2章 27話 天才美少女僧侶のゴンタレス? 01

「金持ちではありませんが、ここに頭脳明晰な回復魔法の天才がいますよ」


黄色いバッテンマークがチャームポイントの青いロープを着た小柄な女の子。

バサバサの長い青髪に艶がなくせっかくの可愛い顔が台なしだが、

いかにも天才な雰囲気を醸し出していた。


「もしかしてお姉さん。この方はかなりの有名なヒトですか?」


「もう内のギルドでは超有名人よ。

 朝から晩まで毎日無料の水だけを飲んで帰ろうとはしない面倒な客よ」


「し、失礼な。お客様は神、神様のはずですよ」


「はいはい、何も注文しないで座席だけ占領している神は神でも

 アホの疫病神ですね」


「にゃにおうっ。このわたしアホのが疫病神だと?

 おい、そこの年増の女。ちょっと表に顔を出なさいよ?」


「黙れ、メスガキっ」


「は、はい」


イキってた青いロープを着た女の子は瞬時に涙目になる。


「まだ職務中なのでわたしの変わりにこの子が外に出てくれるみたいよ?」


「へぇ? 僕ですか?」


「この面倒な客を追っ払ったら、後でお酒一杯サービスするから頑張って」


「まだ僕は未成年で……」


「なら、ジュースでお願い坊や」


「おーい、全て丸聞こえですよ。この天才僧侶を無視して

 密談とは何事ですか? わたしも仲間はずれしないで混ぜて下さいよ」


「おいメスガキ。さっき私は黙れって言いましたよね。

 そんな簡単なことも天才が覚えられないの?

 もしかして本当はあなたバカなの? アホの子なの?」


「……イ、イエッサー」


もう誰がお客様で店員かよく分からない上下関係。

自業自得なのだが青いロープを着た女の子がだんだんと

可哀想に見えてきてしまい、


「僕のジュースを上げるからここは一端外に出よう。

 受付のお姉さんも何事かってこっちをじろじろと見ているし」


って小さな声で耳元で助け船を出すと、


「もう仕方ないですね。出来れば食事も付けてくれると嬉しいです」


どうやら青いロープを着た女の子も納得してくれたみたい。

あれよあれよと自称天才僧侶の女の子と同時に外に出ると僕たちを

待っていたかのようにビューっと冷たい風が吹いてくる。

そして青いロープを着た女の子からグゥ~って聞こえてくる寂しげな腹の音。


「お腹すきましたね」


「そうだね」


「ランチ奢って下さい」


「僕も余りお金の余裕はないんだ」


「ご飯奢って下さい」


「少し肌寒くなってきたね。

 いつまで僕たちは外に出てれば良いんだろうね?」


「さあ? 食事奢って下さい」


「言葉を匠に変えても僕は誤魔化せないから」


「もうとっくにお腹が限界が来ているんです。

 早く約束したジュースをわたしに飲ませて下さいよ~。

 じゃないと本当に死んじゃいますよ。化けて一生恨みますよ」


「……もう分かったよ」


まだ数分しか経っていないけどウエイトレスのお姉さんの機嫌が

直っているといいな?

神に祈りながらギルドに戻り、おもむろに開いているテーブルに

腰掛ける僕たち。

すると案の定、険しい表情でづかづかとやって来るウエイトレスのお姉さん。


「あのメスガキも一緒に付いてきているじゃない。

 いったいどうなっているのよ」


「拳と拳を重ねて僕たちは和解したんだよな? ゴンタレス」


「誰ですかそんなヒトいましたっけ?

 そんなことよりも先に約束したジュースを飲ませて下さいよ~」


さっきの年増発言といい、何でこの子は空気が読めないんだ?

そこはノリで僕に合わせてくれって。


「あっけなく任務は失敗したので僕が責任を取ってお金は支払います。

 ですからこの子に好きなジュースを飲ませてやって下さい」


「今まで営業妨害してきたこいつに出すのはしゃくにさわるけど

 客なら仕方ないわね。注文はお決まりでしょうか? お客様」


通称ゴンタレスはまじまじとメニュー表とにらめっこしてから、


「野菜たっぷりのミネストローネを1つ。それからそれから……」


「おい、それはジュースではなくスープだろっ。

 それに次の注文までしようとして、もうお前は本当に天才なのか?」


「私の中ではミネストローネもジュースなんです。

 本当はご飯のあるリゾットにしたかったけどさすがにジュースじゃないって

 ツッコミがあると思ったのでこれでもかなり遠慮していたんですから」


「……もういい、諦めたよ。

 自由に好きなの頼んでもいいから手早く決めてくれよな」


その言葉を待っていましたとばかりにここぞとばかりに目を光らせて

通称ゴンタレスは、


「本当ですか? じゃあ遠慮なく、サーロインステーキに

 ご飯大盛りでそれからそれからシーザーサラダにイチゴケーキに

 後はデザートのメロンと……」


「おいおい少しは遠慮しろよって」


「丸3日わたしはここの不味い水しか飲んでいないんですっ。

 お腹が多少痛くなっても我慢して座っていたんです」


ドンッ!!


「不味い水で悪かったわね、このメスガキっ」


割れそうな勢いでグラスに入った水が豪快にテーブルに置かれる。


「ひーーぃ。……今のわたしは更に拳を重ねて

 グレードアップした神々ですよ。ひもじい下民は黙って注文を聞けば

 神からきっとたくさんの祝福が与えられるのです。たぶん?」


「はい、はい。それでもうあなたは注文は決めたの?」


「僕はお腹一杯なので水1つだけでいいです」


この子の図太さを甘く見ていた。もうこれ以上の出費はもう無理だ。

今晩泊まる宿屋のお金だけでも確保しないと今後の旅が心配だ。


「プッ、お店のこともちっとも考えないあなたも相当ワガママな神様ですね?

 きっと神様から天罰が下りますよ」


「お前が言うなっ」


「お前が言うなっ」


「ひぃぃ」


また通称ゴンタレスは瞬時に涙目になって丸く縮こもった。

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