第196話 二人だけの作戦会議
俺と四十万さんに届いた報せは、当事者でなくても亡くなったことがハッキリと分かる著名人が蘇ったという内容だった。
そして俺はスマホのテレビ機能を使って適当に番組を見てみたが、一部を除いてほとんどのテレビ局でそのニュースを取り扱っていた。
予め準備し内容を練っていたであろう"土曜日の件"と違い、突然の報道に上手く言葉を出せないアナウンサーやコメンテーター達。
みな当たり障りのない発言どころか、ただ時間を稼ぐためだけの情報の垂れ流しと適当な相槌しか聞こえてこなかった。
「思ったよりも次の段階が早かったな」
四十万さんが焦った様子もなく冷静に言う。向こうもある程度予測していたのだろう。
しかし状況は特対にとって悪くなる一方だ。
焦ってはいけないが、急がなければならない…
「それで、さっきのお願いの話なんですけれど」
「お、おう。そうだったな」
「四十万さんには"尾張の母親"のことを調べてほしいんです」
「尾張の母親ぁ?確か既に亡くなってるよな」
怪訝そうに聞いてくる四十万さん。
まあそのリアクションも分かる。
今そんなこと調べたとて…と思うだろう。
「そうです。もしかしたら、尾張を炙り出すのに使えるかもしれません」
「そうなのか?」
「はい。実際に情報を吟味して、後ほどどう使うか考えます」
俺は四十万さんに根拠をざっくりと話す。
一昨日、尾張は俺に『大切な人を失う辛さが分かる』と言った。
そしてヤツの主目的が『死者が普通に生きていける世界を作る』ということから、ヤツ自身も大事な人を亡くし、その人の為に世界を作り変えようとしているのではないかと感じた。
さらに先日の聖ミリアムで春日が言っていた2年前に母親を亡くしたという情報から、俺は尾張が『亡くなった母親が再び普通に暮らせるようになってほしい』と思っているのではないかと推察した。
そこで、流石に復活させた母親は今は尾張の近くにいるだろうけど、ヤツを追い詰める糸口になればと思い情報収集をお願いすることにしたのだ。
名前、見た目、生い立ち、尾張とのエピソードなど…
ヤツを揺さぶるのに使えるモノがあれば良いが。
「分かった。もう衛藤さんのチーム辺りは調べてるかもしれねえが、急いで探させる」
「ありがとうございます」
今回のミッションは早い者勝ちだ。
積極的な足の引っ張り合いにはならないと信じたいが、共有している
それぞれが独自に掴んだものを、派閥内でのみ晒している可能性がある。
なので悲しいが、特対の誰かが既に調べたことを、別の派閥の人間がもう一度調べなくてはならないのだ。
非効率だが仕方ない。誰だって
「他にはあるか?」
「そうですね…。出来れば蘇った人たちに直接話を聞きたいですね。各々が尾張から役割を与えられているでしょうから、その詳細を把握しておきたいです」
「分かった。こっちはそもそも話に応じてくれるか不確実な上に、他の職員も確実に打診に来るだろうから、争奪戦になるな」
現状最も尾張との繋がりがあるとされる人物だ。
もう既に蘇った第一陣の人たちへの交渉が始まっているに違いない。
尾張が交渉に応じることを許可するとは到底思えないが、能力次第では少しでも情報を引き出せるかもしれない。
【個人情報保護砲】の及ばない調べ方があるとすれば、だが…。
ヤツも『遺族の為』と正式に謳っておいて、特対と"接触即解除"なんていう遺族を再び悲しませるような判断をするかどうか…宣言の重みがある程度測れるだろう。
もし万が一プロテクトを突破できたとして、ヤツに関する直接の情報が得られなくても。代理の人間には誰を使っているか、どんな場所で復活させているかなど。
情報はゼロじゃないハズ。
と、そうだ。
他の派閥では把握していない、大切な情報があった。
「四十万さん。交渉の際、"10年以内に亡くなった著名人"の家を当たってみてください。表には出てきていない死者がいる可能性があります」
「先回りか…でも10年て、なんか根拠はあるのか?」
「先日、黄泉の国に飛ばされた時に、そこの住人が『魂は大体それくらいの周期で転生する』って言ってたんですよ」
「なるほどね…」
嘘はついていないが、少しだけズラす。
どのみち信ぴょう性に大差は無いだろうし、四十万さんが本当に俺を信用してくれているのならやってくれるだろう。
「分かった。他の派閥とかち合いまくったら、そこを攻めてみるよ」
「ありがとうございます。逆に俺に何かしてほしい事はありますか?」
「……いや。現状は特にないな。お前のことだから、普通にしてても何かしら寄って来るだろうよ」
「そんな、人を巻き込まれ体質みたいに…」
偉い人は皆使える秘儀"遺憾の意"を発動。
効果は特にない。
「まあでも、戦闘要員が居るって言うなら、この任務無傷じゃ済まないだろうな。そんときゃ治療を頼むぜ」
「任せてください。俺なら―――」
「「曲がった根性と失恋の痛み以外は治せる」」
「だろ?」
「…その通りです」
してやったりと言う顔の四十万さん。
頼りになりそうで何よりだ…
「お待たせしましたー、ランチおふたつでーす」
丁度話がまとまったところで、俺たちのテーブルに定食が届けられる。
俺と四十万さんは同じチームとして、戦に向けて腹ごしらえをするのであった。
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