第91話 PKKの本質
【鋼の雄牛】のメンバーは、【アンサインド】との戦闘では無く、モンスターに殺され続けていた。
アーニーと守護遊霊の狙いが面白いように決まっている。
エルゼがアーニーに思わず尋ねたほどだ。
「アーニー様は以前MPKを行った経験があるのですか?」
「本当はな。俺も
「慣れてますよね?」
そういわれてアーニーは思わず顔をしかめた。心外だと言いたいようだ。
「徹底的にやりあったこともあるんだ。亜人解放戦争のときにな」
「あー、あいつね」
イリーネとロジーネ、レクテナには心当たりがあるのだろう。同じく顔をしかめた。
「いわゆるPKにも二種類いてな。変な言い方だがペナルティを恐れず決闘感覚で無差別に襲ってくる奴と、嫌がらせでPKしてくる奴。とくにMPKを狙ってくる連中はとにかく厄介だ」
「厄介とはどういう意味です?」
「仕様上、直接攻撃せずに、攻撃を食らうと被害者になるんだ。身を守るためMPKした連中を冒険者が攻撃すると、冒険者組合からペナルティを喰らうし、ペナルティを受けた状態はおとがめなし。それを狙って殺しにくる」
「身を守るためなのに?」
「そうだよ。じゃあ、どうするか。泣き寝入りして引退が奴らの狙い。無視して狩りをやめるか、こちらもMPKを仕掛けるぐらしかないんだ」
「なるほど」
「確かに最悪な迷惑行為だな。加害者が被害者になりすます仕様なんて」
エルゼは納得し、ニックは憤慨していた。
「亜人解放戦争で、本職でもないのに魔物使いって呼ばれる治癒士がいたの。アーニーと守護遊霊がいなかったら私たち危なかったわ」
イリーネがぼやくほどの敵だったのだろう。
エルゼも訝しんでいた。アーニーはイベントでしか頑張らないタイプの冒険者。その割に詳しいと思ったのだった。
「やり方はその時学んだよ。MPKっていう行為は世界の【仕様】を解明するのに、暗い情熱を燃やしているからな。今回敵が、迷惑行為など存在しないと断言してくれたおかげで取れる戦術だ」
「対抗するために、アーニーさんと守護遊霊様も研究した、と?」
「守護遊霊の世界ではPKKっていうらしい。MPKは迷惑行為における容赦ない戦術だが、あいつらには容赦しない。思う存分やらせてもらうさ」
「【城塞戦】のルールのおかげで、彼らは逃げることもできないですしね」
エルゼは察する。敵は彼らを罠に嵌めるつもりで、嵌まっていたのだ。
「【鋼の雄牛】の連中はルールに則って殺しにかかる似非PKだ。読みやすい」
「対策手段、普通なら考えもつかないですよ」
「一番は無視、放置なんだ。相手に合わせる必要はない。あいつらは狩り職中心。城塞戦のルールがなければ、普通の戦争状態もありえた」
「かといってあいつらのせいで行動が制限されるなんて面白くないぞ」
「そう。PKってのはね。仕掛けたもの勝ちだ。とびっきりの迷惑行為だし、神々の監視対象下に置かれる。それを理解して対策する。相手と自分が違う
「自分の行動も制限するってことですか?」
「結果そうなる。俺たちも現在は狩りや迷宮探索できないだろ? 今は冒険者じゃない、ってところから切り替えないと、殺されるだけだ」
「俺たちは対人職や戦争職だから、理解はできる」
「PKKとはいっても所詮PKの一種であることには変わりない。すぐ飽きるし、相手のほうが
PKもMPKもPKKも不毛だとアーニーは思っている。この不毛なゲームは、相手にムダだと思わせたほうが勝ちなのだ。それまではひたすらに双方消耗するだけ。時間の無駄だ。
「城塞戦はルールが抜け穴だらけだ。PKによる圧力、ふっかけたもの勝ち。その先はさして考えてないだろう。今もあいつら、どうして押されているか理解している冒険者は少ないと踏んでいる」
「ロドニーの命令で動いているだけですもんね」
「【鋼の雄牛】が似非PKといったことは、奴らが狩り職中心の冒険者構成からみてもわかる。狩りにも飽きたから俺たち弱小チームをいたぶるためのPK。それが運の尽きだったってことさ。装備を調え、強くなってより強い獲物を倒す。対人スキルは少ないことが響いてくる」
「連中、もともと闇の飛龍退治に集まった連中だよな」
冒険者ではなく、違う
アーニーは、【鋼の雄牛】が安全が確保された競技でしか、PKをしないということを見抜いていた。
「こっちは戦争職、対人職が多いからな。実際、面白いようにスキルが決まるだろ? 狩り効率の悪さは仕方ない」
「涙でるほどわかる自分が嫌だ。ようやく本来の戦いができている」
ラルフが泣き笑いを隠さずに本音を語った。
「俺もわかるわー」
ニックがしみじみいった。
「この力は何かを守るためにある。彼らは狩りで強くなるために力を蓄え、俺たちは守るために業を磨く。その違いだな」
「俺、一生アーニーさんについてくわ」
「俺はとっくにその覚悟だぜ!」
「アーニー様は渡しませんよ?」
「同じくです」
盛り上がる男性陣に、女性陣が割って入るのだった。
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