第82話 突入開始 (大規模作戦2日目)
嘱託生活2日目
朝食を済ませ集合場所である大会議室に行くと、そこでも本日の作戦の簡単な流れを説明された。
そして出撃する全員に"基本装備一式"が配布されたのだった。
一式とは【防護ベスト】と【泉気ナイフ】そして無線付きヘルメットの事を指し、任務の際どのチームも基本的に全員装備するものとなっている。
防護ベストには使用者の泉気を吸収しベスト内部に防御壁を発生させ身を守る機能があり、泉気ナイフも同じく使用者の泉気を使い気の刃を形成する機能がある。
ナイフの方は俺たちのチームでは攻撃用と言うよりも、怪我人の損傷個所を診る時に邪魔になっている衣服を取り払うのに使う事の方が多いという。
特に防護ベストを着た職員の上半身(ベストに覆われた部分)をスムーズに露出させるのに、このナイフが無いと時間がかかってしまうらしい。
もちろん、いざという時の護身用に使っても良い。
これらはどれも特対の【技術開発チーム】が作成した"能力者用"のアイテムで、他にも様々な物が任務で使われているのだとか。
ちなみに攻撃チームに関してはベストとナイフの他に泉気銃というものが配られている。
これは使用者の泉気を弾丸として撃ち出すもので、泉気が続く限り何発でも撃つことが可能である。
威力は込める泉気の量により上下するが、込めすぎると銃自体が壊れてしまうので注意が必要とのこと。
普通に撃つとニューナンブと同じくらいの威力で弾丸を射出できる。
あくまでも"基本装備"であり、職員によっては刀だったり斧だったり、弓だったり爆弾だったリと、使う武器も異なってくる。
中には武器を持たないベストも着ない能力者もいたりするが、それについて咎められたりはしない。
本人の意思と能力を尊重するという事だ。
まあ、俺みたいな嘱託やペーペーの職員は余程の理由が無い限りはベストくらいは着ろと言われるだろうが。
「次、医療チーム」
「よし、みんな行くぞ」
移動の為の専用護送車に乗り込む医療チーム。
攻撃チームから順番に1台10人ずつくらいが乗り込んでいき、俺たち医療チームは転送チームと一緒の車両だった。
席の配置は車と言うより電車に近く、長い椅子が向かい合って配置されている。
人数は2チーム合わせて7人なので車内には少し余裕があった。
なお、指令チームにはお偉いさんが居るらしく皆とは別の車に乗り込んでいった。
これが格差か。
「あの、塚田さん」
「ん?」
車内でも隣の席になった田淵が話しかけてきた。
まあ、彼女以外雑談するような間柄の人間はいないので、ありがたかったが。
「…何か、あまり緊張していませんよね」
「あー…まあね」
「怖くないんですか…?私なんて未だに少し震えちゃいますよ」
ホラ、と言って見せてきた彼女の両手は震えており、血の気も引いているらしく肌の白さがより一層際立っていた。
片方の手を握ってみたらとても冷たくなっていて、如何に彼女が緊張しているかが直ぐに分かった。
「わっ…」
「冷たいね」
「……塚田さんは平気そうですね…温かい」
実戦経験は少しあるからね、とは言わず適当な理由を探した。
「昨日リーダーも大丈夫みたいなこと言ってたからね。そんなに心配してないよ」
「そんなもんですかね…」
田淵は何とか納得してくれたみたいで一安心だ。
そこからしばらくは転送チーム・医療チームの3人・俺と田淵の3グループで雑談をしながら車に揺られ移動した。
3時間ぐらいが経過したころ、どうやら目的地に到着したらしく外から車のドアが開く音が聞こえてきた。
程なくして、俺たちの乗っている車のドアも開く。
「もう敵のアジトの近くだから、みんな注意してくれ」
リーダーが声にするまでもなく、辺りの空気はピリピリとしていた。
こちらの職員が作り出している緊張と闘志に反応し、モール内からも強烈な空気が発せられているのが分かる。
周りの職員の顔を見ると、余裕そうな者も居れば強張った表情をしている者も居た。
恐らく何人かは気付いている…ここがただの廃棄された施設などではない事に。
中から発せられる空気は、とても末端の弱い構成員が出せるようなものではなく、手練れが数多く潜んでいる気配がした。
「よし、攻撃チームは手筈通り5分後に突入だ。速やかに配置に着くように」
攻撃チームのリーダーが声をかけると、40人いるチームメンバーはそれぞれ正面メイン入り口3小隊、裏通り入り口3小隊、屋上2小隊の3グループに分かれて突入するべく所定の位置に向かっていった。(1小隊5人)
どの小隊も驚くほど素早い動きで移動していたが、屋上から突入する小隊は特に凄かった。
隣接する立体駐車場から走りと跳躍でスピーディーに移動を完了させている。
あそこの2小隊が最も強い人員が配備されていると見て間違いない。
「塚田くんはこっちでベッドとテーブルの運び込みを手伝ってくれ」
「分かりました」
俺はリーダーに言われ準備に取り掛かった。
護送車が縦に2台、2列に駐車され、それぞれの車両からはキャンピングカーにあるようなルーフが伸びている。
そのルーフが合わさる地点に支柱を設置し、ルーフの下にベッドや作業台、医療器具を運び込み"簡易式の医務室"が完成した。
俺たちはここで怪我人の手当てをする。
すぐ横には、転送チームが使用する"転送先ポイント"も設置されていた。
事前説明では、ここに怪我人や重要な物資を飛ばしてくるという。
更に護送車の1台からはアンテナが伸びていて、皆の持つ無線機に指示が飛ばせるようにしている。
攻撃チーム、転送チームからの報告を受け、どこのエリアに誰を向かわせるといった指令を適宜ここから送る。
司令塔の役割を担うようになっていた。
周囲の人払いや、敵の逃亡あるいは乱入を防ぐ防壁展開も済ませている。
前衛・後衛ともに準備完了だ。
そして少しするとーーー
『全班員に告ぐ。間もなく所定の時刻となる。くれぐれも無茶などせぬよう注意して任務を遂行してくれ』
無線機からはC班班長の声が聞こえた。
『今回は転送班も居るが、歩けるうちに医療チームのもとへ戻るのも大事だ。各小隊長は適宜判断し隊員に指示してくれ。後衛の皆も、いつ敵がここに気付き攻めてくるか分からない。油断せぬよう業務に当たってくれ。それでは、諸君らの健闘を祈る』
班長が話し終えると同時に、1回目の【CB】拠点制圧作戦の開始時刻となった。
一番槍のC班は、果たして無事に任務を終えることが出来るのだろうか。
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