第117話 クラスチェンジ!

「いきます」


 エルゼが光り輝くアイテムに向かって念じると、石はすぅと消えていく。

 そしてエルゼの体が一瞬大きく輝いた。


「覚えのある光だな」

「ですよね。まだあれから一年も経っていないです」


 懐かしむような二人を前に、エルゼが無言。何かと戦っているようにも見える。


「あの…… 予想外の変化が。少しお待ちください」

『よっしゃエルゼ!』

「何が起きた?」


 エルゼが口を開いたと思ったらまた無言に戻る。

 守護遊霊の声が弾んでいる。


「なんでしょうか…… この魔力。家の周囲から?」

「精霊だ。これは……なんだ。じじぃの召喚魔法以来だぞ」


 アーニーの声が引きつっている。


「ウリカ。ジャンヌ。今は窓の外を見るんじゃない。覗かれている」

「誰にでしょうか」

「山の大精霊、アトラスだ。天空を支えていると言われている。ここらで言えばタトル山脈に住む精霊だな」

「何が起きているんですか、マスター」

「わからない。地底湖からもきているな…… 湖の乙女ヴィヴィアンか。何が起きている?」


 ヴィヴィアンは水の上位精霊。地底湖から流れる川の精霊すべてを支配していると思われる存在だ。

 部屋の隅でにこにこ笑っている。


「守護遊霊からの返事もない。この状況、楽しんでるなアレ」

「あの、アーニー様。ウリカ様。お願いが」

「エルゼ。どうした」

「私は今、バードとしてお二人のパーティにいます」

「ああ」

「あの…… そのクラスチェンジしてもいいでしょうか」

「いいに決まっているだろ」

「もちろん! エルゼは何の職になるの?」


 アーニーが即答し、ウリカは興味津々だ。

 クラスチェンジは頻繁に起きるものではない。


「精霊使い、になれるそうです」

「ああ、わかった…… 絶対なるべきだ。守護遊霊が歓喜した理由がわかった。とびっきりのレア職だ」


 すべて合点がいった。


 精霊が集まっているのも、新たな精霊使いの誕生を祝うためなのだ。

 この状況でエルゼが断ることもできない、というのもあるだろう。


「精霊使いはそんなにレアなのですか? 確かに見たことはないですね」


 ジャンヌが尋ねた。


「精霊使いは前に戦った古代召喚直系の系統でな。魔力である精霊に直接関与する、強大な職だ。マナ使いといってもいい」

「すごい!」

「精霊と関与できる人が減ったんだ。うちのじじぃやその弟子ぐらいか。俺も上位精霊とはあまり話したことがない」

「私を導いた師は紛れもなくアーニー様です。ヴィヴィアン様もアトラス様もそういっておられます」

「もうあの二柱と話せるのか」

「はい。私は精霊使いとなりました。これからもご指導の程、よろしくお願いします」

「おめでとう! エルゼ!」

「ああ、エルゼ。よくやった」

「やったね!」


 皆が祝福する。


 小さな微震が三度、続いた。アトラスが手を叩いている。

 エルゼは窓の外に手を振った。

 アトラスは満足そうな笑みを浮かべうなずき、消えていった。


「上位精霊も喜んでいるな。俺にもわかる。精霊使いは精霊と共生する意思が認められた者しかなれないと言われているからな」

「アーニー様もなれるんでしょうけどね」

「俺か? 無理だろ。俗人すぎる」

「ふふ。そう言うと思って、精霊たちは誘わなかったのでしょう。今の私にはわかります」

「エルゼ、覚醒した感じ!」

「何も変わりませんよ。多分、でしょうけどね」

「いや、変わっちゃお? アーニー様とウリカ様、そろそろやめよう。ちょうどいい機会だし!」

「いいな。それ。アーニーでいいぞ」

「え? いや、それは」

「なあ。ヴィヴィアン」

『ですねー』

「ほら! 普通に上位精霊と話しているじゃないですか!」


 湖の乙女は話を振られたことが嬉しいのか、くすくす笑っている。


『おめでとー。エルゼ。私の元にきてくれたのも何かの縁。これから力になるわー』

「ありがとうございます。ヴィヴィアン様」

『様はやめなさーい』

「え、えとヴィヴィアン?」

『はい。それでよろしー』


 間延びした声だが、喜色を含んでいる優しい響き。

 満足したのか、ヴィヴィアンも消えていった。


「エルフ族がまた大騒ぎになるなぁ。ティーダー自慢の妹が無敵になってしまった」

「ティーダーさんやグリューンさんのお仕事にも役立てそうですね」

「そうですね。嬉しいです。ああ、本当に嬉しいです。すべてアーニー様とウリカ様のおかげです」

「だめ。やり直しね、エルゼ」

「……アーニーとウリカのおかげです?」

「その調子だ」

『美少女エルフのレア職ゲットー!』


 守護遊霊は本当に嬉しいらしい。俗な本音がだだ漏れだ。


「宴会の準備をしますね。アンサインドのみんな呼んでいいっすか!」

「おう」

「いいですね!」

「そんな大げさでは……」


 慌てるエルゼに、手を振りながらジャンヌが皆を呼びに行った。

 もちろん夜まで大騒ぎになったことは言うまでもない。


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