すきとおる翅を追いかけて、中庭に迷い込んだ僕を、兄の手が引き戻す

焦り。怒り。不安。僕には程遠い感情が、この手には込められているような気がした。

「にいさん」

すきとおる翅を追いかけて、中庭に迷い込んだ僕を、兄の手が引き戻す。傍を離れるな、と、榛の瞳が訴えている。

「痛いよ」

きっと、本気を出せば、このぬくもりを振りほどけるのは僕の方だ。

「離して、」 


2022/5/1

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