第193話 再生力
俺は全力の攻撃を魔王のカケラに叩き込んだ。
得意のカウンターだ。
奴の左腕を切り落とす。体の中央を狙ったが思った以上に速い動きでギリギリでかわされたな。
だがこれでカケラの継戦能力をそぎ落とすことができたはず。
腕はすべての攻撃の起点になっていたからな。ざっと半分くらいの力になるだろう。
だが……
「ぐおおおおぉぉぉぉおおおおおお」
カケラの雄叫びが響き渡った。
苦しんでいるのか?
いや……
ボコボコと腕の切断面が動き始める。
「まさか!」
あいつの左腕が再生していく。
ありかよ、そんなの……
魔力による再生か?
理論はわからないが、たくましい腕は復活してしまう。
まずいぞ、これは想定していない。
あいつの再生能力が腕だけならいいがそれ以外も再生できるなら、俺は最終的にじり貧でやられてしまう。核のようなものを見つけて再生能力を奪わなくてはいけないが……
作り物の体のせいで、ハデスの時のように魔力の流れでコアの場所を特定するのは難しくなっている。
こうなったら切り札だ。
俺は"地獄の業火"をクロノスに流し込んだ。
俺の魔力の中で最も威力が高い技で跡形もなくカケラを吹き飛ばす。
ハデスよりも防御力が低いカケラならおそらくうまくいくだろう。
体のすべてを吹き飛ばせば、コアも一緒に消し飛ばせる。
だが、クロノスの魔力容量はとてつもなく大きいので連発はできないのがネックだ。
さっきの"ジェネラル・タレス"との戦闘でかなり消耗している俺にとってはこれが最後のチャンスかもしれない。
魔力は満ちた。再生をして硬直している魔王のカケラに向かって俺はもう一度クロノスを振るう。強化された地獄の業火がクロノスによってカケラの上部に移動し降り注いだ。
赤い大地の砂が吹き荒れる。巨大な魔力衝撃波を伴って巨大な火球が魔王を包みこむ。
その一瞬の攻撃にカケラは悲鳴すらあげるこもできずに火球によって焼かれていく。
やはり防御力には難があるようだな。
数秒後、カケラの巨体は跡形もなく燃え尽きた。
クレーターが生まれた赤い大地の上には、カケラだったはずの灰だけが残っている。
さすがに、灰だけになれば元には戻らないだろう。
勝利を確信して力を抜いた俺の前には驚くべき光景が繰り広げられる。
燃え尽きて粉々になっていた灰が同じ場所に集まり始めた。
まるで意思があるかのような動きに俺は絶望する。
どうやったらカケラを倒せるんだ。
灰は少しずつ元の姿に戻っていく。
※
―ナターシャ―
灰から魔王のカケラが復活するまで数秒とかからなかった。
先輩の最強攻撃で消し炭になった巨体が元通りに戻っていくわ。
こんなに再生力が早ければ逃げることもできないはず。でも、カケラにはコアすらない。
どうやったら再生を止めることができるかもわからない。
そして、先輩を助けようにも私しかいない状況では足手まといにしかならないわ。
もどかしい。自分の力が足りなすぎる。
歴史上でも最高峰の戦いに私は完全に取り残されていた。
ここにボリスさんでもいてくれれば逃げるチャンスが作れるかもしれないのに……
「ぐぎゃ、ぐぎゃ」
カケラは攻撃態勢になって右手から巨大な魔力波を放った。
先輩は魔力で相殺しようとするも先ほどよりも威力を弱めることができずに私たちに衝撃波が直撃する。
私たちは勢いよく地面に叩きつけられた。
痛い。
やっぱり先輩も限界なのね。世界最強の戦艦をひとりで足止めした上に、倒しただけで伝説級冒険者に昇進できるくらいの相手と戦うなんて……やっぱり無理がある。
先輩は光魔力だけは維持しているけどかなり厳しそう。
ここまでなのかな。ふたりで必死に夢を追いかけてきてついに伝説級冒険者になって結ばれたばかりなのに……
ここで終わるなんて嫌。
なにか手があるはず。
私が先輩を助ける。
「(ならば、私が手を貸してやろう、女よ)」
頭の中に声が聞こえた。
「あなたは誰? どうして私たちに協力するの?」
「(利害が一致しているからだ。ここでアレクが死ぬことは許されない。まさか、メフィストが
私の足元には巨大な魔方陣が形成される。
これは新しい魔力契約の儀式?
この声の主がメフィストのような悪魔の可能性も否定はできないわ。
でも、私たちが生き残るにはこれしかない。
先輩を助けるためには、なんだってする。
「(さあ、契約をしよう。祈れば古代魔力文明の切り札はお前に従う)」
「その前に一つだけ教えて。あなたの名前を――」
「我が名はパズズ。魔王の息子にして、すべてを終わらせるために動いている者だ。お前たちと利害はメフィスト打破という一点で一致している」
魔王の息子。魔王軍にいる和平派の中心人物の名前だった。
ミハイル副会長が接触しようとしていた穏健派。
この声が本当のことを言っていると保証はないわ。
でも、信じよう。
私は魔方陣と契約する。
この先にある未来を求めて……
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