第107話 接続障害

 その日、天空は暗雲に覆われ雷光が走る。

 異常に気付いた冒険者たちは冒険者組合に集結していた。

 そのなかに『アンサインド』のメンバーもある。


 ギルドマスターはすでに待機していた。


「皆、言いたいことはわかる。あれが起きた」


 重々しく宣言した。


「【接続障害】だ」


 接続障害。


 天変地異の一種といわれる。

 この世界と守護遊霊たちの現実世界との繋がりが絶たれるのだ。神々の神具である神の鯖が負荷オーバーを起こしたときに発生する。


「鯖落ちしたのか!」


 冒険者の一人が悲鳴を上げた。

 二つの世界の架け橋ともいわれる、天空を泳いでいる大魚【鯖】たちが失神し、海へ落下したのだといわれている。

 つまり、それは神々とこの世界の繋がりも絶たれる。

 

 この鯖を通じて神々がこの世界を管理しているのだ。


 【接続障害】に際してこの世界で起きることはいくつかある。

 魔物の異常発生や消滅。魔族の侵攻。ダンジョンマスターの暴走などが挙げられる。


「やっぱりな」

「守護遊霊と連絡が取れない」

「詫び石はよ!」


 冒険者が不安を口にしている。


「ひょっとして【大暴走スタンピード】するとか?」


 【大爆走】とは、魔物の群れが異常発生し、人里に攻め込む現象だ。


「無論可能性はある。【接続障害】がどれぐらいの規模かわからないが」


 鯖の群れ、気絶した規模によって影響も異なる。

 神々は管理ミスとして詫び石となる魔霊石を配布するのだ。


「守護遊霊の加護もあてにならないと」

「復活魔法は有効のはずだ。ただ、【大暴走】で死体の状態が悪いと、な……」


 復活魔法がいくらあっても死体の損傷が激しかったり、食べられたりすればかなり難しい。


「すまない。冒険者は町の防衛にあたってくれ」


 集まった冒険者たちは気を引き締め準備を始めた。

 これは冒険者の義務でもある。

 世界同時に危機が発生するとき、冒険者はその町や救援要請のある町へ派遣される。もちろん断ることも可能だが、それなりの理由はいる。


「アーニーさん。俺は兵士長と話し合ってきます」

「同じく」


 ラルフとパイロン、コンラートは警備隊のもとへ向かった。


「アーネスト君はどうする?」

「俺は森へいってくる」

 慌ただしくアーニーも出かけた。


 ウリカたちはマレックの屋敷に待機だ。動きがあれば救援に向かう予定だ。


「早く終わるといいのですけれど」


 エルゼが不安げに呟く。


「神々の復旧が早ければ何事も無く終わるけど……時間との勝負ね」


 ウリカもまた接続障害の怖さは知っている。

 今彼女たちは守護遊霊の加護持ちだ。効果は生きているとはいえ、その繋がりを感じ取れないことは不安なのだ。



  アーニーとラルフたちが戻ってきた時刻はほぼ同時だった。

 【アンサインド】のメンバーはマレックの屋敷で集まっている。


「状況は最悪だ」


 ラルフが皆に伝える。


「魔物が大量に発生している。これは【接続障害】における魔物大発生によるものだ。近隣の村を襲うのも時間の問題だ」


 魔物が同時発生とはいっても、彼らも生きている。食糧を求め近隣の村を襲うのだ。


「こちらも最悪な報告だ」


 アーニーがため息交じりに皆に告げる。


「中央にいた闇の飛龍がこの町方面へ向かっている。こちらへ来るのも時間の問題だろう」


 皆が沈黙した。

 そもそも先の討伐隊はこの闇の飛龍を倒すために組まれたものだ。

 精鋭の冒険者をかき集めないと倒せないほどのモンスター。自然災害そのものだ。


「ポーラ。今【隕石落下】は使えるか?」

「無理ね。神々のロックがかかったまま接続障害を起こしているから。普通【大暴走】相手なら解除されるはずなのだけれど」

「復旧を待つという作戦は?」

「難しいな。あいつらがお腹膨れているなら可能だろうが……」


 アーニーの問いに、ラルフが苦い顔でこたえた。


「【大暴走】とレイドが同時に発生するとはさすがに想定外だ」

「【大暴走】はまだ対処できる。城塞もある程度形になってきているからな。ただ、闇の飛龍がやばい。あれ神話時代のモンスターだろ」


 ニックが状況を分析している。

 星形城塞も中央区画は完成し、市民区画や工業区画に移行している。ある程度以上の防御力は確保されているのだ。


「私の力もかなり弱まる。これは神々の保護機能なのだが…… 正直忌々しいよ」

 マレックが吐き捨てた。


「何故だ?」


 アーニーが驚愕し問いただす。そのような話は初耳だった。


「接続障害中に知恵ある魔物が暴れられると困るからな。モンスター扱いの私の魔法はほぼ封印される。さらにいうならば、戦いに敗れたら私とて魔物使いに【手懐けテイム】されかねない可能性すらある」

「そこまで弱体化するのか。テイムされる条件は?」

「肉体的か精神的に屈服してしまえば拒否できないな。また苦手意識がある相手には可能性が高くなる。大昔の貴族状態だったら、王族直系にテイムされたなら可能性が高かっただろうな」

「マレックを精神的に屈服とか不可能だろ。今は大丈夫だな」

「可能な人物は君ぐらいかね? 本能的な魔物は野放しで【大暴走】が発生するのにな。抜け穴だらけの処置だ」

「恐ろしいことさらっというな」


 アーニーが身震いした。マレックをテイムしようなどとは欠片も思わない。後が怖すぎる。


「君たちに防衛を頼むことになる。何、昼でも空は暗雲に覆われている。町中に入ってきたらモンスターは殴り殺すよ」

「町のなかにはいれさせませんよ!」


 ラルフが慌てて言った。


「頼む。被害が少ないに越したことはない」

「魔物の群れはいいんだが、やはり闇の飛龍のほうだな」


 アーニーが思案した。


「いっそ、俺たちでやるか。やれるかどうか不明だが…… タトルの城塞を使おう」

「星刑城塞の防壁は高さがないからねー。それが妥当かな」


 イリーネがため息をついた。航空戦力は想定していない。


「できますかね。――やるしかないか」


 パイロンが頭を振った。

 ただのワイバーンならば竜とは比較にならないほど弱い。しかしレイドは別格だ。


「そういうこと。冒険者組合の応援は期待できないかな、早速警備隊長とギルドマスターに相談しよう」


 空を飛ぶ相手だ。

 アーニーとポーラ、レクテナとコンラート。ウリカとエルゼはMP供給。長距離射撃ができる三人が主軸となる。前衛職は弩で対応するしかない。

 彼らほどの長距離攻撃をできる冒険者チームはそうはいない。冒険者組合で応援を頼むにしても、かなり人員は限られる。


「頼んだぞ」

「ああ」


 アーニーたちは頷いて、マレックの屋敷を出た。


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