2章 34話 初めての奴隷生活 02
「今宵は良き買い物をしたのぅ」
どっかで聞き覚えがある憎たらしい声が聞こえてくる。
「それはお客様の目の付け所が高かっただけですぞ」
「うーーむ、お主もこのワシの凄さが分かるか」
あざ笑って僕をイルバーナから追放した忌まわしい片割れの1人の……。
「これはこれは偽勇者の篠染玲音ではありませんかのぅ?」
「……大賢者フォルクス」
こいつのむかつく顔はロザリナ姫同様に一度たりとも忘れたことはない。
「今度は偽勇者から奴隷へと転職するとはお主も相当忙しいなヤツじゃのぅ」
「ああ人気者は時間に追われる日々で大変だったよ」
勇者補正のおかげでスフレ、ナディ、パリス、ココも僕を信頼してくれた。
もし仮面が剥がれ落ちるたら、きっとみんな手の平をひっくり返して
逃げ去るんだ。
アリシヤお姉ちゃんも結局は偽金を渡して実は僕をからかって楽しんでいた。
お調子者のカティアだって僕に合わせて心の奥底で
笑っていたかもしれないのに。
「まだ自分の置かれた立場を知らずに減らず口を叩くとは
無能とは実に末恐ろしいものじゃな」
「お客様、もしかしてこのナンバー156とは顔見知りですか?
今ならこの野蛮な男も一緒にお求めやすい価格で提供しますぞ」
フォルクス隣にいた黒のタキシードぽい服を着た丸メガネのやせこけた男。
すかさず営業スマイルでファーストフードのポテトのように
僕をオススメしてくる。商品と立場が入れ替わるだけで実に不愉快な気分だ。
「いらん、いらん。しかしこんな傷だらけの無能な男、
そもそもいったい誰が購入するんじゃろうな?」
「それはお客様、死に損ないの男でも猫の手も借りたい雑用現場から
貴族の暇つぶしのオモチャまで様々な用途があるかと思いますぞ」
「あはは」
間抜けな2人を見ていると自然と笑みがこぼれてくる。
これがヒトを恨む憎悪のなれの果ての醜い鬼の姿なのか?
「いったい何がおかしいじゃ」
「さすがのフォルクスも歳には勝てなかったようだな?
もしかしてお前達は老眼か?
僕の体がよく見えるように鉄の柵の前まで出向いてやる……うぅ」
ああ膝を曲げようとすると急にお腹が痛くなってきた。
クソ、何なんだよいったい。
「大丈夫か? ナンバー156」
倒れないように僕の肩をナンバー32さんが掴んで支えてくれる。
「ありがとうございます」
ご都合良く体調を崩す特殊体質は仮病だったはずなのにおかしいな?
痛てて、もしかして体内の歯車がかみ合ってないんじゃないか?
「気勢を張って新たなるご主人様に健全をアピールしているのが
実に健気ですな。そのナンバー156の気持ちに応えて、
今なら更に格安の値段で提供することが出来ますよ。
考え直しては如何でしょうか? お客様」
「暑苦しい男などお金を貰ってもいらん、いらん」
「左様でございますか?
お前がもうちょっとお客様に尾を振らんから売れ残るんだぞっ!」
突如奴隷商人はヒステリックモードになって、鉄格子を蹴り上げる。
遊園地のアトラクションのように牢を揺らすなよ、
船酔いみたいで少し気分が悪いんだ。
「下らない真似はやめろよなっ。こっちには負傷者がいるんだぞ」
何だよ? もう、ナンバー32さんまで僕を怪我人扱いしてさ。
体だけはこんなにも元気なのに。
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