逃げ出してきたんだ。夜のかみさまは、気まぐれだからね

ぱちり。月光がはぜる。弟は空のカップをのぞきこむ。白磁の底に月のかけらが散らばっていた。

「逃げ出してきたんだ。夜のかみさまは、気まぐれだからね」

兄はあたためた紅茶をカップにそそいだ。 「月が溶けちゃうよ」

「いいんだよ。今日は、よく眠れるさ。僕たちの薬よりも、ずうっと効果があるんだ」


2022/6/20

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