第123話 クーデターの夜

 王太子様は、昨夜の様子をゆっくりと語りだしてくれる。


「昨夜、8時くらいに、私は自室に戻りました。その後、1時間くらい経ってからでしょうか? 急に外が慌ただしくなっていきました。私は、護衛を務めてくれている近衛騎士団の副団長に様子を見てくるように頼みました。そうすると、突然、爆発音が鳴り響いたのです。副団長は慌てて戻ってきました。『謀反むほんです。どうやら、王都護衛師団の一部が蜂起した模様です』と私に告げました」


 緊迫感が伝わってくる話だ。


「A級冒険者上位に匹敵する騎士団長が、鎮圧してくれるものだと思っていました。私は、秘密の逃げ道に向かいました。あくまで、念のためだったんですが、それが幸運だったんです。逃げる途中で、騎士団長が、中庭で切り捨てられているところを目撃しましたから」


「相手は……王都護衛師団にそんな使い手がいたんですか?」


「いえ、騎士団長以上の使い手は、我が国におりません。でも、私は、その男を見たことがありました。かつて、王国の英雄として、祭り上げられていた人物でした――たぶん、彼に勝てる相手は、世界に数えるほどしかいないでしょう。彼は、元世界ランク1位の勇者ニコライでした」


「やはりか……」

 副会長は、苦々しく顔をゆがませる。ニコライが前線に出てきたら、上位のS級冒険者じゃなければ対応することはできないはずだから。

 そして、今回のクーデター鎮圧がより厳しいものになったことを意味する。


「反乱軍に、陛下たちは捕まってしまったみたいです。逃げる途中に、農務尚書が倒れて動かなくなっているところも目撃しました。抵抗する者は、次々と切り捨てられたみたいです」


 被害者がでている。これは、奴らも追い込まれていることの裏返しだ。


「なにか、反乱軍は、目的を言っていましたか? 要求みたいなものを聞いていませんか?」

 副会長は必死に糸口を探し出そうとしていた。


「わかりません。ただ、奴らは何かを探している感じでした。壁やカーペットの下をめくっている形跡がありましたので……そうだ、副団長は無事ですか?」

「ええ、かなり重傷なので、治療班が対処中です。今のところは薬で眠っています」

「よかった。私をかばうために、なんども攻撃を受けてしまったんです。治療をよろしくお願いします」

「わかりました。全力を尽くします」


 俺たちは、病室を出る。ふたたび、会議室で対策を練る。


 ※


「どうする、ミハイル君?」


「すでに、王国首脳に犠牲者が出ていますからね。迅速に対応しなくてはいけません。ニコライが王宮にいるとなると、アレク官房長に向かってもらわなくてはいけないでしょうね。ギルド協会の最高幹部でも、ニコライと互角に戦えるのは、彼しかいませんし。サポート要員として、ナターシャさんとマリア局長。事態は刻一刻と変わるでしょうから、情報通信に優れているマリア局長も現地入りしてもらったほうが連絡はスムーズでしょう。あとは、ボリスさんにお願いするしかないでしょうね。彼は、最近の功績で、ギルド協会軍事参議になってもらっているので引き受けてくれるはずです」


「しかし、その戦力でも、厳しいかもしれない。たいていの戦闘は攻めるよりも守る方が有利だ。王宮にどんなトラップが仕掛けられているのかもわからない」


「今回は、2パーティー8人で行ってもらいましょう。作戦の現地指揮を執るために、ギルド協会本部の次席作戦参謀エカテリーナと、潜入工作の達人であるイーゴリ情報警備局長。そこに、情報局長直属特殊部隊の精鋭も2人つけます。3人は昨夜、すでに潜入に成功していますから、適任でしょう」


「あれ、エカテリーナは、第七艦隊の海上勤務では?」

 いきなり幼馴染の名前が出て驚いた。


「ああ、先の戦争の活躍で、陸上勤務になったんだよ。大佐に昇進したからね」

「そうだったんですか……」


 まあ、エカテリーナなら実力もあるし、作戦立案もうまいから頼りになるはずだ。それに、潜入経験もあるメンバーが加わってくれるなら、心強い。


「突入は、今日の深夜に行う。夕方に突入班が、ミラルに秘密裏に移動だ。それまでは、休んでおいてもらいたい。頼んだぞ、アレク君!」

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