第181話 オワリ ノ ハジマリ
■尾張悠人の独白
僕が8歳の頃、弁護士である父さんが脳梗塞で亡くなった。享年は43歳。
以来、母さんがずっと女手一つで僕を育ててくれた。
今でも母さんには感謝しかない…
父さんは僕と母さんにそれなりのお金を残してくれていたので、僕は決して安くない学費の聖ミリアムに中等部から編入することができた。
小学校と一緒に中学も公立に通えば母さんももっと楽な生活が出来ただろうにと思ったけど、僕を聖ミリアムに通わせるのはOB・OGだった両親の昔からの夢だったらしく…多少無理してでも、母は僕を聖ミリアムに通わせたのだ。
ちなみに、二人が出会ったのも聖ミリアムらしい。
そして僕も、そんな両親の願いを聞いて、一生懸命勉学に打ち込んだ。
中等部編入も、入学してからの順位の維持もそれなりに大変だったけど、何とか5年間成績上位を維持することが出来ていた。
スポーツも嫌いじゃなかったので、体育も結構良い成績だった。
結果、色々な部活から勧誘されたけど、母さんに負担をかけたくなかったから全て断っていた。
初等部から聖ミリアムに通う美鈴に勉強を教えることも多々あった。
美鈴はいつもオカルトオカルト言って、あまり学校の勉強には打ち込んでいなかったから仕方のない事なんだけど。
『せめて平均点レベルでいいから教えてやってくれ』と美鈴のお母さんに頼まれ、仕方なくテスト前はお互いの部屋に集まって勉強をしていた。
…とても楽しい時間だったと思う。
僕は活発な性格じゃないから、天真爛漫で人をグイグイ引っ張るタイプの美鈴には憧れていた。
中学3年の夏休み
酔っ払いが運転するトラックにはねられて、僕は2週間意識不明になった。
母さんが僕を庇って突き飛ばした際に、地面に頭を強く打ってしまったらしい。
しかし怪我自体は大したことが無く、幸いにも後遺症は見られなかったので、意識を取り戻した僕は精密検査を無事パスしすぐに家に帰ることが出来た。
そして
家で僕を出迎えてくれたのは
高さ30cmにも満たない桐の箱に入った
壺の中の白い骨になった母だった
色々と手続きをしてくれた母方の祖父母の話によると、母はトラックに正面からぶつかり即死だったそうだ。
そして相手の運転手も電柱に突っ込み即死していた。
運転手は天涯孤独で、憎しみは連鎖することなく僕に残り続けて終わる。
【突然死】
病死―――事故死―――
この世の"理不尽"の中でも最大級のソレで、僕は両親を失ってしまった。
家を引き払って自分たちの元へ来いと言ってくれた祖父母の提案を断り、僕は独りで家にいた。
ドラマでよくある、遺産を食いつぶして放り出すような非道な人達でないのは分かっている。
100%善意からの提案だ。
それでも断ったのは、待っていたからだ。
僕は独りで、死ぬのを待っていた。
母の骨の前で、膝を抱えてただ居るだけ。
それを何日か繰り返すだけで、僕も母と同じところに行けると信じていた。
幸運なことに今は夏休みで、美鈴には祖父母の家に行くと連絡してあったので、誰かがこの家に訪ねてくることは無かった。
……幸運て…笑っちゃうな。
そんなことを思いながら、徐々に意識を失っていった。
「悠人くん…悠人くん…!」
「…?」
次に僕が目を覚ましたのは、母さんの声と、鼻孔をくすぐる味噌汁の匂いがキッカケだった。
生前に求めていたものを提供してくれるなんて、あの世も"オツ"だなと感じたのを覚えている。
でも、そうじゃなかった。
「駄目じゃない。ご飯はちゃんと食べなくちゃ」
「……夢?」
「夢じゃないわよ」
「……いひゃい。夢じゃないね………」
信じられなかった。
死んだと思っていた母さんが目の前にいて、ご飯を作ってくれた。
これが奇跡でないなら何だ…
僕の頭が事実を飲み込めないでいると、ある男が訪ねてきた。
その男は僕と母さんにこの現象の理由と、世界のもう一つの顔を教えてくれたのだった。
僕に宿った"死霊術"の能力と、超能力社会のことを…
他にも泉気の消し方や、彼の仲間のことなどを教えてくれて、最後に一言、僕にこう言った―――
俺と一緒に新しい世界を創ろう―――と…
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