第230話 メフィストと魔王
―会長視点―
わしとパズズは着実にメフィストを追い詰めていた。
「ふん、せっかく誘ってあげたのにバカな男ね」
「バカなのはお前のほうだ。メフィスト。たしかに、わしはすべてを恨んでいる。だが、最も恨んでいるお前と手を組むことなどありえない」
「あなたの恋人を奪った邪龍は私が操っていたけど私じゃないのよ? あなたのスポンサーたちは、自分たちの立場を守るために永遠に戦いを続けようとしていた。それは戦死した人間たちの裏切り行為でしょ。なのに、どうしてあなたは人間たちを守るために戦うの? 矛盾しているじゃない?」
「お前みたいな悪魔にわしの気持ちの何がわかる?」
「あなたの気持ちは複雑ね。ある程度は読み取れる。復讐に駆られてこの世界のすべてを壊したいと思っている。でも、この世界を信用したいという気持ちも同時に存在している。あなたにとって最後の希望がアレクとナターシャなんでしょ? あなたはあのふたりに自分を投影している。だから、あの二人に肩入れしたんでしょ? わざわざ二人が強くなるように裏で糸を引いていた……神の存在領域と光魔力をもつあのふたりがあなたの計画の鍵?」
「お前は知りすぎた」
わしは攻撃をさらに強める。無数の雷撃魔力がメフィストを襲う。同時にパズズの糸が奴を切り裂いた。
こんなことでは滅ぼせないのはわかっている。だが、時間を稼ぐことはできる。
切り札を発動させるための時間は稼いだ。
「こんなことで私は殺せない。わかっているでしょ。それとも魔王様がやられるまでの時間稼ぎのつもり?」
奴はすぐに再生してわしたちをあざ笑う。だが十分じゃ。
「いや、時間を稼いでいただけじゃよ、
「なっ」
「お前は完全なるメフィストではない。前回の戦いからそれを疑っていた。あの時は復活して時間がなかったからとも思っていたんじゃ。だがな、今回の戦闘でその疑いは確信に変わったよ。お前が古代魔力文明の技術の結晶ならば、持っている魔力の総量が少なすぎる。わしとパズズのタッグに負けるくらいじゃからな」
「……」
「そして、パズズから聞いたお主の本来の力は、魔力炉に干渉できるほどのものだった。どう考えてもつじつまが合わない。つまり、わしらの目の前にいるのは本来の力を失ったメフィストの
「なら本当の私はどこにいるの?」
「魔力炉の暴走が起きてから、不審な行動をしている人物が一人だけいるじゃないか。実の息子を遠ざけて、自分の妻を奪った悪魔を崇拝する謎の行動をしている者が……お主は魔力炉と同じ力を持った魔王の中にいる、違うかな? もしくは、魔力炉の暴走によって神に近い力を手に入れた魔王の体をお主はそのまま奪い去った」
「……それが正解だとしたら?」
「お主をここで倒して真実を暴くだけじゃよ」
「どうやって? あなたには私を倒す切り札がない?」
「気がつかなかったな、心が読めるはずなのに……お主は完璧じゃないようじゃ」
奴の頭上を、わしが魔力で作った雷撃の龍が襲った。これが切り札だ。
メフィストは辛うじて龍を避けた。
「お主の弱点は聖龍じゃろ? パズズから聞いたところでは聖龍は、光魔力によって作られる魔力生物らしい。魔力によって作られたお主は、言わば全身が魔力の集合体。魔力を糧に生きる魔力生物の好物なんじゃろ?」
さすがにわしに光魔力の才能はなかった。だが、雷魔力は膨大なエネルギーを発生させる大魔力だ。だから、それをかき集めることで疑似的な聖龍を作り出した。
完全体ではないメフィストならば、この疑似聖龍でも倒すことができるはずじゃ。しかし、制御には膨大な魔力を必要とする。
じゃからな、早めに決着をつけさせてもらうぞ!!
パズズが糸でメフィストを拘束する。これで奴の行動が数秒間制限された。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
「
龍はメフィストに到達する寸前で無数の小龍に分裂し、メフィストに殺到した。
龍が消滅した後に残ったのは、食い散らかされたメフィストの残骸だけだった。時間が経っても再生することはない。
さぁ、どうする。魔王よ?
アレクは着実に魔王を追い詰めていた。
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