なんだ?」
しかし、その平和を脅かすものが現れる。彼の体に影が掛かり、セイクリッドモフィは空を見上げた。
そこにいたのは空を飛ぶトカゲと呼ぶにふさわしいモンスター、いわゆるわいバーンであった。
「はぁ……また性懲りもなく俺たちの食事を邪魔しにきたのか……全く忌々しい」
セイクリッドモフィはうんざりするようにため息を吐く。
それもそのはず。ワイバーンは知能が低く、仮に群れで襲ってきて返り討ちにされたとしても同じように襲い掛かったりするのだから。
「それじゃあ、すぐに終わらせるか」
セイクリッドモフィは呟いた後で地面を思い切り蹴って飛びあがり、ワイバーンの頭上まで移動すると、ワイバーンはあっさりとセイクリッドモフィを見失い、あほ面まるだし、セイクリッドモフィの姿を探すが、次の瞬間には地面に叩きつけられてしまった。
ワイバーンはAランクモンスターでおつむは残念だが、そのランクに恥じないだけどのタフさを持っている。そのため、セイクリッドモフィの一撃では死ななかった。
かなりダメージを受けていてフラフラになっているが、それでも本能によってセイクリッドモフィめがけてブレスを放つ。しかし、あっさりと空中で移動されて交わされた挙句、脳天に思いきりかかと落としをお見舞いされて、お亡くなりになってしまったのである。
これで再びのんびり草を食べるのに集中できる。
しかし、そんなことを考えたのもつかの間、さらに別のモンスターが彼に襲い掛かった。
それはたまに集まってくるアンデッドであった。
「はぁ……こいつらもホント次から次へと湧いてくるよな……」
その姿を視界に入れたセイクリッドモフィはまるでゴキブリでも見るかのような目でアンデッドを見つめた後、体から眩い光を放つ。それにより、アンデッドたちはあっさりと浄化されてしまった。
今度こそ、ゆっくり草を堪能できると安堵したセイクリッドモフィであったが、最悪の存在が彼の下にやってきた。
それは一見ただの人間に見えた。
「うぜぇえんだよ!!どっかいけ!!」
そんな気持ちでセイクリッドモフィはその人間に体当たりを仕掛けた。たいていの人間であれば、その勢いに逃げ出し、それ以降ちょっかいを出してこなくなるくらいには迫力も威力もある攻撃だ。
しかし、その人間は全くよけるそぶりもなく、唯々その体当たりを受け入れた。
―ズドンッ
まるで交通事故でも起こったかのような轟音が鳴り響く。
人間を殺してしまったかもしれないが、それは体当たりをよけなかった人間が悪いし、俺は草をのんびり食べられれば、殺そうが、逃げようがどっちでもいい。
そんなことを考えた矢先だった。
セイクリッドモフィは土煙の先から出てきた二つの腕にガッシリと抱え込まれてしまったのだ。
「えっ!?」
「おー、ヨシヨシ。俺に会えたのが嬉しいんだな?」
セイクリッドモフィは抱え込まれた腕から抜け出そうとするが、全くびくともしなくて狼狽えて変な鳴き声を漏らす。その人間はじたばたするセイクリッドモフィが喜んでいると勘違いして、一層ワシャワシャと撫で始める。
一体だれがそんなことをしたかと言えば、それこそ最硬の男アイギスであった。
高位古代竜の本気の攻撃さえノーダメージの彼にはセイクリッドモフィの攻撃など子猫がじゃれてきたと同義である。
そのため、喜んでいると勘違いしたわけだ。
それからもやることなすこと裏目に出て、アイギスに可愛がられてしまうセイクリッドモフィ。
「助けてくれぇえええええええ!!」
彼はこうなればと、恥も外聞もないが、この草原にいるはずの仲間たちに向かって救援を求めた。
『待ってろ!!今助けてやる!!』
彼らは近づいてアイギスに襲い掛かる。
これでこいつは離れるだろう。
そんな考えを抱いたセイクリッドモフィだったが、その目論見は完全に外れてしまった。確かにアイギスはセイクリッドモフィから離れたのは間違いないが、アイギスは全てのセイクリッドモフィを放り投げては次のセイクリッドモフィを放り投げるという行為を繰り返した。
なぜわざわざ後から来た個体の体当たりをわざわざ受けるようにしているのか理解できなかったセイクリッドモフィではあるが、自身たちの攻撃では目の前の人間に一切のダメージを与えることはできないということを悟り、それ以上の思考を放棄してあきらめた。
最後まで全くセイクリッドモフィたちの言葉はアイギスに届くことなく、アイギスは彼らにとって非常に恐ろしい存在となったのである。
そして、疲れ果てるまで体当たりを繰り返した彼らは、あきらめるようにアイギスの牧場に迎えられることになった。
『ひぇ!?高位古代竜様!?』
『ぴゃ!?山の主様!?』
『えぇ!?シャイニングバードじゃないか!?』
『はぁ!?シルバーフェンリルもいる!?』
牧場について彼らはさらに驚くことになる。ソフィとチャチャの正体を見せられたり、自身たちと同等の存在が複数アイギスに従っているからだ。
それによりさらにアイギスには逆らってはいけないという気持ちが彼らに湧いたのは至極当然の結果であろう。
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