第64話 武道大会(7)

武道大会もいよいよベストエイトがぶつかる準々決勝の日が来た。


最初の試合はブルネリア王国Aクラス魔法師対獣人国Aクラス冒険者の魔道剣士の対戦だ。


開始の合図と共に魔法師が無詠唱で【ファイヤースプラッシュ】を獣人国魔道剣士に向かって放つが【身体強化】を掛けて物凄いスピードで移動する獣人によって躱されてしまう。


魔法師はすぐさま【土壁魔法】で身を囲って獣人の接近攻撃を防ぎに行く。


しかし、驚異的な身体能力を持つ獣人族のタイガーは3mある囲いをジャンプして魔法師の頭上に剣を打ち下ろして勝負を決めた。


準々決勝第二試合はメルカ王国Sランク冒険者アルバーとオルバル帝国Sランクのアドルフの対戦になった。


共に剣士で初級の魔法はお互い【身体強化】と初級魔法の【ファイアーボール】か【ウォータースプラッシュ】程度ができる力量の持ち主だ。


最初に仕掛けたのはオルバル帝国アドルフで【瞬足】でアルバーに襲い掛かるが、上段からの攻撃をアルバーはワンステップ後退して軽くかわしながら逆に剣を横に薙いでアドルフの横腹を襲う。


アドルフはそれを左手の短剣で防ぎお互い間合いをとる。


メルカ王国アルバーが今度は【ファイアーボール】を打ちながら間合いを詰めて来るもアドルフは【ファイアーボール】の全てを剣で切り裂いて消し去ってアルバーの胸に鋭い突きの一撃を襲う。


アルバーは剣で払ってそれを防ぐ。


一般の観客達には二人の一連の動きが早すぎて目視が追いついて行かないがハヤトは楽しんで他国のSランクの力を観て居た。


「旦那様、二人とも攻撃が今ひとつ単調で遅いですね、これではビズモンドさんが優勝するのでは?」


「いやいや、メルカ王国のアルバーさんはもう一つ隠し球を持っている気がするけどね、どうだろう・・・」


ハヤトがそう言った時・アルバーが【幻影】の魔法を使いアドルフの意表をついて背後を取り、なんとアルバーが準決勝進出を決めた。


その試合をビズモンドもしっかり観て居て、何やらニヤリとして得心がいった様に頷いている。


準々決勝三回戦はブルネリア王国Aクラス冒険者とオルバル帝国Aクラス冒険者の対戦になった。


両者とも同程度のスキルと力量で勝負がなかなかつかず最後は体力の若干勝るオルバル帝国の冒険者が勝利をつかんだ。


準々決勝最後の試合にいよいよビズモンドさんが登場した。


相手はメルカル王国Aランク冒険者だがビズモンドは油断することなく【瞬足】で一気に間合いを詰めて、フェイントで正面を取り一瞬で背後に回り込んでメルカル王国冒険者に勝利した。


これにより午後からの準決勝の組み合わせは、獣人国の冒険者タイガー対メルカル王国Sランクのアルバー、オルバル帝国Aランク冒険者対ビズモンドSランクの対戦と決まった。


組み合わせにも恵まれてビズモンドはこの分だと決勝まで駒を進めれると彼自身は少し余裕で準決勝を待つことができると警護のガードマンを従えて競技場から昼食を取りに競技場内の食堂に向かった。


”夜明けの光”の4人も勿論周りを固めてついて行く。


アレンと、ドリスは10メートル程後ろを同じく食堂に向かう。


更に後方をハヤトとセリーヌが客に紛れて歩いている。


ハヤトは【サーチ】をかけて歩いていると殺意を抱いた3人の賊が関係者を装ってビズモンドの背後を狙って近づいて行くのを検知した。


直ぐにアレン、ドリス、ガードマンとキラービー達に『念話』で伝えキラービーの3匹がそれぞれ賊の上空から首の付け根に毒針を刺して上空へと逃げる。


アレンとドリスが彼ら3人に更に当て身を食らわして倒して何事もなく人の流れに溶け込んで食堂へと向かう。


周りの客は倒れ込んだ3人が貧血でも起こしたのかと周りを囲んで介抱するも賊の3人の意識はビズモンド等が食事を終えて会場を戻るまで意識が戻ることはなかった。


ハヤトとセリーヌが賊3人を介抱するそぶりで、更に軽く掌底破を当てて意識を奪い取っているのを誰も気がついて居なかった。


救護班を呼んであげて何食わぬ顔で食堂に向かうハヤトとセリーヌ。


昼食休憩を2時間挟んで準決勝の二試合が始まる。


獣人国冒険者タイガーとメルカル王国Sランクのアルバーの試合は驚異的な身体能力を発揮して居たタイガーでも流石に【身体強化】を掛けたSランクのアルバーには及ばず10分ほどでアルバーが勝利した。


準決勝最後の試合はオルバル帝国Aランク冒険者とビズモンドの対戦だ。


ビズモンドは明日の試合を考え手の内を見せずに【瞬足】で冒険者の裏を取り首に剣を当てて意識を奪ってものの1分ほどで勝利する。


明日の決勝はメルカル王国Sランクのアルバーとブルネリア王国Sランクビズモンドの対戦となった。


オルバル帝国ハンニブ皇帝は自国のSランクのアドルフが負けて結局主催国が決勝に残れない事に機嫌はすこぶる悪い。


宰相のアーロンはこういう時は近づかない事に越したことがないと長年の経験から

離れている事に決めている。


明日の決勝は王妃を皇帝の側につけて自分は離れた席から観戦しようと心に決めるのだった。


ビズモンド一行は宿屋に戻り、夕食まで夫々の部屋で休む事にした。


「ビズモンドさん、決勝進出おめでとうございます。夕食までは外出のご予定はありますか?」とハヤト。


「いや、きょうは夕食を食べてからも出ずにのんびり明日の決勝にそなえるから部屋ごといつもの様に【結界】で守ってくれて構わない」


「ビズモンドさんは気がついて居たのですね?」


「あははは、ハヤト君、だてにおれもブルネリアのSランクを張っているわけではないぞ!」


「申し訳ありません」とハヤトは率直に恐縮して謝っておく。


「いやいや、今日も賊を事前に無力化してもらって、お礼を言う。本当に4日間は君たちに助けられている」とビズモンドが丁寧にお礼を言ってくれた。


「それでは夕食時に食堂でお待ちしてます」


ハヤト達も二階の自分たちの部屋でセリーヌとのんびりしてビズモンドの部屋を【結界】で囲って更にアレンとガードマンを配置させた。


その晩は何事もなくいよいよ決勝の朝を迎える。


いつもより少し早めに朝食を取り、宿に追加料金の清算をドリスに頼んで出口でビズモンドを待っている。


”夜明けの光”の冒険者に四方を囲まれて出てきたビズモンドが競技場に向かう。


しっかりガードマンが背後を守り、数メートル先をアレンとドリスがギルド職員らしく先導する形で競技場まで歩いて行った。


競技場までの道のりも何事もなくビズモンドは控え室に入り、10時からの決勝戦を静かに待っている。


係員が呼びに来て、いよいよ決勝戦だ。


メルカ王国Sランクのアルバーとは初対戦だが負ける気はしない。


客席からハヤトはアルバートを【鑑定】して、恐らくビズモンドが勝つと予想した。


静かに対峙するふたりのSランク。


同時に【身体強化】を掛けて加速し、戦いが開始される。


アルバーがアドルフに使った【幻影】でビスモンドの前にもう一人のアルバーを作り出すがビズモンドは軽く剣で打ち消し、瞬時に本体がいる横斜め前のアルバーに【ウォータースプラッシュ】を放ち更に重ねがけで足元に【束縛】魔法を放つ。


アルバーはビズモンドが多重魔法を使えるとは思って居なかったので一瞬の対応が遅れてしまう。


ビズモンドがその一瞬を見逃すはずもなく【瞬足】でアルバーの首筋に剣を当ててあっけなく勝負がついてしまった。


審判の「勝者ブルネリア王国Sランク冒険者ビズモンド殿!」と声を聞いてビズモンドはアルバーに駆け寄り健闘を称えあって握手で別れた。


その後オルバル帝国から優勝賞金と賞品の数々の授与式が滞りなく終えて1週間弱続いた武道大会は幕を閉じた。


結局オルバル帝国アーロン宰相が企んだ『空飛ぶ船』『魔道鉄道車』の考案者を帝国で拉致あるいは殺害しようとした計画は帰国途中を襲う残り2日間になってしまった。

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