第124話 二人だけの時間

「はい。アーニーさん、あーんして」


 アーニーは顔を赤くしながらも口を開けて、スプーンをくわえた。


 寝込んでいるアーニーをウリカが甲斐甲斐しく世話をしていた。


 エルゼとフレディは今日から山奥の地底湖で精霊との交信を修行するのだ。

 ジャンヌは気を利かせて、しばらくアーニーの代わりに探索をということだった。


 つまりしばらく二人っきりだ。


「はい。上手に食べられましたー」

「赤ちゃんか、俺は」

「隠し事の多いアーニーさんはしばらく赤ちゃんの刑です」

「これもじじぃの奴のせいか……」

「フレディさんには感謝しています。ようやくアーニーさんを独占できますから」


 本当に嬉しそうに笑うウリカをみて、アーニーは少し反省した。

 そういえば二人きりになった時間は久しぶりということを思い出したのだ。


「そうだよな。ごめんな。もっと二人でいたいよ、俺も」

「む。急にアピールされたら疑いますよ?」

「信用を無くしてるな。迷宮引き籠もりじゃなくて自宅引き籠もりになったらどうする」

「もちろん私がお世話しますからね! いいじゃないですか。アーニーさんの頑張りでお金はもうあります」


 ミスリルの製鋼が軌道にのった頃、ドワーフから特許料という名目で金銭が渡されるようになった。

 マレックからは森林管理料もある。

 アーニーは大げさだと辞退しようとしたが、彼のように貢献した人間への道を閉ざしてはいけないとマレックに諭され、受け取ることにしたのだ。


 冒険者としての稼ぎもかなりある。

 仲間が増え、高難易度の迷宮を攻略しているのだから当然だ。


「ウリカに甘えるだけの生活になってしまう……」

「それいいですね。そういえば男なんてみんな子供、ってよく聞きますし。アーニーさんも私たちの子供も一緒に面倒みますよ」

「ウリカ、かなり攻めてくるな!」


 思わずぼやいた。幼い頃の初恋話をさんざん暴露されたせいでウリカに危機感を抱かせてしまったのかもしれない。


「嫉妬しすぎだぞー」

「重い女なんですよ、実は。今頃気付きましたか?」

「知ってた」

「はい。逃げられませんからね」


 そう言われて、アーニーは手を伸ばし、ウリカを胸元に引き寄せ口を塞いだ。

 びっくりして目を見開くウリカだったが、アーニーの背中に手を回し、目を閉じた。


「ウリカも俺から逃げられないぞ」

「知ってた。でも、ずるいです……」


 ウリカはドキドキしながら、アーニーの胸に顔を預けていた。

 アーニーはウリカの背中に手を回し、ぽんぽんと叩いている。


「押されっぱなしだったからな」

「今死ぬほど押されていますけれど?」

「離そうか?」

「いじわる!」


 さらにしがみついてきた。


「春か。もうすぐウリカも誕生日だな」

「ようやく一つ年齢が追いつきました。永遠に追いつけないことが悔しいです」

「焦る必要もないだろう」

「エルゼなんて145歳ですよ」

「そこでエルフを例にするな」

「アーニーさんの病が伝染したんですー」

「やはりじじぃが悪い」


 フレディがきてからは戦々恐々だ。

 元々隠れ里の森からでるようなエルフでは無かったのに。


「じじぃたちが三日後に戻ってくる。それまでは看病してもらおうかな」

「します。んー。二人きりですねー。いいですね」

「それまでにウリカが感じる壁を壊しておかないとな。見捨てられないか心配だけど」

「素を晒してくれるってことですね。でもフレディさんきてからアーニーさん、柔らかくなってる気がします」

「そうか? 俺はウリカの素も見たいよ」

「私は素ですよ?」

「いつまでアーニーさんなんだ」

「ふふ。ずっとですよ、私のアーニーさん」

「わかったよ、俺のウリカ」


 二人の甘い生活はエルゼが戻ってくるまで三日続いた。

 エルゼが戻っても甘いモードが続いてしまい、レクテナたちにたれこまれたことは言うまでもない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る