第113話 レイドドロップは雨のように

 天空にサークル状の魔方陣が光り輝き、空から山のようなドロップアイテムが雨のように落下してくる。


混沌の経路カオス・パスが開きましたね。レイドドロップがこんなにも」

「カイザーベヒーモスより多いね!」

「これは鑑定しがいがありますね」


 レイドドロップはガチャに近い代物といわれている。

 莫大な魔力を必要とし、討伐するとそれに見合った魔法の品の数々が手に入るというのだ。


「闇の飛龍はレイドのなかでも、格別な存在。この大陸中のボスの一つといってもよいですからね」

 レクテナも山積みされた報酬をみながら感嘆する。これほどのアイテムを見た討伐は久しぶりだ。


「見て! アーニーさん! 町からのろしが上がっている! 【大暴走】撃退に成功したんだ」


 名も無き町から二筋ののろしがあがっていた。

 一筋だった場合は救援要請と取り決めていたのだ。


「テテ。こっちものろしを頼む」

「はい!」


 テテが素早く火を興し、二筋のろしをあげる。


「パイロンが目を覚ましましたぞ!」


 カミシロが声をあげる。

 皆駆け寄った。


「よくやったパイロン。無事倒せた」

「はは…… なんとかやれましたね」

「無茶すぎるから、あなた。次頼まれてもやらないよ?」


 ポーラが困った顔で言う。彼女はやりたくなかったのだ。


「しばらくこんな強敵はやりあいたくありませんね」

「確かに」


 闇の飛龍の死骸はひときわ大きい。

 一日経つと塵になるので、早急に解体をしなければいけない。


「解体は私とロジーネとユキナがやるよ」

「頼んだ」

「任せてください。これは実に美味しい素材です」


 三人はやる気まんまんのようだ。


「テディ。お前もだ。無茶したな。よく助けてくれた。ありがとう」

「兄さんと一緒に戦えるだけで嬉しいですよ! 役に立てたようで良かった」

「全員の行動回数増やすなんて、役立つってレベルの話しじゃないからな?」

「テディのスキルはとんでもない。王族の王子はみんなあんなことができるのか」


 ニックは感嘆した。


「いや、違うな。みんなにも聞きたいが、王族にそんな力が備わっているなど、聞いたことがあるか?」

「ないね。そういえば」

「そんな力があるなら、王族同士の争いなどもできないしね」

「はは。すぐばれますね。王子ってことにしとけばごまかせるかなと」


 アーニーの顔色が変わった。


「そうだな。みんな、テディの力は内密にな。それこそ騒乱が起きかねない」

「確かに」

「わかるよ。普通の冒険者なら殺し合いで奪い合いになりそう」


 コンラートもラルフも納得する。行動回数を増やせる能力持ちなど、レア中のレア。まさにユニークスキル。


「レクテナの弟子なんだ。魔剣士ってことにしておこう」

「そうね。それがいいわ」


 レクテナも事態の重大さに気付いたのか、頷く。


「兄さんには本当敵わないな…… 僕の特殊性を瞬時に理解できる人など、初めてですよ」

「どうせ知っている人間なんて妹ぐらいだろ」

「あたりです」


 テディが苦笑した。兄二人とは仲がよいとはいえないが、末っ子の妹とだけはなんでも話せる間柄なのだ。


「解体が終わったら町で祝勝会でもするか」

「やったー!」


 皆の歓声が上がる。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 どの酒場も大満員だった。

 マレックの指示で、今日は無償で振る舞われている。町の人間一丸となった、撃退作戦の成功なのだ。


 アーニーとエトはこっそりと抜け出した。

 自宅に戻ると、ウリカとエルゼがいた。急いで彼女たちは食事の準備をする。


「ようやくゆっくりできるな。また逢えて嬉しいよ、テディ。元気なようだな」

「僕のほうこそ! 今まで音信不通だったのに、この一年で急に動きが派手になったみたいですね、兄さんは。あの件で兄さんのことをしり、この町のことは調べてきました」

「ん? ああ。たまたまだ。今までずっと迷宮に籠もっていたからな」

「道理で足跡が途絶えるはずだ。僕や妹もずっと探していたんですからね」

「それは本当にすまない」


 二人は昔話に花を咲かせた。ウリカとエルゼも耳を傾けている。彼女たちが知らない時期のアーニーだからだ。


「しかし、危険なことになっているな、お前」

「わかりますか?」

「思い出したよ。お前のあれは古代将軍――【インペラトル】のスキルか。遙か昔の、魔法帝国時代の、な」

「何故わかるのです!? 確かにそうですが……」

「その力は危険だぞ。絶大な力ゆえに【エンペラー】への道が開かれる。帝国の、血筋だけの皇帝なんぞ目にならない。本物の皇帝にな。それだけで覇権を握れる力だ」

「インペラトルの本質はあくまで将軍、軍事指導者です」

「周りはそうみてくれないってことだろ? 指揮下の人間の行動回数を増やす。他のスキルも考えると、な」


 純粋に行動回数を増やす。指揮下の人間が手練れであるほど、絶大だ。今回のレイド討伐のように。

 魔法使いが一度の火力を吐き出す間に、二回撃てる。それだけで火力は二倍なのだ。【古代将軍】の元には精鋭が集まり、覇道を進む。職の特性のようなものだ。


「お前も察しがついているだろ? 俺は【アサルトパイオニア】。魔法帝国時代の工兵職についている。【無間転生リセマラ】で生まれた存在だ」

「兄さんがいなくなっあと【アサルトパイオニア】に調べましたよ。やっぱり、と思いました。そして調べる過程で【古代将軍】の存在を知り、挑戦したのです」

「じゃあ俺のせいか……」

「兄さんは関係ありませんよ。こんなユニーククラスに就けるなんて僕自身も思いもしなかった。だけど、予想以上に凄すぎて、騒ぎになりそうなので今日まで秘匿しました」

「今回が初仕事か」

「はい。これは人の口を塞げるレベルの力ではありません。兄さんの環境もたいがいですが」

「なんで嬉しそうなんだ」

「兄さんと同種になれた気がして、ですよ」


 心から笑顔のテディに対して、アーニーは苦笑した。


「お二人は兄さんのこと聞いているんですね?」


 テディがウリカとエルゼに話を振った。


「はい。古代帝国時代のユニーククラスも【無間転生】も」

「そう緊張しないでください。確かにお二人は妹の恋敵になりますけどね」


 セオドアの発言に二人ぼ体がぴくっと反応する。


「テディ!」

「わわ! 冗談ですよ? お二人とも警戒しすぎです!」

「マエストロ二人にアデプトまでやってきた過去がありまして……」


 エルゼが消え入りそうな声で呟いた。


「妹が来ることはないのでご安心を。多分……」


 歯切れが悪い。自信はないようだ。


「多分が不安なのです。あのお三方も、普通なら来るはずない方たちですし」

「三人は、学園時代いつも兄さんと一緒でしたからね。こちらに引っ越すと聞いて、王都は大騒ぎですよ」

「そりゃそうだろうな。お前がきた本題は抗議か?」

「滅相もない。謝罪ですよ。マレック殿に直接お詫び申し上げる次第です。つきましては兄さんに同席を希望します」

「お前、悪いこと考えている顔しているぞ。不安だから付き合ってやる」

「あれ? 本当にすぐばれますね。お願いします」


 悪いこととは無縁のような、天真爛漫な笑みをエトは浮かべていた。


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