第36話 リーフレタス
俺たちの休暇は続いている。ギルドからは、この前のヴァンパイア討伐の報奨金の振り込み通知とギルドポイントの獲得通知くらいしか連絡が来ていなかった。
あと、ナターシャは、ヴァンパイア討伐作戦の功績でA級中位まで出世し、職業内序列も4位となった。神官職はだいたい1位か2位までがS級資格有りと判定されるため、ナターシャも出世街道に乗っている。ギルドからも、本省課長級のポストを用意するから、正式に運営側に来て欲しいと誘われているようだ。
まあ、20歳でA級中位ってのも、なかなかないハイスピード出世だからな。協会が囲い込みたい気持ちもよくわかる。
しっかし、いつも忙しくしていたせいか、こう言う突然、暇になった時に、やることはないんだよな。ジャガイモも収穫まで、時間がかかるし。世話することも少なくて済む初心者向けの野菜だから、余計に時間を持て余していた。
「そうだ、たしかナターシャと買い物に行ったときに、買った野菜のタネがあったな」
秋に植えやすい野菜を商人に聞いて、いくつかのタネを用意したんだ。
たしか、リーフレタスとほうれん草だったな。比較的に世話が簡単な初心者向けの野菜を教えてもらった。
「じゃあ、今日はリーフレタスでも植えようかな?」
「あっ、先輩?新しい野菜ですか?」
ナターシャも外の用事から帰ってきたようだ。
「ああ、リーフレタスでも植えようかなって!」
「ああ、なら腐葉土を少し混ぜた方がいいですよ。そっちのほうがよく育ちますし!」
「さすがは、詳しいな!」
「それに、石灰も混ぜた方がよかったはずです。私が買ったやつを分けてあげますよ」
「ありがとう。でも石灰って、肥料になるのか?」
「はい!土のバランスを取るのに使うんです。鉱物を加熱して、砕いて作るんですよ!!この前イブラルタルで買ってきたんです!」
「ナターシャって本当にヴァイタリティあるよな……」
「伊達に修羅場をくぐり抜けてませんからね!今なら、どんな場所でも数日中に人が住める場所にすることができると思います!でも、石灰は効果は強いので、少なめにしてくださいね!」
※
「土を作った後は、種を蒔いて、水をやる。その後は、風で飛ばされないように濡れた新聞紙を上に敷いて固定!分かりやすい説明書をおまけにもらっておいて助かったぜ!」
少し種が余ったから、新聞紙にくるんで、保存しておこう。
これでだいたい2か月で収穫できるらしい。
こういう風に土をいじっていると、嫌な事とか忘れちゃうな。自分が生きていて、自然も生きている。そんな当たり前のことを実感する。
やっぱり、ずっと魔物との殺し合いの中で生きてきたからな。こういう風に、何かを作ったりするのは癒される。
俺の野菜を食べて、ナターシャが喜んでくれたらいいな。
そういう風に考えながら、俺も変わったことに気がついた。それも良い方向に!ニコライたちと旅していた時は、いろんなことにイライラしていたから、こっちに来てから人間的にも成長できたと思う。
ナターシャは、俺に落ちつく場所をくれた。
進むべき道を思いださせてくれた。
本当にあいつには、頭が上がらないよな。ずっと俺を信じてくれる大事な――
いや、これはまだ言ってはいけないんだよな。
俺は大事な気持ちを胸に、ナターシャのことを思いながら、野菜の世話をする。
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