第40話 幼馴染み襲来!

 アーニーたちによる、邪神の召喚術士対策の哨戒がはじまってから数日経った。

 この日もアーニーとジャンヌ、テラーナイトラルフとドラゴンファイターパイロンで町を出ていた。


 留守番のウリカは、冒険者組合の併設酒場でエルゼとグラディエイターのニック、アークビショップであるカミシロと一緒にいた。

 いつの間にかアーニーとウリカ二人と仲良くなっていた四天王は、周りの目も違ってきている。


「すみません」


 そこに冒険者がやってきた。若い女性で、まんまる顔。大きなとんがり帽子。みるからに魔法使いだ。


「新規の冒険者の方ですか? どうぞこちらへ。名も無き町へようこそ」


 受付嬢がそそくさと対応する。


「ありがとう。この用紙に記入にすればいいのね」


 受け取った用紙に記入を始める女性冒険者。


「あの、もし知っていたらでいいんですけど。この町にアーニーって人いないでしょうか。ガチャが大好きな方なんですが」

「アーニーさん? えと、ちょっと待ってくださいね」


 受付嬢がウリカのもとに、駆け寄って耳打ちする。ウリカは囁き返し、受付嬢は女性冒険者のもとに戻っていった。


「そちらの席へどうぞ」


 女魔法使いはウリカたちの席へ向かった。

 少女は何故か敵愾心に満ちているようだ。隣にいるエルフも見るからにポーラを警戒している。

 男性二人は一人は細面の剣士風。一人は恰幅の良い聖職者だ。


「あのどちらさまでしょうか? 私、アーニーさんと同棲しているウリカと言います」


 女魔法使いはまじまじとウリカをみた。


「私はノラエガの町のポーラっていうんだ。同棲なの? 同居って聞いてたけど」

「あれ? ポーション屋さん?」

「私を知っているということは、あなたがアーニーをこの町に連れてきた?」


 訝しげにウリカの顔を見る。

 いつも外套を深く被っていたウリカの顔を知らなくても当然だ。


「はい、そうです。――何かありました?」

「アーニーからの手紙に、もうすぐ二十歳の女性と向かうって聞いていたから……」


 ウリカは無言。そっと目を逸らした。

 ウリカを除く四人はジト目でウリカをみていた。


「違うよね?」


 ポーラの疑問は最もだ。


 ちなみに彼女の発言を聞いて、酒場も沈黙が降りている。その場にいる者は絶賛聞き耳中だ。


「ウリカ様?」


 銀髪のエルフ、エルゼが優しく声をかける。


「なあに?」


 頑なにとぼけ続けるウリカ。


「その設定無理がありません?」

「……四捨五入で二十歳だし。エルフに比べれば誤差だよね」

「四捨五入良くないです」

「エルフにだけは言われたくないよ?!」


 恰幅の良い聖職者――おっちゃんことカミシロが割って入る。


「アーニー殿は納得されたのかな?」

「あの人、あんまり女性に興味ない上にとにかく無頓着だから……」

「なるほど。たまに修道院にもいますよ、人間の女性の年齢をまったくわからない人は。未成年ではないわけですし。問題ないかと」


 ほっほっとおっちゃんが笑う。


 これに激怒したポーラ。


「どんだけ年の差あると思ってんのよー!」

「関係ありません」

「確かにありませんね。私とアーニー様、年の差は百歳以上ありますが、私の愛も揺るぎません」

「ちょ……ちょっとまって! 銀髪ポニテなエルフがアーニーを愛しているとかいってんのよ!」

「そこかよ?」


 グラディエイターのニックが呟いた。にやにや笑いながら絶賛観戦中だ。


「私は身も心もアーニー様に捧げておりますよ。ウリカ様公認で。ご寵愛はいただけませんが」

「そこは私もねー」

「いくらにぶいアーニーでもそりゃ躊躇するわよ! なんなのあんたたち!」


 ポーラはめまいがした。


「あんた実際のところいくつなのよ」


 ポーラが確信を突くいてくる。

 ウリカ、再び目を逸らす。顔に縦線が入っている。


「ししゃ……」

「四捨五入はもういいって!」


 繰り返し芸の領域にはいったウリカに苛立ちを隠せない。


「年が明けたら十六ですよ? 今年成人しました。それが何か?」


 ウリカが開き直った。

 数え年なので守護遊霊がいる現実世界リアルでは完全にアウトであるが、この世界とは人間の平均寿命も結婚適齢期も大きく違う。

問題無いと守護遊霊に確認済みのウリカであった。


「成人していらっしゃるので問題ありませんなあ」


 ほっほっとおっちゃんが笑う。


「年齢。倍は違うからね?」


 子供の頃からアーニーを知っているポーラが指摘する。


「関係ありません」


 それぐらいで揺らぐウリカではない。


(そっかー。それぐらい違うのかー)


 実はウリカも知らなかったことは内緒だ。

 ごほんと咳払いして続けるウリカ。


「アーニーさんと私ですが。すでに私の父とも言える領主公認の仲です、ポーラさん。ついでに言えばほぼこの町公認です」

「え、どゆこと?」

「親族の挨拶は終了済みですね。こちらのエルゼもね。エルゼの場合は、アーニーさん次第ですが」

「私は離れませんよ? 寿命はたっぷりありますからね。アーニー様が歳を取って気弱になったところを押し倒しても……」

「そんなに長期計画?」


 エルゼの遠大な計画にウリカもさすがに驚愕した。

 二人に会話を聞いていたポーラはめまいに続いて頭痛にも襲われた。


「まあまあ。お嬢さん。あんたがアーニーさんとどういう関係かは知らないが、あの人はこの町では大物だ。嫁さんが数人いても文句言う奴はいねーよ」


 ニックが見かねてアーニーをフォローする。フォローになっているとは言いづらいことが難点だった。


「そうですなあ。ポーラ殿。ノラエガの町に今のうちに帰ったほうがいいかもしれませんぞ。精神的な意味で」

「どういうことでしょうか?」

「ばかっぷ……こほん。ウリカ様とアーニー殿はたいそう親密ですからなあ。心のダメージは大きいと思いますよ」


 おっちゃん、気遣うように見えてポーラにダメージを与えた。


「バカップルって言った! この司教の人バカップルっていった! 司教にそういわせるほどのアレなのね!」

「二回言うなよ…… いや否定はしねえが」

「否定はしないのね、あなたも! どんだけ破廉恥なのよ」

「あーるじゅうご範囲ですから安心してくださいね。ポーラさん」


 エルゼがフォローを入れる。あーるじゅうごはもちろん守護遊霊世界のスラングである。


「あかんやろ……」


 思わずポーラが西の方言がでるぐらいには、げんなりしていた。


「とりあえず! アーニーと話すまでは! 絶対帰らないからね!」


 ポーラが宣言した。

 今度はウリカが頭痛に襲われる番だった。


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