第25話 ヴァンパイア
「よし、うまくいった。みんな!これで少しは、足止めできるので、先を急ぎましょう」
俺は一安心して、大聖堂に走った。
「いったいどうやって?ありえない、この威力はどう考えても、人間が起こしていいレベルを超えている。最上位氷結魔法の10倍近い威力。それは、もう、災害とか災厄とか、神の領域――」
マリア局長は、呆然とした声で俺の作り出した氷の世界に踏み出す。俺は、最上位魔法にほんの少しだけ工夫しただけなのにな。
「あいつ、ニコライパーティーにいた時より、力が強まってる気がするぜ。S級冒険者になっても、依然として成長を続けている。普通なら、成長限界とも言えるほどの域に達しながら――怪物だな」
ボリスもほめ過ぎだ。恥ずかしくなるだろう?
「先輩は、きっと最上位氷結魔法と、水魔法を組みわせたんですね。空気から氷を作るよりも、水から氷を作った方がエネルギーは少なく済むから。あの短時間で、そこまで計算しちゃうんですか。やっぱり、カッコイイ」
ナターシャが誰よりも早く俺の考えに気がついたようだ。さすがは、俺の相棒兼秘書官だな。こいつと出会ってから、俺はドンドン強くなっていっているのがよくわかる。
「無駄口は、作戦終了後にしよう。次が一番大事なんだからさ」
俺たちは凍り付いた大聖堂までついに到着した。手加減をしなかったから、中まで凍り付いているはずだ。運よく目標も固まってくれていたらいいのだけど?
もちろん、甘いとはわかっている。魔王軍幹部クラスがあの程度で死ぬわけがない。
俺も、西方師団長のゾークやクラーケンとぶつかった経験があるからすぐに見当がつく。
「やってくれたな、キミたちぃ?」
大聖堂の窓から、翼がはえたスーツを着た男が出てくる。
間違いない、こいつが
「まさか、キミたちが本命で、会長さんが
不気味な奇声を発して、ヴァンパイアは姿を消した。まさか、透明化か!?
これはまずいぞ。やっかいすぎる。
俺があいつなら、まず誰を狙うか。それは、マリアさんかナターシャのどちらかだ。神官職以外に、俺たちがあいつに対抗する術がないからな。
どっちだ、集中しろ。左側から、氷を踏む音がした。
「きいぃぃぃめぇたぁぁぁ」
姿を現したヴァンパイアは、定跡通りマリアさんを無力化するために、爪を突きつける。
彼女は、回避行動も取れていない。狙われた。
そして、俺は本能で動いていた。ギリギリ残っていた筋力増強魔法によって、跳躍し、ヴァンパイアとマリアさんの間に入った。
「マリアさん、危ない」
俺の鎧が、切り裂かれた。肩から激痛が伝わってくる。
「アレクさん、どうして?」
よかった。どうやら、マリアさんは無事らしい。うまく守ることができたようだ。しかし、おかしい。致命傷というわけではないのに、体に力が入らない。いや、声すら出すことができない。
これは――
「なぁぁんだよぉぉぉ、まだ、キミの順番じゃないよぉぉぉ。まぁいっかぁ。実はねぇ、僕の爪には、
動けない。やってしまった。俺は、ボリスにアイコンタクトを向けて、指揮を取るように頼んだ。
「ナターシャさんは、アレクに解毒魔法を!マリアさんは、チャンスを見つけて、あいつにあれを叩きこんでくれ。ふたりは俺が守る」
さすがは、ボリスだ。完璧な指揮を執ってくれる。
「たぶん、解毒には3分以上かかります」
「わかった。信じてくれ、守り抜く」
「よろしくお願いします」
「キミ、カッコイイねぇ~でもぉ、見えない敵に勝てるかなぁ?」
また、ヴァンパイアが透明化する。今度はナターシャを狙うつもりなのだ。俺への解毒魔法を使うために、完全に無防備になるから。くそったれ。どうして、こんなに大事な時に、体がうごかないんだ。
また、氷の音がする。かなり、近い。
避けてくれ、ナターシャ。
「はぁぁい、ふたりめだよぉ」
ナターシャに爪が突き立てられるのを、俺は見ていることしかできなかった。
鈍い金属音がした。
ナターシャの眼前で、ボリスの剣とヴァンパイアの爪が交差していた。
「はぁぁ?どうして、防げるんだいぃ?僕のステルス能力は完璧なはずなのにぃ」
ボリスはそんなヴァンパイアに笑って言う。
「見えなければ、防げないとでも?魔王軍の幹部様も随分、甘いことをおっしゃるんですね?」
ボリスの足が、ヴァンパイアの胴体にクリーンヒットした。スーツ男は、吹き飛んだ。
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