第215話 影の評議会の抵抗

―アレク視点―


「副会長、大変です」


「どうした会議中だぞ!?」


「申し訳ございません。しかし、一大事です。影の評議会の残存メンバーが邪龍教団残党と共に蜂起しました。中心人物はマッシリア王国のブルーム軍務尚書です。参加しているのは貴族中心に500人ほどかと。イブラルタルに向けて進軍中です」


「マッシリア王国はずいぶんと反乱を起こされるのが好きらしいな。まぁいい。ここで残党を一掃できれば戦後もギルド協会側の有利が確定する」


 マリア局長が心配そうに忠告する。

「ですが、魔王軍との戦争が控えているのに正面衝突してしまえば戦力がすり減りますよ?」


「ああ、正面からいけばそうなるだろうね。でも、その必要性はないよ。アレクひとりで鎮圧可能だ」


「また、そうやってこき使うんですね、俺を」


 まぁいつものことだ。


「期待しているよ、アレク?」


 副会長は悪魔のような笑みを浮かべていた。


 ※


―名もなき反乱貴族視点―


「皆行くぞ! このままロスリー公爵を奪還する!」

 ブルーム軍務尚書が掛け声すると俺たちは気分が高揚する。


 俺たちは馬車を走らせている。


「大義は我らにある」


「ああ、権力の簒奪さんだつなど認められるわけがない」


「貴族の誇りにかけてここは引くことができない」


「しょせん、ギルド協会など平民や貧乏貴族の子弟に支配された場所。そんなところに我らが屈服するわけにはいかないのだ」


 各々が戦意を高めていく。いくらギルド協会と言えどもこの誇りは折ることができまい。


 賊軍の本拠地であるイブラルタルまであと30分。


 もう少しでイブラルタルに繋がる整備された街道だ。あいつらめ、自分の首を絞めるにもかかわらずあんな立派な街道を整えるとはな。馬鹿な奴らだ。


「ぐおおおおお」


 轟音とともに前列の馬車の荷台が爆発した。俺の馬も轟音に驚き転倒する。乗っていた馬車はすさまじい速度で横転し、俺の意識を一瞬奪った。


 目が覚めた時体の節々から出血していた。


「何が起きたんだ?」


 ほとんどの馬車が横転している。


 さきほどまで威勢が良かった仲間たちの姿はどこにもなかった。


 後方の馬車はなんとか止まれたみたいだけどな……


「まったく奇襲でしか勝てないはずなのに、どうしてこんなに目立つ移動しているんだよ? いくらなんでも無謀すぎるだろ?」

 男はあきれ気味に首を振っている。その男は世界最強の男だった。


「アレク官房長だ」


「伝説級がどうしてここに……」


「いや、おちつけ。いくら伝説級でも数の差で勝てる。こいつを殺せば歴史に名を残せる。やれ、やってしまえ」


 勇んだ男たちがアレクに突撃する。


 悪魔は剣を抜いた。


 ※


―名もなき貴族視点―


 5人の貴族たちが剣を抜いて、アレクに襲いかかる。

 しかし、5人はアレクの目の前にたどり着くことすらできなかった。


 アレクの剣が動いた瞬間、魔力が爆発し5人はそこから吹き飛ばされて一撃で伸びてしまった。


 その様子を見ても勇気ある数人が再び突進する。


「できれば投降してほしいんだけどな。副会長からは無力化して全員逮捕しろと厳命されているんだぞ」


 無数の氷の矢が俺たちを襲う。


 戦力として無力化するために、威力は調整されていたがほとんどの者は避けることもできずに直撃し床に倒れ込む。


 実力が違い過ぎる。

 だが、俺たちにだって切り札はいる。


「さすがだな。アレクよ。だがな、我らにも切り札はある」


「ブルーム軍務尚書。降伏してください」


「このメンバーを見てもそう言えるかな? 影の評議会の協力者は冒険者にもいるんだ」


 破壊を免れた奥の馬車から3人の男たちが出てきた。


 そうこの3人が俺たちの切り札。S級冒険者とA級冒険者の協力者だ。


―アレク視点―


「これはまた、大物が用意されていたな」


 3人の冒険者たちは俺をなめるように見つめている。


「久しぶりだなぁ、アレク! おぼえているかぁ、おれのことを?」

 俺に無理やり決闘を挑んできた元・A級最上位の魔法剣士ケーレル。


「すべては悪魔を消し去るために。ギルド協会はやってはいけないことをしてしまいましたね。私たちは神の導きに従わねばなりません。正義の旗は我らに……」

 ナターシャを超える神官の最高位のひとりメアリー。狂信者ともいえるほど教義に厳格で危険な存在。対魔王軍最強硬派のS級冒険者だ。


「死と言うのは喜びです。この世界はしょせん肉体と言う魂の牢獄に閉じこめられているだけなのです。だから、どうして死を恐れるんですか? 死は解放であり、喜びなのです」

 S級冒険者でありながら、その危険すぎる能力のせいで協会に幽閉されていた死霊使いネクロマンサーグレシス。


 協会の中でも反主流派に属する実力者たちだ。やっかいなメンバーをそろえたものだ。こいつらは過激派すぎて何をするかわからないから危険視されている奴らだ。


 たしかに切り札としてはもってこいだが、劇薬すぎるぞ。


 ケーレルは実力だけならS級に匹敵する。つまり、S級冒険者が3人同時で俺に襲いかかってくるのか。


 これはさっきまでの素人たちとはわけが違う。


 本気でいかなければならないだろうな。


 俺たちはにらみ合いを続ける。前衛タイプのケーレル、後衛タイプのメアリー。そしてトリッキーな動きができるグレシス。


 さあ、どうやって攻略する?


 ※


―アレク視点―


 厄介な3名がそろった。ここは本気でいくしかない。事前にナターシャから魔力をもらっておいてよかった。


「光の翼か。おもしろいねぇ」

 

「この背教者がぁ。あなたにそれを背負う資格はないわぁ」


「おもしろい。神の存在領域。それが死と生に干渉するか試させてもらいましょう」


 3人のS級冒険者が楽しそうに笑った。


 俺は光の翼に移動させた魔力を放出し、敵に放出する。

 威力は調整してあるから、S級クラスには効果は薄いが周囲の貴族には効果てきめんだ。


 光の魔力波が敵を襲う。


「「ぎゃああぁぁぁぁあああああ」」

 貴族たちは避けることもできずにほとんどが倒れた。これでいい。


 ケーレルは魔力波をかわして俺の攻撃に驚いている。

「さすがだな。これが史上最強の冒険者……アレクっ!」


 俺は驚いているケーレルに対して一気に距離を詰めた。光魔力の使い方にも慣れてきた。移動速度は早まっているからな。


 俺はケーレルの体に無詠唱で氷魔法を直撃させた。


 あいつは一切反応できずに衝撃で壁に叩きつけられる。


「まさか、S級クラスの前衛が反応できないほど、早いの!?」

 狂信者は固まって驚いている。


 確かに前衛職には反射神経が求められる。敵の攻撃をかわす必要もあるし後方からの支援魔力もあるからな。


 だが、俺の鍛えたスピードには並の冒険者では対応できなくなっている。神の存在領域を発動させた後から自分の力が満ちていくのを感じている。


 俺はそのまま後衛で補助魔力や回復魔力を賭けようとしていたメアリーを狙撃した。


 おそらくこいつを放置しておけば戦いが長引くはずだ。だから、護衛のケーレルを潰したら最優先で狙わなくてはいけない。


 神官だから魔力防御力は高いはずだ。それを打ち破るために全力で狙撃した。


 殺しはしないが、戦力としてはもうしばらく動けないだろう。


「さすだがよ。これが神の存在領域に達した男の戦闘力か。人間の最高クラスの反射神経と魔力防御力を持つふたりが一撃で倒されるなんて――もう、キミは人外のレベルまで行ってしまっているんだね?」


 死霊使いだけが残った。いや、あえて残した。こいつが一番何をするかわからないから……


 邪魔者がいなくなった段階で、こいつだけに集中した方がいい。


 俺は地獄の業火をネクロマンサーに向けて打ち込んだ。


 光魔力を使っている状態なら、古代魔力すら無詠唱で打ち込める。


「なるほど古代魔力か。ずいぶん高く評価してくれているね。光栄だよ。でも、僕はこれくらいでやられない」


 俺の放った火球はネクロマンサーの前で真っ二つになって無効化された。


 魔王軍最高幹部以外なら一撃必殺の技が破られた瞬間だった。

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