第20話 バトロワ、第一第二第三戦闘

 俺は手元を隠しながら、どちらに方向に敵がいるのかを指し示した。そして静かにカウントを取る。


「3、2、1、行くぞ」


 俺たちはいっせいに駆け出した。敵はまだ気づいていない。奴らの場所までこの速度なら十秒もかからない。10、9、8、チッ気づかれた。


「縮地」


 俺はさらに速度を上げ、こちらに銃を向けようとしている敵に接近した。そのまま勘で剣を構える。「弾はじき」と呟く。敵の挙動に合わせてスキルが走る。キィンッ、と甲高い金属音、手応え。俺は駆け、そして肉薄した。


「こんにちは! 死ね!」


 敵が腰に付けていたサーベルを振るおうとする。「スキルセット、パリィ」と俺は腰のソードブレイカーに手をかけ、マルチチャンターで自動詠唱を始めた。タイミングが来たので身を任せる。


【パリィ】【付与効果武器破壊】


 敵のサーベルは大きく弾かれ、勢いそのままに粉々になった。敵は揃って驚愕し目を剥く。気持ちは分かるが、援護に回らなきゃダメだぜ。


 俺は拾った剣でパリィを決めた敵の胴体を「スキルセット、貫通」と唱えながら刺し貫いた。そして一捻じりしてから引き抜く。血が吹き出したので、それを敵の仲間にもかけてやる。目つぶし。これで二人動けなくなった。


 つまり、敵のスクワッドで動けるメンバーは残り二人。そして俺の部隊にも、残り二人手が空いている。


「これで優位取ったぞ」


 Dさんとキッシー君が追い付いてきた。敵はハッとして物陰に逃げようとするが、俺のLMG牽制がそれをさせない。


「ッシャア! 行くぞぉ!」


「お命、頂戴する」


 Dさんは流石のエイム力でマグナムの二連ヘッドショットを決めて一人を確殺し、キッシー君は宣言通り敵の乱射の全てを切り伏せ、そのまんま一人の首を刎ねた。


 俺はそれを見ながら「すげー」と言いつつ、目つぶしで明後日の方向に逃げようとする一人を、背中からLMG掃射。ぐっばーい。


 これで四人をサックリ殺したことになる。んー。まぁまぁってとこか。


「うおおおお! アガルぜこれ! めっちゃ楽しいじゃんかよコメオっち!」


「ふむ、いいですね。戦の開幕としては文句ない出来かと。しいて言えばもう少し骨のある相手もいると良いのですが」


 Dさんは大喜びで、キッシー君もうむうむと上機嫌だ。っていうかそうか、これがバトロワのファーストキルか。そりゃ楽しいよな。


「お、つーか俺たちの名前が右上の表示されてら。そうか、キルログ流れんだな」とDさん。


「あ、そうそう。知り合いばっかのバトロワだと結構それが楽しかったりするんだよ。あ、○○さん××さん殺してら、草。みたいな」


「殺伐とした笑いですね」


「好きだろ?」


「いやぁ……」


 意外にキッシー君には不評の模様。Dさんはもちろん「いいなぁこれ。キルログ俺たちの名前で埋めようぜ」と無茶を言い出す。いやでもそれもおもろそうだな。


「よっしゃ、じゃあ二人とも物資漁ろうぜ。アーマーいいの持ってたら剥いで着といてくれ。そう、そのベルトみてーの。アーマーがあるうちはケガしないから」


 軽く探った様子だと、LMGで掃射した奴以外はアーマーを着ていたらしい。でも俺たちがアーマーガン無視で貫いたりヘッショ決めたり首刎ねたりしたので意味がなかったみたいだ。南無。


「これ、本当に意味あるのですか?」


 なのでキッシー君は首を傾げながらシールドアーマーを装着している。ベルト型のそれを腰に巻くと半透明のシールドが、上半身は首まで、下半身は足首までを覆ってくれるのだ。そして透明と化す。


「相手は苦戦してくれるようになるぞ。俺たちは無視して殺すけど」


「ほー、そういうもんかぁ」


 という事で俺とDさんがレベル1アーマー、キッシー君がレベル2アーマーと言う感じで装着。他にも全員がヘルムを被ったりして、ひとまず即死はそんなにない状況になってきた。


「回復はどんだけある? 今のうちに平等分配するぞ」


「共産……!?」面倒くせぇボケかますなよDさん。


「回復? どれですか?」そうか説明しなきゃなのか面倒くせぇな。


 俺は簡単に「このタンクみてーなのがアーマーの回復。このお薬みたいなのが体力の回復な」と説明する。


「俺はどっちも三個ある。二個以下ならあげる」


「はい先生! アーマー回復が一個でーす! お薬は足りてまーす」


「師匠、僕は一つも持ってません」


 俺はキッシー君に贈呈。Dさんは少し寂しそうにしている。


「と、ざっくりこんな感じだな。何か痛いなとか、動きにくいとか思ったらケガしてるはずだからお薬使ってくれ。アーマーは割れるときガラス割ったような音がするから、遅くともそのタイミングで回復するように」


「アーマーの残量はどこから確認できるん?」


「装着したらARディスプレイ側にアプリが自動インストールされるから、そこ見て」


 Dさんは色々いじくって発見したらしく「おー」と言っている。キッシー君は……ARディスプレイ持っとるかどうかも怪しいけど、そもそもこの子攻撃食らわないでしょ。いけるいける。


 そんな感じで俺たちは早速勝利を一つ飾った感じになる。んー、まぁ予想通りサクサクだったな。このメンツ、人数こそ一人欠けるが質がバリ高いし。


「さってと……次はどうしようかね」


 マップを見る限り、次の収縮範囲は遠い。軽く走る必要がありそうだ。


「バトりたいぜコメオっち!」


「師匠、僕も次の相手を所望します」


「そうだな。とりあえずこの地点目指して走りつつ、何かいたら殺すか」


「あいよー!」


「承知しました」


 俺たちは走り始める。結構ペースは早めだが、このメンツで息を切らすようなのは居ないみたいだ。


「ってか、何でそこに走るん?」


 Dさんに質問され、俺は「範囲収縮があるからな」と答える。


「範囲、収縮……ですか。何の範囲なのですか?」


「生存可能範囲。外に出ればあぶられたり毒の散布だったりで死ぬ」


 俺が説明すると、Dさんは「ふは」と鼻で笑い、キッシー君は「なるほど、どうしても殺し合わせたいのですね」とニヤリ。そうだな。殺し合いを見せモノにしてるんだから、日和って戦わない奴は焼かれて死ねってとこだろ。俺もそう思う。


 という事で俺たちは、野原をサッサと移動する。遠くで銃声が聞こえる。「コメオっち~」と乞われるが「音の響き方的に1kmは離れてるから、これはダメ」と釘を刺した。殺しに行って範囲に焼かれるのはバカバカしい。


 という事で何もなく次の範囲に到着。他プレイヤーによる検問もなしだ。何かザコ魔物がうろちょろしてたのでついでに殺したが、俺たちの敵ではない。


「ちな、バトロワって勝利までに何回戦う感じなん?」


 Dさんの質問に、俺はこう答える。


「状況と場合とメンツによる。全員ぶち殺すぞって思いながら来ると十数部隊とバトることもあるけど、ほどほどに、ってなったら2~3部隊とやって終わり、なんてことはザラだな」


「そんなに少ないのですか」


「いや、逃げ隠れしたら最後の一回戦うだけ、なんてこともあるぞ。そういうときはだいたい死ぬけど」


 バトロワは基本日和る奴は弱い。詰められる場所に敵がいたら、とりあえず詰めるようじゃないと大概負けるのがセオリーとしてある。もっとも、いつも強い奴があえて、という場合はもちろんあるが。


「んじゃ全員ぶち殺そうぜ!」


「はい。戦いたいです」


「ふむ、戦闘狂どもめ」


 けど、今は範囲に余裕があるし、それもいいだろう。


 俺はマップを見て、ここから近い、人が集まりそうな大型施設がどこか探した。何か近くに倉庫っぽいのがあるな。


「んじゃあそこ」


「敵いる?」


「わがんね。居る可能性は高いんじゃね」


「おーし行くぞぉ!」


 わー、とダッシュを始めるDさん。物資とか全く気にせず生きてんなこの人。まぁお得意の幻想魔法がそう言う系だし、本当にどうでもいいのだろう。


 俺もすぐに駆け足でDさんに追いつく。Dさんは左手に五つ、紐で連結した指輪のようなものを装着していた。


「お、定番の奴いく?」


「いんやまだ。状況見てな」


「?」


 俺とDさんの会話に、キッシー君は首を傾げている。「あとで説明してくれるってよ」と俺はキッシー君に言いつつ、三人そろって倉庫へと急いだ。


「お、銃声じゃんか! 敵いるぞ敵!」


「激しくやり合ってんな。ん~……。多分3部隊。内1部隊がこっそりちょっかいをかけて、2部隊がぶつかってるのに茶々入れてる」


「よく分かりますね」


「慣れだよ慣れ。ホラ、よく聞くと上階でずっとやり合ってんのに一階でこそこそ歩き回ってる奴らの足音するじゃん」


 銃声はバラバラとうるさいが、その合間でわずかながら足音はある。大体三人分。一人欠けてるのかね。


「詰め方はどうするよコメオっち」


「下の奴らをステルスかつ超高速で捌いて、俺たちがそのポジションに納まる。んでぶつかり合いに投げもので茶々入れて、両サイドが2-2くらいになったら俺たちで突っ込んで殲滅」


「承知しました。では、僕が先陣を切ります。隠密には自信がありますので」


「任せた」


 キッシー君は一つ頷いて、耳を澄ませながら倉庫にそっと忍び寄った。俺とDさんは後からついてきながら、後方から何者かが来ないかもチェックしておく。


「ん、Dさん、倉庫に近づいてくるのが1部隊いる」


「マジ? ん~……おけい。任せろ」


「任せた」


 すたこらサッサと、Dさんも迂回していく。どうやら室内3部隊は俺とキッシー君任せという事らしい。定石的には迂闊に散らばらない方がいいのだが、俺たちは個人戦闘力が高いので、この場合はこれでいいだろう。


 ということで、一階の入り口傍で呼吸を整えるキッシー君と、すぐ背後に俺。そして一人迂回でどっか行ったDさん、という構成になる。俺はキッシー君と目配せをして、突入した。


 階下にいたのは、予想通り三人だった。まず突入したキッシー君が一人を誰にも気づかれずに背後から串刺しにし、流れるままに俺とキッシー君のダブルキルだ。


 俺は口を押えて背後から首をソードブレイカーで一閃。キッシー君はさっくり首を刎ねた。首はアーマーで守られてないからな。近接戦ならここを狙うのがいい。


 俺はキッシー君と目配せをし、それからキッシー君、右の階段、俺、左の階段の順に指差しをした。キッシー君が頷いたので、今はぎ取ったフラッシュバンを渡しておく。首を傾げられる。あら、ご存じない。


 面倒なのでピンだけ抜いて手渡した。レバーを手放さないようにだけ手元で注意して、後は投げる動きでキッシー君は爆速理解だ。俺も手元のグレネードでちょっかいかけてからつーめよ。


 指を立ててキッシー君に合図する。三、二、一、よし投げるぞ。


 俺たちは同時に投げものを上階に投げ入れた。一拍おいて炸裂。俺側は血が飛び散り、キッシー君側では光が瞬いた。「詰めるぞ詰めるぞ詰めるぞ!」と叫びながら、俺たちは駆けあがる。


 俺が駆け上がってすぐ、腕に大けが負って壁を背にした女の子が銃を向けていた。片手。俺はすかさず手を蹴り飛ばして銃を手放させる。他は俺のグレで死に体と言った感じで、突っ伏して呻くばかり。


「く、そ、……死に、死にたくな」


「死んだ方が痛くなくね?」


 女の子が理解できないものを見る目で俺を見る。何でやねん、と思いつつ俺は雑に掃射して全滅させた。部隊一掃完了。向こうでも「ぐぇっ」「たっ、たすけ」と小さな悲鳴が上がったので向かうと、キッシー君が撫で切りにしているところだった。


「終わったっぽいな。流石キッシー君」


「師匠も見事な手際です。お疲れ様でした」


「いやいやなんの」


 互いに健闘をたたえながら、俺は人の気配を察知してさらに上へ。小さな階段と、屋根の上に出られる扉がある。


 三角屋根。そこには、Dさんが部屋の頂点に姿を隠しながら、銃を片手にうつ伏せに寝そべっていた。


「新手は向こうか?」


 俺がDさんに尋ねると、Dさんは「んっん~」と曖昧なお返事。


「そうだなー……。結構近接戦で腕が立ちそうな感じがしててよぅ。今のやり取りで少し警戒してるから、どうしたもんかなって」


「どうしたもんかなってのは?」


「コメオっちとキッシー君がバチりてーかなって」


 俺とキッシー君苦笑い。それから「俺たちは楽しんでるから、Dさんも楽しんでくれ」と返す。


「お、悪いね。んじゃあの四人は貰うぜ」


 言って、Dさんは左手を伸ばした。その指先には、紐で括られた妙な五つ指輪。Dさんは左手をぐっぱぐっぱとやって、ニヤリ笑う。


「システム~、ハッキン!」


 Dさんの唇がマルチチャンターの自動詠唱を始める。同時、Dさんの指が奇妙に蠢く。


 それは現実世界を虚構化する、独自の幻想魔法。現実世界をシステム化し、コードを書き換え、パラメータをいじくってしまう離れ業。


 その右手に持っていたマグナムの周囲に、電磁的なバグが発生する。キッシー君は「面妖な……」と呟く。Dさんの魔法を理解することは難しい。Dさんは魔法を唱え終え、そしてハッキングを終わらせた。


「掌握完了~っ。んじゃ、マグナムを違う武器に変更しますか」


 簡単な左手の仮想タイピングで、Dさんは武器管理パラメータを書き換えた。それによって、マグナムの情報がスナイパーライフルのそれに書き換えられる。マグナムという実銃は現実にありながら仮想化され、テクスチャも実質性能も、管理番号書き換えだけで変更される。


 そうして手元に現れるのは、ちゃんとバトロワで用意されているそれだ。いやホント、何度見てもわけわからんことしてんなこの人。


「あとは、オートエイムと障害物貫通のMOD入れて~」


 んじゃ、もらうな。とDさんは屋根越しにスナイパーライフルを構えた。ライフルは人間が扱っているとは思えないほどスムーズに移動し。


「ばきゅーん、だ」


 連続四発。そのたった四発が、にじり寄るように接近していた一部隊の殲滅した。すべてヘッドショット。ほとんど作業のように、別部隊を倒してしまった。


「いや~……Dさんとだけはやりたくねぇわ」


 俺はぽつりともらす。「俺もコメオっちとだけはごめんだなぁ」とDさんはくつくつ笑う。キッシー君も「今のは、どういう事ですか? 弾が、屋根をすり抜けていきました」と動揺した様子で言った。


「何てこたねぇよ、キッシー君やい」


 Dさんは答える。


「俺の幻想魔法は、世界をゲームに、俺をゲーム開発者に変えるだけさ」


 ニ、と笑うその瞳には、ただギラギラとした輝きが宿るのみ。


 これが歴代最速と謳われるRDAプレイヤー。『ゲームと現実の区別がつかなくなった挙句現実をゲーム化した男』『現実でバグみてーな挙動をする変態』『ダンジョンレイパー』と揶揄と羨望を一身に受け止める人物。


 【最速】Dがそこで笑っていた。

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