第10話 S級冒険者
「「「「「S級冒険者!?」」」」」
あっ、反応するところそこなんだ。てっきり婚約者のほうかと――
みんなの反応に、ナターシャ満足気の表情だ。
「ええ、世界で20人しかなれない"あの"S級冒険者ですよ~ 彼は、ひとりで戦争全体に大きな影響をもたらすほどの実力者なんです」
「もしかして、アレクさんって、昔、勇者ニコライ様のパーティーにいらっしゃいましたか?」
村長さんが恐る恐る聞いてきた。
「はい、今はわけあって、独立しましたが、ニコライは昔、相棒でした」
「……」
「じゃあ、バル攻防戦で、魔王軍西方師団の師団長ゾークと勇者様を一騎打ちさせるために、護衛部隊を一手に引き受けたという伝説は……」
ベール先生も質問してきた。なんで、みんなオドオドしているんだ。
「ああ、他のパーティーメンバーとは乱戦の中ではぐれてしまったので、仕方なくですね。ゾークには、ニコライの光の魔術しか勝機がなかったので、あいつの体力温存を最優先にしたんですよ」
「しかたなく、数百匹の魔物を……」
「さすがに、あの時は死んだかと思いましたね」
「えっ、もしかして、魔王軍幹部のクラーケン討滅作戦の際に、大きな損害を負ったギルド精鋭部隊の撤退時間を稼ぐために、ひとりで
ドルゴンたちの叔母さんもおそるおそる聞いてくる。みんな説明口調すぎない?
「本人は時間感覚とかなかったんですよ。ニコライたちの到着があと数秒遅れていたら、まちがいなくやられていましたし。作戦終わったら、重傷で1カ月の病院送りでしたし――」
「お兄ちゃん凄かったんだよ。私を助けてくれた時、おっきな熊の魔獣と一騎打ちして、攻撃全部かわしてやっつけちゃったんだ~」
アイラちゃんもなぜか、張り合うように俺の伝説を付け加えた。
「もしかして、あの森のデスベアーをですか――以前、全員B級冒険者のパーティーに討伐を依頼しても、みんな重傷を負ってしまい討伐失敗したあの森の主を? ギルドの調査だと、突然変異体でA級クラスの脅威だと言われていたんですが――」
「あ~、やっぱりあのデスベアー普通のやつより強かったんですね。1回攻撃弾かれたんで、正直焦りました」
「お兄ちゃんは、2回しか攻撃を当てなかったんだよ。2回目の攻撃で、魔獣が一瞬で燃えちゃったの」
「内心、ドッキドッキでしたけどね~ 本当に助けられてよかったです」
「「「「「本物だあああああああああああああああ」」」」」
今日、何度目だろ、この反応。
「じゃあ、この前、新聞に大きく書いてあった世界ランク2位になったアレクさんですよね」
「そうですよ、私の
いや、そこはどうしてナターシャが答えるの?
※
俺たちは、村長さんたちから離れて、馬車に戻っていた。
「ナターシャ、どういうことだ? なんで、俺のことを婚約者だって嘘ついたんだよ」
「だって~、年頃の男女が付き合ってもいないのに、ふたりで旅してるなんて、ただれた関係だって、疑われちゃうじゃないですか~」
「そうなんだけどさ、そうなんだけどさ~」
「だから、私たちの関係をわかりやすく、表現すると"婚約者"かなって?」
「なに、その発想の飛躍。天才すぎるだろ」
「へへへへ~」
「いや、褒めてないからっ」
ナターシャは抜群の頭脳で、俺のことを煙に巻いてしまう。いや駄目だ。今日こそは、はっきり言ってやらないといけない。
「だいたい、俺たちは再会してから、まだ3日だぞ」
「違いますよ、先輩? 馬鹿言わないでください」
「はぁ?」
「もう、8年経っているんですよ?」
「……」
くそ、何も言えない。
「私が、あなたのことを好きになってから、もう8年も経っているんですよ」
「でも、会えない時間の方が長かったじゃないか」
「その期間に、私があなたのことを考えなかった日が何日あるか、教えてあげますよ。0日です」
「ナターシャ――」
「バル攻防戦に、先輩が参加すると聞いて、大けがしちゃったらどうしよう。死んじゃったらどうしようってずっと心配だったんです。だから、先輩がS級になるまでは会わないっていう約束を破って後方支援要員になったんです。3日前の再会の時だって、先輩がたまたま、近くにいるって知って、嬉しくて、我慢できなくて、来ちゃったんです。そしたら、先輩はすごく傷ついていて、私も悲しかった。でも、大好きな人が大変な時に寄り添えたのが、本当に、本当に幸せだったんです」
「……」
「わかってます。先輩がどうして、冒険者になろうとしたのかも―― どうして、レジェンド級になりたいのかも、みんな知ってます。でも、嫌なんですよ。私は――私の気持ちが――私の大好きな人が――何も知らない野次馬のひとに、
ナターシャは基本的に優しい。優しすぎて、自分のことは簡単に我慢できてしまうほど、優しい。
「だから、先輩とただれた関係だと、思われるのが嫌なんです。私たちは、そんな汚れた関係じゃない。むしろ――」
「ごめん、ナターシャ。お前には、いつも我慢させすぎていたよ。俺のワガママばかり押し付けて、ナターシャには我慢ばかりさせてきた」
ナターシャは少しだけうつむく。俺に涙を見せないためだ。
「違います。先輩の夢は、私の夢でもあるんです。自分の夢を、先輩のワガママなんて思うわけ、ないじゃないですか?」
「ありがとう、ナターシャ。本当にいい女だよ、おまえは」
「やっと、気がついたんですか? 私は、先輩にもったいないくらい、イイ女ですよ?」
俺たちは少しだけ抱き合った。
その様子をアイラがこっそり見ていたことを知ったのは、それからすぐのことだった――
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