第151話 馬車でイチャイチャ

 そして、ナターシャの計画は順調に進んでいった。

 ギルド協会御用達ごようたしの職人たちと契約し、道を整備する工事の準備も進んでいる。


 あとは、休憩用の小屋を作ったりしたいので、場所の選定も行う予定だ。

 魔獣狩りも半年かけて行った結果、ほとんど姿を見ることはなくなった。ナターシャが作った聖魔力がこもった聖水も使えば、危険もなくイブラルタルと村の往復ができるだろう。


 今日は副会長の指定する倉庫に、食料の納品も行った。

 荷物には軽量魔法をかけて、馬車に詰めるだけ詰んで、何度も往復した。


 俺とナターシャが輸送したので、コストはほとんどかからない。だから、業者に頼むよりもかなり安く納入できた。


 俺たちは、納品を終えて、馬車でゆっくり村に帰っていた。


「副会長は、私たちが自分で納入することを見越して、運送費を含む契約にしたんですね。そうすれば、村の取り分が多くなるから」


「ずいぶんと気前がいいな。普通はギルド協会に有利になるようにするもんだろ?」


「運送費含めても、市場で買うよりは相当安く仕入れできますからね。中間マージンがないのって、本当にすごいんですよ? 生産者にもお金が直接入るし、消費者も安くいいものが買えますから……それに、なんだかんだ言っても、先輩が信頼されているんですよ。変なものを売りつけたり、ずるはしないって」


「ずいぶんと信頼されているんだな、俺たち?」


「むしろ、先輩を信頼しない人っていないですよ? それこそ、エレンくらいじゃないか? それに仕事をしていく中で、信頼って大事なんですよ! センパイなら、一緒に仕事をしたい。あなたに任せたら大丈夫って言われるのは、さすがです」


 そんなに褒めてもらうとなんだかくすぐったいよな。

 悪い気持ちはしない。


「まぁ、その分、難しい仕事を任されたりして、大変なんですよね~」


「おいっ!!」


 いきなり現実にもどされた。


「これでちゃんと、オチたでしょ?」


「そんなオチはいらないよ。でも、久しぶりだな」


「えっ?」


「最近は、いろんな仕事続きでこうして、ナターシャと冗談言い合って、じゃれるのは久しぶりだなって」


「そうかもしれませんね。ずっと、真面目な話ばかりでしたから」


「なんか、安心するよ。大きな事件なんて、起きずにこのままだったらいいのにな」


「そうですね。でも、先輩? 今日はずいぶんとすなおですね? もしかして、私にれなおしました?」


「惚れなおすもなにも……ナターシャには感謝してもしきれない。本当にありがとうな」

 俺はふざけるナターシャに、あえて本心をぶつけた。


「なっ!? どうして、そこはふざけないんですか? いきなり、真面目に答えられると、こっちが恥ずかしくなっちゃいますよ?」


「だって、こういうのは機会を見つけて言っておかないとさ?」


「先輩のバーカ」


「悪かったよ」


「頭なでてくれたら、許しますよ?」


 そう言って甘えてくる後輩の頭を、俺は優しくなでる。彼女は幸せそうな顔をしていた。


 ※


 そして、春。

 俺たちは雪解けを待って、ついに街道整備の工事を開始した。


 ギルド協会とつながりがある土木関係者を雇い、協会に依頼を出して護衛の冒険者も各所に配置している。


 かなり大規模な工事になったな。でもこれがうまくいけば、イブラルタルと俺たちの村に道路ができる。馬車の往来も楽になるし、各場所に配置した小屋で休憩しつつ、より安全に物流を確保できるんだ。


 工事も雪が心配だったが、思った以上に雪解けが例年もよりも早かったため、雨季にも間に合うくらい余裕をもって始めることができた。


 俺たちも職人さんたちの護衛がてら、道路整備を見守っていた。


「順調ですね、先輩!」


「ああ、工期も完璧だな。さすがは、ナターシャの計画だ」


「結構余裕をもって、スケジュールを作っているので、この後問題が起きても大丈夫ですよ。たとえば、地質が悪くて、ルートを迂回うかいしなくちゃいけなくなったりとかですね」


「あんまり不吉なことをいうなよ」


「だって、順調すぎて怖いんですよ?」


 今回の護衛は10人ほど雇っている。さすがに、この広大な領域を俺たちだけでカバーできないからな。


 みんなB級クラス以上の冒険者たちだから、野生の魔獣が出ても大丈夫だろう。


 魔獣の心配もないので、怖いのは天候くらいだな。でも、2日前の大雨でも、特に川の氾濫などは起きなかったので問題はない。


 このままいけば、スケジュールよりも早く工事が終わる。

 予算も節約できるし、事故もない。完璧、完璧!


「ナターシャさん、アレク官房長! 大変です、こっちに来てください!!」

 雇った冒険者が俺たちを大声で呼んだ。


 安心したところでトラブルかよ!?


 ※


「こっちです。さっき、職人さんが見つけたんですよ。雨で土が柔らかくなっていたから、見つかったみたいで……」


 そこには、大きな穴があった。そして、土の中に、輝く道具が埋まっている。金で作られた何かの道具だろうか? 鳥のような羽根がある生物の黄金細工。


 輝いた金属に書かれた地図のようなもの。


 その他、何かの儀式用のものだろうか? 幾何学きかがく模様が描かれた金属がいくつも見える。


 職人たちや冒険者たちは不思議そうにその出土品を見つめていた。


 でも、俺たちにはこれが何かすぐにわかる。だって、そうだろう?

 あの独特な幾何学模様。土の中から出てきたのに、劣化しているようには見えない金属。


「先輩、これは……」


「ああ、間違いない。新しい"始祖たちの遺産"だろう」


 それはまさに、天界文書や天地開闢の図と類似するものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る