第19話 バトロワ、着陸と物資漁り
「あぁ、復讐か? ふん、お前が考えそうな下らないことだな。だが俺たちは不敗、不死、無敵。お前なぞに負けるものか」
「あーはいはい。俺はダチ連れて遊びに来ただけだからさ。偶然を故意と勘違いされてあーだこーだ言われると萎えるので俺たちは先に入場してるわ」
「おい! 話はちゃんと最後まで聞いていけ! ハッ、行ったか。まったく忌々しい……。しかし、奴ら3人だったな。余程苦労して人数集めをしたらしい。笑えることだ。ハハハ!」
後ろからわいのわいの聞こえてきて、とってもウザイことこの上ない。Dさんが「何なんあいつら?」とあきれ顔で質問してくるのに、俺は「頭おかしい人たちなんで会話しない方がいいよ」と端的に告げた。
「コメオっ!」
だが、その中から一人、追いすがってくるものがいた。俺は目を細めて振り返り、そして開く。
「ゴウじゃん。そうかそうだ。参戦ならお前がいないとおかしいよな」
ゴウ。『無敵』のゴウだ。直接戦闘負けなしの傑物。その体躯は、大柄で筋骨隆々だ。2M弱もある背丈は、見上げなければならないほど。
「コメオ! ああ、驚いたぞ。お前がまさか抜けてしまうなんて……しかも追放とは」
「追放?」「師匠、追放って何ですか」
Dさん、キッシー君が食いついてくる。やめてくれ、その話題は俺に効く。
「ヤオマサに話は聞いてるだろ。俺から言う事は何もない。顧問に根回しした上で強権発動されちゃあ、俺からはどうしようもない」
「……そうだな。今日のバトロワは、偶然か?」
「ああ、偶然だ。それ以上でも以下でもない。ゴウからすれば俺が復讐しに来たように見えるかもしれんが、俺はむしろ追い打ちにでも来たかって被害妄想寸前だ」
「ふ。ひとまず、軽口を叩ける程度には元気そうで何よりだ。……力になれなくてすまないな。連絡に返信もしないから、心配していた」
「あー……」
そういやサークルの奴ら、見境なしに全員ブロックして友達一覧から消去した夜があったなぁ。限界だったわあの時のメンタル。ゴウは悪くなかったと思うが、あの時の俺はそれを考慮できるほど余裕がなかった。
「まぁ、いいさ。お前ならどこでもやっていける。一位だからと言って、ウチなんかでくすぶる人間でもなかったと俺は思う」
「引き留めたりはしないのな」
「今更追放されたところに戻りたいコメオでもないだろ?」
「そうだな。ヤオマサに伝えといてくれ。俺の前に立ちふさがったらぶっ殺すって」
「ハハ。伝えておこう。というか、俺もその一人だよな、それ」
「あん? そんなん当然よ。むしろヤオマサよりか燃える」
「お前はやっぱり最高だ」
クックとゴウは笑う。それから、言った。
「だが、新メンバーは強いぞ。正直反則に近い。コメオ、お前でも相当に苦戦を強いられるだろう。油断せずともお前が負ける可能性は十分にある」
「へぇ? 俺の後釜ってーと、女の子だったよな」
トローンとした瞳が印象的な子だった気がする。強そうには見えなかったが、ゴウが強いというからには強いのだろう。反則に近い、という言い回しが気になるが。
「強烈な魔法使いだ。お前は一芸特化の幻想魔法使いだったが、ねむは一芸特化の空想魔法使いになる」
「空想魔法か。珍しいな」
情熱、あるいは自意識でもって、現実を改変してしまう魔法。空想魔法はその性質ゆえに、非常識性に宿るとされる。要するに、超変わり者のアーティストなんかはそのまま凄腕の空想魔法使いになったりする。
バトロワは戦術を知って定石を知って経験を元に生き延びる、というプレイヤーが多い。言ってしまうなら、周囲の幻想を知り、それを逆手に取る、と言うようなことをする。つまりは大人の魔法、幻想魔法が俺たちによくなじむ。
「その、『ねむ』さんってのと戦うのも、楽しみにしてるな」
俺はそう告げて、チーム三人で控室へと向かった。ヤオマサは正直関わりたくもないが、ゴウと久々に話せたのは少し楽しかった。
それから控室に入ると、「良かったん? 色々と積もる話がありそうだったけんどもよ」とDさんは言う。キッシー君も心配そうだ。
だが、俺から言うことはやはりない。
「いいんだよ、あんなもんで。終わった後でも話せるだろ」
「終わった後ってあいつらか俺たちが死んだ後ってことだよな? 俺たちはともかくあいつらってそんな死に慣れてん?」
「……諸説あるな」
「かつてないくらい曖昧な受け答えですね師匠」
うるさい。いいから準備して飛行船乗るぞこら。
バトロワのルールは、大まかに三つ覚えておけばいい。
一つは、武器の持ち込みは一つまで。他メインとなる武器はその辺に落ちているから拾えると言う感じだ。ちなみに俺の持ち込み武器はソードブレイカー。まぁかさばらないしパリィは慣れた武器のがいいよな、というだけだ。
一つは、開始時は飛行船に乗り、着陸後に争えよ、ということ。だから俺たちは今、他の参加者たちと並んで飛行船で揺れている。ダンジョンというのはこういう訳分からん広さのものもあるのだ。上空何メートルだよこれ。数百メートルはあるんじゃねーの?
最後の一つは、味方以外全員死んだら勝者、ということ。バトロワのバトロワゆえんだ。目につく奴らは皆殺し、ということである。
他にも範囲縮小だとか、ステージオブジェクトで射線切りとか、もちろんダンジョンなので中に魔物がうろついてたりだとか。要素は様々あるが、どれも小ネタなので都度説明すればいいだろう。
「よし! 二人とも降りるぞ! 降下だ降下!」
俺は声が風圧に負けないように大声を出して、我先に、と飛行船から飛び降りた。そこに、Dさん、キッシー君と続く。
「よぅし! 降下ぁ!」
「ひゃっほぉおおおおう! 初! バトロワだぁぁぁぁああああ!」
「ぎゃぁぁああああああ! 落ちる! 落ちてるぅぅううううううう!」
三人そろって降下しながら叫ぶ。いやぁ、始まった感があるな。ワクワクしてくる。RDAも楽しいが、他ルールもいい。人間とはいくらでも遊びが出来るなと実感する。
俺たちは、ダンジョンを囲う小さな島の、隅っこに落ちていくことにした。人が集まりそうな大規模な建物は目指さない。激戦区はただでさえ事故るので、初心者を連れていくのはリスキーすぎる。
ということで、俺たちは家が3つ4つまばらに立つ、小さな集落っぽいところで着陸していた。パラシュートは自動で開き、そしてそのまま空気中に溶けていく。かさばらなくて楽だわー。
「よぉーし! 初バトロワじゃー! とその前に、キッシー君大丈夫かい?」
「あ、あ、あ……。だ、大丈夫、です。少し時間を貰えれば」
Dさんの呼びかけに、キッシー君は腰をがくがくさせながら地面を抱きしめていたので、ひとまず放置することにした。
俺とDさんは目配せし合って、「んじゃ俺あっちの二軒荒らしてくる」「おうよ! 俺はあっちを漁ればいいんだな?」と別れた。
俺はさっくり扉を蹴破って、適当に落ちてる武器をちょうどよく落ちていたカバンに詰め込んでいく。キッシー君が漁れないから、彼の前に持って行ってやろうの精神だ。我ながら優しすぎる。
ということでポイポイ弾薬、銃、弓、長剣など拾いつつ、俺は高速で漁り終了。キッシー君の前に戻ってくると、まだDさんは漁りの途中らしかった。この辺りはバトロワの経験値だな。
「よし、じゃあDさんは自分の武器くらい見繕えるだろ、ということで、キッシー君にざっくり武器紹介をしていきたいと思います」
「は、はい。剣、弓は慣れているのですが、これは、……銃、ですか?」
「あ、キッシー君流石に銃は知ってたか」
「はい。何度か撃たれたことがあるので」
あるんや。
「最初はそれで苦戦しましたが、今では弓となんら変わりません。弾丸を弾き切り、そのまま敵を切り伏せるのみです」
「おぉ……」
キッシー君って知ってはいたけどかなり強いんだな。俺のパリィも、まさかディレイごときで躱してくる奴なんか、最近じゃほとんどいなかったし。
あのディレイにも対応したけどな。しばらくは全部すんなり決めれると思う。
「ということで、僕はこの剣をいただきます。師匠はどれにするのですか?」
「俺はキッシー君優先で、余りもん貰うよ。ってことで、LMGともう一つ剣だな」
「える、えむ、じー……」
「簡単に言うと、すげー量の弾を連続でバラまけるやつ。銃パリィ決められればこっちのマグナム持っててもよかったんだけどな。エイム力も弱いし、雑に撒いてもある程度効果がある奴が俺にはちょうどいい」
バトロワで拾える武器なんか正直大したものは無い。どれも一定の所で似たり寄ったりと言ったところだ。
剣もただの剣で、一番いいのを拾えたとしても俺のいつものロングソードよりいいかどうか。これは同じくらいの品質だ。少しいつものより短い。
だが、防具はほどほどに差が出る。
「よし、じゃあおさらいな。バトロワの流れをざっくり説明すると。拾って殺して武器をいいのに変えて、マップ見ながら範囲縮小で死なない場所に移っていく、って感じだ。殺せば殺すほどスコアは上がるけど、今回はそんなに気にしなくていい」
初心者だしな。対面で死ぬようなメンツじゃないが、バトロワで一番怖いのは事故と分からん殺しである。激戦区に赴くと、状況を把握できなくなって死んでいくことのが多い。
「はい。……と、師匠。大師匠がお帰りです」
「うぃ~! コメオっち~。色々持ってきたぜ」
バックもなく両手両脇に武器を目いっぱい持ってくるDさんだ。そこまでするのなら家の中に呼んでもらった方が、狙撃に対して安全だったりするのだが、まぁ今言っても仕方がない。
俺は軽く周囲の気配を探る。ん~。いねぇだろきっと。ん? ああ違うわ。いるね。伺ってるが、こっちに来るつもりはなさそうとみた。武器不足かな。
「敵いるので最低限注意しといてくれ。息を殺してこっちを見つつ漁ってる。仕掛ける気はそんなになさそうだな。初心者っぽいメンタリティーを感じる」上級者はろくな装備持ってなくても詰めに来ることがままある。俺とかもよくやる。
「え! 敵いるのか! ……どうする?」
「ん? どっちでもいいよ。攻めて殺してもいいし、見逃してやってもいい」
初心者とはいえ、こんな隙だらけを攻めてこないなら大した物資は持ってない。殺しても旨みがないのなら、攻められない限りは放置だ。何せこちらは初心者連れ。
だが二人の意見は違うらしい。
「おおお! なら行こう! バトロワの始まりだ!」
「そうですね。僕も軽くやってみたいです。迷宮で鍛えたこの腕が、世界にどれだけ通ずるか……」
戦闘意欲高めだねぇ君たち。
「おーけー。詰めよう。なるべく壁際で、敵から射線切れるようにだけ気にしといてくれ。とりま全員シールドヘルムだけ被って。頭抜かれて即死はなくなる。あと武器は青いのあるな。その中から好きなの適当に選んでくれ」
俺はみんなでかき集めた中から、首輪っぽい装備を渡した。首にハメると、半透明のシールドが頭を覆い、そしてまた透明に戻る。これでひとまず、頭を打ち抜かれて即死はなくなった。……一部の銃を除けば。
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