ミッション2:バレずにイチャつけ!
「先輩。あーんっ」
現在、俺は凛花ちゃんとイチャイチャしていた。
すぐ後ろの席には、愛里と真太郎がいる。声を潜ませての会話だが、当然危険はある。
何かの拍子にこっちに意識が向いた時点で詰みだ。
パクリとドリアを凛花ちゃんに食べさせてもらう。
「美味しいですか」
コクリと首を縦に振る。
間接キスどうこうよりも、こうして食べさせてもらうのが恥ずかしすぎる。
俺がつい照れてしまっていると、凛花ちゃんがスプーンを俺に握らせてきた。
小さく口を開けている。食べさせろという事らしい。
わずかに震える手でドリアをすくい、凛花ちゃんの口元に運ぶ。
凛花ちゃんは嬉しそうに破顔すると、俺に身を寄せてきた。
「なんか、ドキドキしますね……」
「う、うん」
ふわりと微笑みながら、本当に小さな声で耳打ちしてくる。
幸いにもソファの背もたれ部分が高いから、こちらの顔はおろか頭頂部すらほとんど見えていない。
しかし、当然彼らの話し声は聞こえてくるわけで、この状況下でイチャつくとなれば並のドキドキではなかった。
「真太郎。オレンジジュース取ってきて」
「自分で行けばいいだろ」
「ケチ。トシ君だったら何も言わなくても行ってくれるのに」
「トシヤを引き合いに出したところで、オレに効果はないぞ」
会話が聞こえてくる。
と、凛花ちゃんが急にモジモジしはじめた。
「どうかした?」
「い、いえ……その、いい加減限界と言いますか」
「俺だって限界だよ。でも、今は我慢しないと」
「でも、私もう我慢できないですよ先輩」
「落ち着いて。一旦脱力しよ」
「え、脱力なんてしたら、余計アウトじゃないですかっ」
「は?」
「と、とにかくどうしましょう先輩。私、もう耐えられそうにないですっ」
凛花ちゃんは怒っているというよりは、焦っている様子だった。
微妙に話がすれ違っている気がして、俺は小首を傾げる。
「何が限界なの?」
「と、トイレですよトイレ。先輩が来る前から結構ドリンクバー利用してたので、もうやばいというか」
「それホントにやばいやつじゃねえか」
「そ、そうですよっ。どうしましょう先輩!」
割と真面目にヤバかった。
俺とイチャついている合間にも、凛花ちゃんはトイレを我慢していたのか。
それでもう限界が近づいていると。
「バレずにトイレに行く方法……ググればでるかな」
「ネット過信しすぎですって! 真面目に考えてください先輩!」
涙目になって俺にしがみついてくる。
トイレまでは確実に愛里たちの席を横切らないと到着しない。ウチ一人のシスコンは、凛花ちゃんが近づくと匂いで感知する能力を持っている。
ただでさえ制服が同じだし、バレずに横切るのは難易度が高い。
「あーあ、面倒だけど真太郎動いてくんないから、自分で行こっと」
「そうしてくれ。ああ、せっかくだからオレ用にアイスティーを頼む」
「自分でやろーね」
「む。気が利かないな」
「お互い様じゃない?」
「ふんっ」
愛里と真太郎が席を立って、ぞろぞろとドリンクバーへと向かっていく。
瞬間、俺と凛花ちゃんは目を合わせた。
「これ、チャンスですよね先輩っ」
「ああ、今のうちに行こう」
後で俺もトイレ問題に困らされたくない。
凛花ちゃんと一緒に席を立ち、そそくさとトイレに向かった。
★
「いや、更に詰んでるじゃないですか先輩!」
「帰り方は考えてなかったな……」
トイレを済ませた後、俺たちは席に戻らず立ち往生していた。確かに、愛里達のドリンクバー離席によってトイレに行くことはできた。
しかし、こちらがトイレを済ませている間に、愛里達が席に戻ることを考えていなかった。正確にはそこまで考える余裕がなかった。
「こんなとこで立ち尽くしてたら余計目立ちますよ」
「でもこのまま戻れば、絶対バレるぞ……」
「じゃあいっそ滅茶苦茶堂々とイチャイチャしながら戻りますか」
「は?」
「だってヤツらは、私と先輩がイチャついてるとは露とも考えていない訳じゃないですか。だから、逆にバレないんじゃないかなと。逆転の発想です」
「いや、いくら何でもそれはバレるって」
コソコソするよりも、堂々としていた方が目立たないというのは一理ある。
だが、バレるリスクは相応に高い。
「……っ。ま、まずいです先輩!」
「え?」
この状況をどうしたものかと思案していると、凛花ちゃんの表情が曇った。
声につられて正面を見る。こちらへと迫ってくる真太郎がいた。
ドリンクバー、ではないよな。ついさっき行ったばかりだし。
であれば、トイレに向かっているという事になる。
まだ俺たちは目に入っていない様子。だが、それも時間の問題だ。まずいまずいまずい。
「ど、どうしますか先輩!?」
「どうするったって……えっと」
今からトイレに逃げ込むか?
いや、男用のトイレは一つしかない。真太郎がすぐに退散してくれる保証がないのに、その判断をしていいものか。しかもそれは根本的な解決になっていない。
俺は凛花ちゃんの手を掴むと、壁際へと追いやる。
「せ、先輩……?」
「静かに」
俺は口元に人差し指を置く。
凛花ちゃんを隠すように、ほぼゼロ距離で密着する。
吐息がかかる近さ。甘い香りが鼻腔をついた。
一応、真太郎からは俺の背中しか見えていないはず。
こんな場所でイチャついてる不自然さは拭えないが……。
真太郎が近づいてくる。
俺は凛花ちゃんと間近で目を合わせたまま、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「……(なにしてんだコイツら)?」
なにしてんだコイツらって目で見られた。
が、俺だとは気がつかなかったようだ。
トイレの中に消えていく真太郎。
俺は凛花ちゃんの元を離れると、ため息にも近い吐息を漏らした。
「な、なんとかセーフ……かな」
「は、はい……」
脱力する俺。凛花ちゃんは真っ赤に顔を染めながら、
チラリと、愛里の席を見る。彼女はポチポチとスマホをいじっていた。
「今のうちに戻ろう。愛里、スマホいじってる時は周囲見てないから、何食わぬ顔でしれーっと行けば多分なんとかなると思う」
「ま、待ってください先輩!」
俺が歩を進めようとすると、凛花ちゃんから待ったがかかる。
「え? でも、もう今行くしか」
「わかってます。でも少しだけ時間ください。じゃないと、平静を保てそうにないので……」
赤々と熟れたリンゴのように頬を染め、挙動不審な態度を見せる凛花ちゃん。
咄嗟の判断とはいえ、あれだけ間近で顔を合わせていたからな。……我ながら、大胆不敵な行動だった。
思い出すと、俺まで顔が熱くなってくる。
こんな調子で大丈夫だろうか……。
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