3章 46話 ノバラへ
遭遇したモンスターの数々を警察と例えるなら、間違いなく僕は痴漢を疑われた
冤罪の男で。万が一モンスターに捕らえられよもんなら、
社会的っていうか命まで抹消されて天へと召されてしまう。
だからバカの一つ覚えのように脳内に逃げるのコマンドを選んで、早数日。
「はぁ、はぁ……ようやくたどり着いた、ここがノバラか?」
ようやく童話3匹の子豚に登場するような藁葺きのような建物が見えてくる。
頼みの食料や水も底を尽き、もう体もボロボロで
生きる精も根も尽き果てていた。もしこのまま延長戦に突入したら、
きっと僕は荒野で野垂れ死んでいたかもしれない。
でもまだ油断は出来ない。砂漠でオアシスを発見するも蜃気楼だったって
展開もアニメやゲームではよくある展開の内容だし。
一度ハマったら脱出不可能のありじごくの可能性だって十分にあり得る話だ。
どうする? このままノバラに強行突破して突入するか?
それとも……あれ? あれ? おかしいな? 目が疲れてきているのかな?
ついに幻覚でノバラから2人組の獣耳の男達の姿が見えてきたぞ。
どうせ幻を見るなら綺麗な姉さん達の方が何倍も嬉しいのに。
「ようこそ、このノバラにお越し下さいました。冒険者様」
どうやら幻聴までも聞こえてきた。やっぱり脳も疲れているのかな?
思えば夜もモンスターを警戒して全然寝ていなかったし。
今がもう夜か朝方なのかも分からない。
「立ち話では冒険者様に失礼でしょう。さあ、さあ、こちらへ」
「ちょっとちょっと待って下さいって」
躊躇なく、現実に引き戻される獣人達のボディタッチ。
もし僕が女の子だったら悲鳴を上げて助けを求めていたのだろうか?
相手から接触してくる強制イベントなど想定外過ぎてまだ心の準備がって、
「暖かいご飯も今から準備させますので。さあ、さあ、こちらへ」
「いや、あのその……僕は冒険者ではありません」
「そんな謙遜しなくても構いませんよ、冒険者様」
「いえ、謙遜でなくただ僕はスフレって妖精の手がかりを探しているんです」
「スフレ? 聞いたことない妖精だな? ゴスタンさんは知っているか?」
「いや俺も聞いたことがないぞ。もしかして長老のイスカン様
なら何か知っているかもしれないぞ?」
「そうだな? ちょうど都合がいい。俺たちもイスカン様の
家に行く予定があったんだ。
さあ、さあ、イスカン様の家まで案内致しますで。どうぞ、こちらへ」
「……いやちょっと僕は1人で歩けますって」
「さあさあ遠慮しないでこちらへ、こちちらへ」
獣耳の男達に肩や腰を掴まれ、強引にノバラへと引っ張られていく。
これがネットでよく聞くぼったくりバーへの客引きって行為だろうか?
大都市マガディ違い、ノバラはのどかで田んぼや畑など
栄えている小さな農村って雰囲気だから治安も安心していたのに。
「だから、もう体を引っ張らないで下さいって」
「そんな遠慮しなくてもあなたは立派な冒険者様ですよ。
そのボロボロ服がこれまでのあなたの大冒険を物語っています」
「それは元々の恰好でその流行の……」
あんなにダメージジーンズの穴はかっこいいって思っていたのに。
改めて僕が着ている穴だらけの服を見ると超恥ずかしい。
「まさか、冒険者様が元奴隷だからと言って我々があなたのことを
あざ笑ったりする真似をするはずじゃないですか? そうだろヨルダ?」
「おお、そうだともゴスタンさん。
このノバラに限ってはそんなバカなヤツはいないよな」
嘘でも建前でも余りにも耳に聞き覚えのない言葉だったので、
少し嬉しかった。どうやら僕は褒め言葉に滅法弱いらしい。
「自然の恵みが豊富なノバラへようこそ。冒険者様。
あんたも楽しいことやりたいでしょ。
だったら、これからあたしと一緒にどこかに遊びましょうよ~」
だが安心したの束の間、ノバラに入るとやっぱりやって来ましたよ若い女の子。
足まで届きそうな長い髪が特徴的でこれまた獣耳のつり目な強気の女の子。
ギャバ女みたいに盛った服ではなく男達と同様に着古した
民族衣装でのご登場である。
「こら、ナーニャ。いくら男にもてないからって、
変な色目で冒険者様を困らせるじゃない」
別に後から怖いお兄さんが出てこなければ、全然困っていないんだけどな?
むしろ女の子のとことん奉仕は大歓迎のウェルカム。
是非こちらからお願いしたいところです。
「あたしはこのノバラのことを思って……」
「子供が出しゃばった真似をして父さん達の仕事の邪魔するんじゃない」
「でも……」
「ここは俺に任せて早くお前は家に戻りなさい」
「ナーニャちゃん。父親の言葉はおとなしく聞くもんだよ。
後でお菓子を買ってあげるからね」
「……いーーーだ。ゴスタンさんまで子供扱いして。もういい。
あたしはもうお姉ちゃんと違って、お父さん達のお人形じゃないんだからっ」
「何だその口の利き方は? 今すぐにゴスタンさんに謝るんだ。
じゃないと夕ご飯はなしにするぞ」
「夕ご飯はなしってなによ、あたしをまた子供扱いしちゃってさ」
「お前、この俺にまた殴れたのかっ!」
「もういいよ、ヨルダ。その辺でナーニャちゃんのことを許してやれよ」
「お父さんのバーーーカッーー!」
「あのバカ娘が……」
ナーニャと呼ばれた女の子は台風のごとくギャバ嬢として現れ、
そして騒がしく歯を剥き出しにて親と子のわだかまりを残して消えていく。
「先ほどはどうもお見苦しい所を見せてすいませんでした」
ナーニャって女の子に僕が手を出すって前提で親子げんかまで発展したなら、
ヨルダさんに申し訳ない気持ちっていうか、ちょっと複雑な気分である。
「……は、はい」
そして僕たちはまたしばらく歩き、大きめの民家へと入っていく。
アイテムを物色って訳じゃないけど長老の家は割とシンプルで
中央にある焚き火と左右に壺ぐらいしか特に目立った物はなかった。
「ようこそ、冒険者様。
あなた様が訪れることをずっとずっとお待ちしていましたぞ」
如何にもわたしが長老ですって感じの白い髭を伸ばした
獣耳のイスカンさんが迎えてくれる。
もしかしてこのイスカンさんの万遍の笑みは僕のことを異国の勇者様だと
勘違いしているじゃ……ならこの傍にいる2人組の屈強な男達の行動も頷ける。
「気を落とすかもしれませんが僕は勇者でも冒険者でもありません」
変な期待を持たれても肩の荷が重いだけなので先手必勝の言葉。
そしてまた僕はイスカンさんが口を開く前に本題である言葉を続ける。
「ただあなたに聞きたいことありまして、
僕はスフレって妖精を探しているんです」
「何と妖精をお探しとは? もうイルバーナの近辺の森は探しましたでしょうか?
あの森の奥深くには妖精の国があると聞いたことがありますぞ」
「実はその妖精の国イルバーナから拉致されたのがスフレなんです」
僕のせいでスフレは奴隷になったかもしれないって口が裂けても言えない。
「どうやらかなりの訳ありのようですな?
もう今晩はゆっくりとここで泊まって生気を癒やして下され。
朝から村のみんなにスフレのことを訪ねてみますから、
今晩は安心して眠りな下され」
「はい、ご協力ありがとうございます」
「心配するな、冒険者様。きっとスフレは直ぐに見つかるって」
「腹一杯飯を食べて先ずは冒険者様が元気にならないとスフレっ子に
会わせる顔がないぞ」
なんてこのノバラに住む人々は心が綺麗で美しいなんだろう。
もしこのノバラに召喚されていたら勇様として永遠に祭られていたのかな?
変なことを考えるな? そしたら、僕に親切にしてくれた勝手に友達と
思い込んでいる仲間との出会いを全て否定することになるんだぞ。
また裏切ったら、クラスのあいつらと同類になるのはもう懲り懲りなんだ。
ごめん、カティア。そしてありがとうな。
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