第40話 オルバル帝国の状況

オルバル帝国の帝都ベロニカに聳え立つ宮廷は周りを5メートルの城壁で守られている堅固な宮廷だ。


そこに住むハンニブ皇帝はこの1ヶ月ご機嫌が麗しくない。


ハンニブはこの世界で自国が並ぶものなき強国と自負していたのが隣国の王国ブルネリアに『魔道鉄道車』なるものが馬車や馬よりも早く走り、更に空を自由に飛ぶ『空飛ぶ船』なるものが街々を行き来するという噂を耳にするにつけ自国がそれによって攻め込まれるのではという懐疑心に苛まされていた。


ハンニブ皇帝はブルネリア王国との軍事力は6:4で勝っていると思っている。


しかし、魔法師の数や、騎士団のスキルにおいては王国に劣っていると噂があり、皇帝は『空飛ぶ船』でその差は決定的になってしまうのを恐れていた。


「アーロン、ブルネリア王国では『空飛ぶ船』なるものが国内を飛び回ってその船体についている武器がワイバーン程の魔物を瞬殺できると聞くがまことか?」


宰相のアーロンは恐る恐る皇帝に応える。


「確かに商人たちや冒険者達の噂を聞くところによるとそのようでございます」


「お主はそれを黙ってやり過ごすつもりなのか?王国が空からその武器を使って攻めて来たらどうするつもりじゃ?」とハンニブは怒りを顔に表して聞いてくる。


それだからこそ、王国のジュネべに密かに冒険者になりすまして何人もの間諜を潜り込ませてレーザービームの秘密を暴こうと試みているが王国の誰もが作り方を知らないのだ!


聞くところによると一発でワイバーンを瞬殺してしまうほどの威力が有る兵器だと聞いて皇帝は帝国の上位ランクの冒険者に依頼して、その兵器を破壊するように依頼を出した。


ハンニブは冒険者ギルドに依頼をすると王国にも筒抜けのために、宮廷にAランクの数人の冒険者を呼んで『空飛ぶ船』の破壊工作とレーザービームの作り方の解明を依頼するのであった。


ハヤトは”世界樹”の全ての力を受け継いだために世の中の動向をケープに居ながら知ることが出来たためにいち早くその動向を知った。


「セリーヌ、矢張り恐れていたことが現実になったよ!帝国が『空飛ぶ船』を兵器と考えて冒険者に破壊工作を依頼して、しかもレーザービームの作り方を探るように依頼したみたいだ」


「王様とも相談したほうがいいだろうか?」とハヤトが言うと


「あの船には【サーチ】機能が付いているので敵意を持った人間が乗船するときに直ぐ判別されてわかってしまうから大丈夫でしょ?」とセリーヌが応えた。


「確かにタラップから乗船する際に直ぐに判別されて騎士団達に阻止されるけど騎士団さえも対応出来ない強者のランクだとどうする?」とハヤト。


「騎士団の人たちは一応ランクA以上の人たちで固められて居るのでまさか冒険者の中でSランクの人を直接選ばないでしょ・・・」


「それもそうだね!一応王様と侯爵様達には『遠距離通話器』でその旨伝えておくことにするよ」と言ってこの話を終わらせた。


帝国では【サーチ】機能が船に付いているとは知らず破壊工作員のパーティー3人がジュネべから乗り込もうとした時【サーチ】に引っかかり騎士団達に取り押さえられて冒険者ギルドと騎士団長達の尋問であっさりと帝国の皇帝からの依頼だったことを白状してしまった。


ベンジャミン国王はそのことを憂いて皇帝ハンニブに親書を送り、『空飛ぶ船』は決して兵器には使わず交通手段としか使えない仕組みになっていると伝え、又レーザービームはこの世界で作れる人間は一人しかおらず兵器で使えない仕組みになっていると少し誇張気味に書いて送った。


ハンニブ皇帝はその親書を受け取って安心するというより何故冒険者たちが簡単に

見破られたのかそちらの方ばかり疑問に感じ、今度は冒険者ではなく、騎士団の剣技のスキルが高い3名を選抜して、王都の船着き場に送り込むのだった。


送り込まれた騎士団3名が乗り込もうとした時、またもや【サーチ】が作動してすぐさま発覚し、捉えられて一旦捕虜となり王様が直接”『空飛ぶ船』が兵器として使えない事やレーザービームも魔物以外には使えないシステムで使用出来ないシステムが組まれていることを皇帝にきちんと説明せよ”と言われて帝国に返された。


皇帝ハンニブはいよいよ持って王国のレベルの高さに驚異を持つがこれ以上はどうしようもなく、王国に逆に親書を出して、『空飛ぶ船』を帝国も1艘ぜひ購入したいと申し出たのであった。


ベンジャミン国王はそれを見越していたのか、宰相やギルバート侯爵と相談していて、帝国側に白金70枚で同様のものを売る旨の親書を送り返していた。


この話はハヤトも直ぐに知って、既に準備はしてある。


ギルバート侯爵様からその話を聞いて、ハヤトは兵器に船やレーザービームが使われたときには破壊装置が作動して使用できなくなる魔法を付与して作り込んでいた。


帝国側と王国との売買契約が王都ジュネべで宰相同士で取り交わされ、王国騎士団

数百人と騎士団長及び宰相が2隻の『空飛ぶ船』に乗り帝国の帝都ベロニカにその巨大な姿を現した。


皇帝ハンニブはその巨大な勇姿を見て噂に違わぬ凄いものだと改めて王国の技術力に驚愕し、警戒した。


操縦方法と停泊させるドックの作り方も全てハヤトが準備したものを宰相が持って、帝国側に説明し、騎士団長自らが操縦方法を教えた。


又【サーチ】の付与魔法が施されていて、敵愾心を持つものが入り込まないようになっていること、武器として使用すると機能を無くす事を説明して、試乗会を行った。


この一連の行事には一切ハヤトの存在は出ないようになっており、あくまで王国の

技術の粋を集めた『空飛ぶ船』ということになっている。


ハヤトはこの製造で王様から白金50枚を頂き、王国も白金20枚と指導料として金貨100枚を儲けた。


又ブルネリア王国とオルバル帝国はこの売買契約を機に友好条約を結びお互い『空飛ぶ船』を相互乗り入れすることとなった。


オルバル帝国のハンニブ皇帝は魔法技術力が高いブルネリア王国から攻められないですみ、しかも『空飛ぶ船』を得たのでご機嫌であった。


ハンニブはこの『空飛ぶ船』を解析していずれは空飛ぶ軍艦を作るつもりでいたのだが、皇帝魔法師の粋を集めて解析に当たったが空を飛ばす事もレーザービームを再現することもできず軍備転用の計画が潰れるのはもう少し後の事となる。


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