あんなに大切にしていた“誰か”の名前も顔も声も香りも日々の営みも思い出せなくなっていた

白い花の咲く道を歩いていた。

花の名前にはくわしくなくて、きっと薔薇だろう、と適当ににごした。記憶の侵食が始まっていると気づいたときには、なにもかもが遅かった。あんなに大切にしていた“誰か”の名前も顔も声も香りも日々の営みも思い出せなくなっていた。

「大丈夫だよ、兄さん。僕が傍にいる」


2022/12/15

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