2020年 9月

置いていかないでと呟く昼下り 腕くるめいて 木陰のサドル


混んでいる電車にて恋人たちの 繋いだ手と手 ゆるくほどかれ


消えかけの電光看板 その下のレストランに人たくさんいたわ



あの詩集を持っていきたいのに 無人島に行く日は一向に来ない



ファミレスの非自動ドア 先輩と共に突っ立ち同時に気づく「お」「あ」



若さを自覚するのが恐ろしく そしらぬふりして通り過ぎた夏


どうしてなの もう秋がくる まだなにもしていないのに 冷気満ちる玄関


どうしたら 今を自覚できるのかしら 今、今、いま 強く念じても、まだ



水道の音が聴こえる あの人は死ぬかもしれない 語気の粗さのリフレイン


ごめんなさい 他責をしたのは私の方 正しくないかもしれないけど本当


痛みを逃がすためにあの人を責めたの 私はきっと地獄におちる


水道水 伝って暗い 寒いところへゆくの あの人はイザナミ 待ってて


虹色の 放射線に乗って 小さくまるまるあの人のところへ飛んでいけたら


飛ばされた 痛みはどこへゆくのかしら 墓場?夢の島?それともわたしの死ぬ間際?


極楽鳥 極彩色の翼で指し示す 私の現在 未来 指先

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