11 身体が機械人形になりました

 目が覚めると、ベッドの上にいた。

 

 蛍光灯けいこうとうの明かりが、まぶしい、しばらく暗いところにずっといたからであろうか。

 

 「おう、起きたか。」

 吉兵衛さんが、顔をのぞき込んできた。

  

 「得手ノえてのぼう、成功だ。」

 

 「よかった。」

 得手ノ坊さんは、安堵あんどをあらわにした。

 

 凄腕すごうでだとは、言っても、100%は存在しないのだ。

 

 僕は、起き上がって体を動かしてみた。

 

 少しぎこちないが、動く。

 

 久方ひさかたぶりの身体である。

 

 「身体があるってなんていいことなんだろう、身体があるってなんて素晴らしいことなんだろう。」

 

 僕は、心の中で、叫んだ。

 

 「よかったね。ただ、動きがまだ、ぎこちないね。練習しようか。」

 得手ノ坊さんは、僕の右手を取って、廊下ろうかへ連れて行った。 

 

 「廊下でも、あるいて、歩く感覚を取り戻すんだ。転んだり、つまずいたり、バランスがなかなか、取れないだろうけれど、数日もすれば、感覚が戻ってくるはずだよ。」

 

 数日かあ。

 

 まだ、帰れそうにはないな。

 

 「それと、機械人形きかいにんぎょうの身体は、電池で動くんだ。充電もできるが、満タン充電に一週間ほどかかる、電池は一つ126時間持つ、施設を出るときに、五つ君には渡しておく予定だ。」


 電池か。

 

 次世代の電池だろうか。

 

 身体を動かすとなると相当なエネルギーが必要なはずだ。

 

 「電池のパラメータと、機械人形の状態を表示できる独自のスマホアプリと、PCソフトウェアがあるのだが、吉兵衛きちべえの奴に、帰ったら、インストールしてもらってくれ。」


 面倒だが、仕方がないことなのであろう。

 

 「電池の量は、機械人形の身体の、胸の位置を開けた場所からも確認できる、胸を開けると、電池がある。電池交換は胸の電池を交換することだ。」

 

 ふうん。なるほど。


 今、電池量は、77%であった。

 

 リハビリとでもいえばいいのかわからないけれど、僕は新しい身体で、不自由なく動けるように数日ほどはまだ、帰ることができなかった。


 何度もこけたし、歩く練習以外にも、食べる練習、字を書く練習、ボールを投げる練習と、いろんな練習をした。

 

 練習の成果もあって、ある程度、元通りに動けるまで、回復していた。

 

 「ふううん。早いね、まだ二日しか経っていないけれど、日常生活を送るのに、支障はないレベルだ。生まれ持った基礎能力きそのうりょくが高いんだね、きっと。」

 得手ノ坊さんは、驚いた様子でいった。

 

 元からあった身体は、なくなってしまったが、脳に刻まれた、運動神経は生きていたのである。

 

 とはいっても、元の時の身体とは程遠いもので、若干の違和感を感じてはいる。

 

 「創戦そうせんの奴は、利口で、運動もできる、生まれ持った能力では、奴は最上級品だろうさ。」

 吉兵衛は、僕をみて、いった。

 

 「でしょうね。」

 得手ノ坊さんは、興味深そうに、僕をみた。

 

 得手ノ坊さんは僕を呼んでいった。

 「創戦くん。ちょっときたまえ話がある。」

 

 「はい。」

 

 「君は、回復が早いし、物覚えもいい、そろそろ、帰ってもよさそうだ。明日にでも、施設から出られるがどうするかね。」

 

 施設か。


 考えてもみれば、僕はいったい今、どこにいるのであろうか。

 

 どうして、気にならなかったのかが不思議なくらいだった。

 

 「一体、どこなんですか。この場所は、大がかりな施設ですが、僕たち以外の人間はいるのですか。」

 

 「君にだって教えられないことだよ。君以外にも、どうしても治したい病がある人間や、怪我人がやってくる、病院ではないが、入院とでもいえばいいのか、治るまでとどまってもらうこともある。場所をしっているのは本の数人だがね。施設を出るときは、耳栓と目隠しをして、手錠てじょうをつけてもらうよ。箱の中に入れて、中が真っ暗でみえないバスで故郷まで帰ってもらうんだ。」

 

 厳重だ。

 

 きっと、公にバレるととんでもないことになる場所なのだろうと、推察した。

 

 「へえ、厳重げんじゅうなこって。」

 

 吉兵衛は知っているのだろうか。

 

 「吉兵衛さんは、知っているんですか。」

 

 「ああ、彼は、知っているよ。施設をつくったときに、資金援助しきんえんじょをしてくれた、株主とでもいえばいいのか、まあ、役員の一人なわけだよ。」

 

 吉兵衛さんは、意外にも、顔が広かった。

 

 もしかすると、吉兵衛さんは、すごい人だったのかもしれなかった。

 

 「へえ、そりゃ、すごいね。」


 「彼は、外国の大金持ちのボンボンだったからねえ。」

 

 外国の金持ちねえ。

 

 いったい、何家の人間だろうか。

 

 石油王だとか、世界を裏で牛耳っている巨大IT企業の御曹司だとか、であろうか。

 

 別格の金持ちか。

 

 うん十億を、怪しい、まだ実用化さえしていない、液体に投資するくらいだから、相当な家柄なのであろうと考えた。

 

 一体、どれくらいの資産があるのであろうか。






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蛍光灯・・・放電で発生する紫外線を蛍光体に当てて可視光線に変換した光のこと


機械人形・・・オートマタのこと。機械の身体のこと。


 


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