第048話 なんでこんなに繁盛するの?
「こんにちはー」
「きたぞー」
俺達はあれから数日おきに町にやってきている。一応どこまでソフィでやってきても大丈夫なのかも実験をしていたら、なんとかその日のうちに往復できるようになった。
ソフィなら暗くなっても問題ないので、極力一日で帰るようにしている。ただ野菜を売るためだけだというのに二日かけるのは勿体ないからな。勿論ほかに用事ができたりしたら泊りがけになることもある。
まぁこれができるのもソフィがいる内だけなんだが。
本来は行き帰りで四週間かけて売りに来なければならないことを考えると、ソフィがいなかったらものによっては売ることもできない作物も沢山あったかもしれない。
本当にソフィのおかげで助かっている。
そう考えると、ソフィがいつまでいるかもわからない以上、そろそろ各野菜がどのくらい持つのかという実験をする必要があるかもしれない。
ただ、その実験をしている暇と場所、労力があるかは別として。
「あ、こんにちは。アイギスさん、ソフィさん、いつもありがとうございます。ささ、倉庫に参りましょう」
俺たちが店に行った時は、必ずエルヴィスさんが対応してくれる。その様子を見たお客さんは俺とソフィに驚愕の視線を浴びせるが、おそらくエルヴィスさんは余程のことがなければそんなことはしないのだろう。
だから、俺たちは余程のことだと思われているのだろうな。ただ美味いと自信がある野菜を売りに来ているだけなのに。エルヴィスさんは律儀にも俺たちが命の恩人だからって自分で対応してくれてるんだ。
彼みたいな偉い人の時間を俺たちが使うのは、少し申し訳なさがある。いや、ソフィは元神様だから、低い立場なのは俺だけか?
いやいや、ソフィも今は引退してただの居候ドラゴンなんだから身分は関係ないはず。
「それじゃあ、今回の納品分だが……ソフィ頼む」
「うむ」
「おお!!これは凄い」
どうでもいい事を考えながら倉庫に入った俺たちは、徐々に慣れてきた納品作業を行う。
カーン商会から貸し出された一定の大きさの木箱に各種の野菜がグループごとに詰め込まれて排出され、倉庫の一角に積み上げられていく。
その数、それぞれ野菜が約千個ずつ程度。
前とそれほど変わっていない?いやいや、そんなことはない。なぜなら納品する野菜の種類が劇的に増えたからだ。ここで種を買った農作物も植えるようになったのだ。
そしてさらに信じられないことがある。
「あの~、それで非常に言いにくいのですが……」
納品の旅にエルヴィスさんがこうして揉み手で近寄ってくるのだ。
「ま、またなのか……?」
彼の様子に俺はあきれた様子で返事を返す。
「はい。アイギスさんの野菜は高価にも関わらず、あっという間に完売してしまいますからね。ぜひとも納品数をなんとか増やして欲しいんです!!」
「そう言われてもなぁ。今も結構ギリギリなんだよ……」
なぜなら、何を隠そうウチの牧場の農作物滅茶苦茶売れてるからだ。どのくらい売れてるのかって、もう俺とソフィと、銀狼組とチャチャだけで朝から晩まで働いてどうにか栽培と販売ができているというレベル。
ただ美味いというだけで、それ以外は他の場所の農作物と何も変わらないのに、いったいどうしてこんな繁盛するようになったんだ?
俺には全く理解できない。
休みが欲しい!!
のんびりとモフモフの獣たちとのんびり牧場経営をするつもりだったのに、一体どうしてこうなった!?
「人を雇われてはどうでしょうか」
「人は簡単に裏切るから信用できないんだ。信用できない奴に牧場で働いてもらおうという気にはならないな」
人が足りないのなら雇えば良いじゃないと言いたげな表情だが、人間は簡単に人を騙したり、裏切ったりする。
それがたとえ小さい頃から一緒に育った幼馴染だったとしても。平気で裏切ることがある。
だから人を信じて自らの懐に入れるようになるのは、まだ先のことになると思う。
「そうですかぁ。それでは奴隷というのはいかがでしょうか」
「奴隷か……」
奴隷という言葉は聞いたことがあった。奴隷を買った人間に対して絶対服従の
「奴隷なら、魔法契約を結ぶので、主人の不利益になることは話せませんし、出来ません」
「そういう方法もあるんだな」
確かに俺を裏切らない人材ならすぐにでも農業の拡大は可能だ。
「ええ。こちらも出来るだけ良い商会にご案内致しますので、どうかお願い出来ないでしょうか?」
「ありがとう。ただ、一人や二人ならともかく、悪いんだが、人間はあまり入れたくなくてな。別の方法を考えてみる」
「わ、分かりました。こちらも無理を言って申し訳ございません」
しかし、やはり裏切らないと分かっていても人間を入れるのはまだ踏ん切りが付かない。だから、また山から狼みたいな獣を連れてくるしかないだろう。
モフモフが増えるなら大歓迎だ。全く繁盛しすぎて涙が止まらないとはこの事だな。
とにかく今の状況を打破するにはモフモフを増やすしかない。そうすれば忙しさも緩和するはずだ。
俺はそんなことを考えながら帰路に着くのであった。
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