第135話 感謝祭
俺たちは、とりあえず食事をするために、カフェに入った。
食事の前に情報収集するために、新聞も購入し、それを読む。
――――
―テルミドール579年12月28日 ミラル新報 朝刊―
マッシリア王国クーデター、アレク官房長が鎮圧!
27日深夜。ギルド協会は、マッシリア王国で発生したクーデター事件について、世界最高戦力であるアレク官房長指揮の部隊が、王宮を完全に制圧したと宣言した。マッシリア王国臨時政府も、同様に宣言し、今回のクーデターは完全に鎮圧された。
首謀者は、マッシリア王国王太子と近衛騎士団長を中心とする反・国王派と判明した。すでに、近衛騎士団長は敗死し、王太子はギルド協会に捕縛されている模様。
国王陛下は、無傷でギルド協会が保護したが、閣僚2人が犠牲になったとみられる。
また、クーデター軍には、指名手配中のテロ組織・邪龍教団教祖であり元S級冒険者のエレン容疑者が参加しており、アレク官房長がエレン容疑者と直接対決し、それを破った模様。エレン容疑者は、追い詰められて自爆し死亡が確認された。
また、ともに逃亡中だったニコライ容疑者は、ギルド協会に投降した。エレン容疑者によって、洗脳を受けている可能性が高く、現在ニコライ容疑者は、病院において治療を受けている。
ギルド協会ミハイル副会長によると、『ニコライ容疑者は、邪龍教団が発明した洗脳薬によって、無理やり行動を共にさせられていた可能性が高く、検査でもそのような兆候が見られている』と説明しており、詳細は、調査中。
臨時政府首班のフランク辺境伯は、王宮の機能が戻り次第、速やかに政府機能をもとに戻して、臨時政府を解散すると宣言しており、原状回復作業が進んでいる。
――――
「やっぱり、会長の関与やメフィストのことは伏せられているな」
「ですね。私的には首謀者を正直に発表したことに驚きましたが……」
そこは隠しきれなかったんだろうな。王太子が突然行方不明になったら、説明が必要になる。
俺たちは、昼食のパスタを食べながら、新聞を眺めた。
「そういえば、先輩! 明日から感謝祭ですね」
「そうか。もうそんな時期か」
感謝祭。それは、新年を迎えるために、年の終わりの3日間を盛大に祝うお祭りだ。
ナターシャと、年末を祝うのは久しぶりだな。
「私の言いたいこと、わかります?」
彼女は、期待した目で俺を見つめた。
「ああ、もちろん」
感謝祭の日は、家族や恋人といった大事な人たちと過ごすというのが世間の常識だからな。
「言ってください。約束ですからね」
「明日、感謝祭デートしたいんだけど、予定あるかな?」
「先輩のお誘いを断るほどの予定が、私にあると思いますか? もちろんです。デート楽しみですね」
ナターシャは、笑う。
俺も、無事に誘いを受けてもらって安心した。
今年は、いろんなことがありすぎたから、この3日間は好きなだけ遊ぼう。
俺たちの手は、いつの間にか繋がれていた。
※
感謝祭の昼。
俺たちは、祝賀会に呼ばれた。
臨時政府からの権限移譲は、着実に進んでいるが、完全に終わるのは、どうやら年明けになってしまうようだ。
なので、毎回恒例の王都での感謝パーティーは残念ながら、中止になり、民間の商業ギルドが代替えになる祝賀会を開いてくれた。
今回のクーデター討伐作戦に参加した俺たちを、街の人たちが俺たちをねぎらってくれる。
情報局長のチームは、機密を理由に先に帰ってしまったので、参加者は俺とナターシャ、ボリス、マリア、エカテリーナの5人。
「今回は、王都に平和をもたらしてくださりありがとうございました。アレク様達は、我が王都の英雄です。今日はゆっくり楽しんでくださいね」
恰幅のいい商業ギルド長は、俺たちに手厚い出迎えをしてくれた。
緊急パーティーにもかかわらず、豪華な料理と酒を用意してくれている。
感謝祭の恒例のご馳走であるチキンステーキやゆで卵が入ったミートローフ、チーズソースのサラダ、肉と野菜のオーブン焼き、ローストポテトなどが並んでいた。
「各家庭の自慢の料理を集めました。突然の話だったので、みんな家族を総動員して作ったんですよ。ただ、どうしても家庭料理ばかりになってしまい申し訳ございません」
「すいません、忙しい時期に気を遣わせてしまいましたね」
「いえいえ、みんな大喜びでしたよ。あのまま、クーデターが深刻化して、内乱にでもなってしまったら私たちは住む家も失っていたでしょうからね。それを防いでくれた英雄に対して、できるかぎりのおもてなしをするのは、当たり前のことです」
「料理はとても美味しいですし、皆さんの気持ちは本当にありがたいです!」
ちなみに女性陣は、ちゃんとドレスアップしていた。
街の人が用意しておいてくれたらしい。
「それにしても、アレク様は、この半年で大活躍でしたな! 魔王軍幹部のヴァンパイアを撃破し、テロ組織邪龍教団を壊滅させて、南海戦争で魔王軍最高幹部と一騎打ち。さらに、魔王軍主力艦隊を壊滅させる大戦果! いや~、すさまじい結果を残されました」
「はぁ、ありがとうございます」
「それをあまり誇らずに、淡々と受け止めていらっしゃる! 噂通りの謙虚なお方だ。まさに、大器!!」
なんか、勘違いされている気がするが、とりあえず料理を楽しむことにした。
「おう、サー・アレク。今回もすごかったな」
「ボリス殿下、あんまりからかうなよ、まだ叙勲されてねぇから。けがは大丈夫か?」
「おかげさまで! ところで、殿下はやめてくれって言ってるだろ?」
「今回も本当に大活躍だったわね、アレク君!」
「いや、マリアさんたちのサポートがあったからですよ。一番大事なところは、あの人が全部やってくれましたし」
「でも、あなたは、作戦通りに動いたのよ。それも、裏切り者や突入ルートが漏れていたりして、イレギュラーなことが起きていたのにも関わらず、現場責任者として、ちゃんと責任をまっとうした。それだけでも、胸を張っていいと思うけど?」
マリアさんは、優しく俺を諭す。
「そうよ、アレクは相変わらず、自己評価が低すぎるわ」
幼馴染もヤレヤレと苦笑している。
「さぁ、皆さん、ダンスパーティーの時間です。こちらに集まり下さい!」
司会の人がそう宣言する。今日の参加者は、街の人中心でほとんど貴族じゃないから、ある程度、適当にダンスするらしい。
これなら俺にでもできるかもしれない。
「ねぇ、アレク?」
「なんだよ、エカテリーナ」
「今回だけは譲ってあげるから、行って来なさい! 彼女が待っているわ」
エカテリーナの指さす場所には、ナターシャが待っている。
「ああ、行ってくるぜ」
俺は、ソワソワしている後輩のもとに向かった。
覚悟は決めたけど、緊張はする。
「ナターシャ!!」
「はい!」
ぎこちなく返事をするナターシャが可愛かった。
「よかったら、一緒に踊ってくれないか?」
素直な気持ちをぶつける。
「もちろんです! でも、足は踏まないようにしてくださいね!」
「下手だから、笑うなよ」
「それは、どうでしょうね~」
「おまえら、俺をからかい過ぎだぞ」
「先輩、からかうのは楽しいですから! じゃあ、行きましょう」
ナターシャは白く細い手を伸ばす。
俺は、その手をゆっくりと引き寄せた。
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