1章 20話 元勇者アリシヤ02

「変な気持ちにさせてごめんね、アリシヤ」


「いきなり初対面で呼び捨てなの? 別に私は呼び捨てでも構わないけど。

 ところであなたの名前は?」


「僕の名前は篠染玲音」


「うん、それでシスコンの玲音さんはどうしてこの森にいたの?

 あなたの技量では相当な運がないとここまでたどり着くのは

 まず不可能なはずなのに」


アリシヤのシスコン発言には腹が立つがここは年上として長男として

ぐっと我慢、我慢。


「それは……何を隠そう実は僕も勇者なんだ」


例え間違って召喚されても僕はスフレやナディたちが

住む世界を救いたいと願いたいと思う勇者なんだ。


「……ぷぅ」


「今鼻で笑わなかった?」


「いえねぇドラゴンを退治して私がヘトヘトになって村に戻ったら、

 変なおっさんが『ワシが勇者じゃ』とか叫んでいきなり服を脱ぎ出すから

 逃げるのにとても辛かった苦い思い出があるのよね~」


「それは勇者ではなくただの変質者でしょうっ!

 ただ僕はアリシヤ師匠に剣をや魔法を習って強くなりたいんだ」


「この私が玲音の師匠?」


「あのゴブリンの群れから僕をたった1人で

 アリシヤ師匠が守ってくれたんだろ?」


「ゴブリン? そんな群れいたっけかな?

 私が来た時は既に玲音が血を流して倒れてきたから、直ぐに介抱しようと

 治療に必死になっていたから気が付かなかったけどね」


アリシヤが倒していないなら、きっとそうだ、そうに違いない。

無意識の内に僕は真の力に目覚めてゴブリンの群れを無双したんだ。

このポテンシャルを常に使えるようにアリシヤに教えて

貰えば僕は天下無敵なんじゃ……。


「僕の秘められた力をアリシヤ師匠に是非とも引き出して欲しいんだ」


「随分と自分が才に恵まれていることを分かっている言い草ね」


「さっきも言っただろ。僕は伝説の勇者だって。

 アリシヤ師匠にはこれから戦う技術を教えて欲しいと心から思っている。

 スフレそしてナディたちを新たなる魔王から守る力が欲しいんだ」


「真面目な話、玲音は生き物を殺した経験あるの?」


「……夜寝れなくて耳障りな蚊は殺したことがある程度だと思うけど」


「あーー、そうですか?」


「おーい。正直に包み隠さずに答えたのにその苦笑いした顔は

 ひょっとして嫌みですか?」


直ぐさまアリシヤは真剣な顔に戻って、


「ならヒトも蚊と動揺に迷わず殺すことができる?」


「それは……」


コマンドを入力して対人戦ではたくさんユーザーを

血祭りに上げてきた記憶と経験。

でもそれは仮想空間のデータだから躊躇いなく殺せたわけであり、

相手にも当然悲しむ家族が友達もいるはずだから……。


「判断が遅いことは人間味に溢れていてとても良いことよ。

 でもね、守る力も結局は綺麗事で相手を殺す武器にも力にもなるの?

 当然ヒトを守るためにヒトを殺す場合だってある。

 それでも玲音は守る力が欲しいの?」


「……なら、最低限の生き残るための力が欲しい。

 守る力って結局は勇気を振り絞って前に飛び出して

 味方をかばうことだからね」


「うん、うん。玲音なら私とは違う運命を切り開くかもしれないね。

 私が言ったこともしっかり心に受け止めて頑張って精進しなさいよ、玲音」


「それってOKってことだよね? アリシヤ師匠」


「まぁ、そうだけど……そのアリシヤ師匠って呼ぶのはやめてくれる?

 師匠って年寄り臭くて響きが耳障りで蕁麻疹が出そうなほど嫌なのよね」


「ならアリシヤ先生でいいかな?」


「……うーん。先生もちょっと固すぎるわね。

 なら、もういっそアリシヤお姉ちゃんでいいわよ。

 私って妹の沙耶奈ちゃんにかなり似ているんでしょ。

 それに玲音の師匠って意味でお姉ちゃんって言葉がしっくりくるし」


「なら姉貴で」


「おしい、でもそれもちょっと違うかな?」


「なら兄貴で」


「もうそれって完全に性別変わっているでしょっ!!」


「僕よりも幼そうに見えるんだけどいったいアリシヤって何歳なの?」


「もう女性に年歳を聞くってこと事態がデリカシーの欠片ないってことなのに

 まだ玲音は自覚もないのね。呆れた、呆れた。

 もうお姉ちゃんもやめようかな? 所詮は私達って赤の他人だし」


「なら、アリシヤはお姉ちゃんじゃなくて母でいいよ。

 その方が僕も気楽だし。アリシヤママ、そろそろご飯にしょう。

 せっかくのお肉が焦げちゃうよ。

 それとも僕にママの平たいおっぱいでミルクを飲ましてくれる?」


「……玲音って本当に無神経の塊ね。このセクハラ息子。

 あなた本当は死にたかったの? それとも殺されたの?

 どっちか好きな方を選んで?」


「子供に虐待の2択はいけないことでちゅよ、アリシヤママ」


「こんな大きい子、どう考えても私の歳でいるはずないでしょう!

 玲音のバカっ、バカっ」


ポカポカポカッ。アリシヤママはことごとく却下され、こうして師匠こと

アリシヤお姉ちゃんが誕生する。

僕とアリシヤは余り歳が離れていないことだけは理解したつもりだ。

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