第108話 場違いな訪問客

 アーニーたちは冒険者組合のなかで、警備隊長とギルドマスターで作戦会議を行った。

 【大暴走】に備えて、町の兵士と冒険者たちは稜堡の上から迎撃態勢。減らしたところで肉弾戦に持ち込む。

 冒険者たちは接近戦が得意なもものが多いが、今回ばかりは少しでも数を減らしておく必要があった。


 アーニーたちは【タトルの城塞】で待機。闇の飛龍が近付いた場合、ヘイトを奪い誘い出し迎撃するという作戦だ。

 行動パターンからレイドは人里を襲う。ゆえに【強襲レイド】なのだ。


 冒険者のなかでアーニーたちと共にいく者はいなかった。

 遠距離攻撃の魔法使いやアーチャーは、町の防衛にも必要だからだ。むろん、治癒士もだ。

 何より【アンサインド】のレベルは頭一つ抜けている。足手まといになることを恐れた冒険者は手伝えることがない。闇の飛龍相手に攻撃が届く者などそうはいない。


「アーニーさん」


 ギルドマスターが声をかけてきた。


「新入りが話があるようです」


 目の前に黒髪の美青年がいた。

 レイピアに軽装の鎧。爽やかな笑顔が似合う。明らかに粗野な冒険者組合において場違いな訪問客であった。


「はじめまして。少しだけお話いいですか?」


 青年がアーニーに声をかけた。

 ギルドマスターに目配せし、ギルドマスターはそそくさと別の場所へ、指示に向かった。


「はじめまして」


 とは言ったもの、アーニにもどこか見覚えがある青年であった。

 どうしても思い出せない。


「テディとお呼びください。アーネストさん」


 青年が、潤んだ熱心な瞳で見詰めてくる。

 これが女性ならそれだけで落ちるだろう。アーニーにはそんな毛はなかったが。


「テディさんか。どこかでお会いしたことがあったか?」

「……!」


 青年は息を飲んだ。

 びっくりしたかのようにアーニーを注視する。青年はその問いには応えず、話を進めた。


「闇の飛龍を、チーム単独で相手にすると聞きました」

「ああ。【大暴走】は今の町なら防衛できる。しかし闇の飛龍はそうはいかない」

「なるほど。では一つ提案を。私はあなたの助けができます。いきなりで申し訳ないですが〔アンサインド〕に入れていただくことはできないでしょうか」


 アーニーたちのチームには参加希望者が殺到していた。

 誰か一人入れると、別の者を断るのも難しいため、等しく断っている状況だ。


 いきなりの人間が申し出るなど、不可能に近い。

 そんな大それたチームとは本人らも思っていないのだが。


「すまない。今〔アンサインド〕は……」


 そう言おうとするアーニーを遮って、テディは小声で囁いた。


「僕も、ユニーククラスなんです。きっとお役に立てます!」

「も?」


 彼の職を知る者など数えるほどしかいない。

 しかもユニーククラスだと知っている者など、身内といっていい人間だけだ。

 アーニーの頭がフル回転を始めた。

 間違いなく知り合いだ。しかし、ここまでの美形で、黒髪の知り合いなど——


 一人、いた。


「ま、まさか…… 何故ここにいる!」


 アーニーが絶句した。

 一人だけ。黒髪ではない、だが黒髪でいるであろう存在を、彼は知っていた。


「本当に嬉しいですよ、兄さん。子供の頃の僕しか知らないのに。ちゃんと覚えていてくれて」


 目の前にいる第三王子、セオドアがいることがアーニーには信じられなかった。


 青年の黒髪を染めるよう指導した人物こそアーニーだ。お忍びのとき、明らかに目立つからだ。

 それでもいらぬ厄介ごとを呼び寄せていた。セオドアが王族体質だからだろうか。


「さあ、いきましょう。兄さん。一緒にレイド討伐。ああ、楽しみだ!」


 アーニーのことを兄と呼ぶ青年は、爽やかな微笑を浮かべていた。


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