第34話 継承システム実装はまだです
今日はガチャを回す日。
三人は自宅のテーブルで昼食を取ることにした。
今日はウリカの手料理だ。ピエロギという。
半円形のダンプリング——小麦粉を団子状に練ったもの——の生地に具材を載せるた食べ物。牛肉や豚肉、菜っ葉などを挟んで食べる。
冬にはそば粉を混ぜたりする。気軽に食べられるので皆に人気だ。
守護遊霊にいわせると、餃子に似ている食べ物、らしい。
そのまま食べてもいけるが、ウリカは焼いて食べる方が好きだ。アーニーは残ったものを揚げて食べる方が好きらしい。
「そういえば、アーニーさん聞いてください」
「ウリカ様、その話をするのでしたら私のことも」
「そうよね」
ウリカとエリゼが改まって話をする。
「ん? どうした」
「私たち――守護遊霊の加護がつきました」
「おお! それはいいな!」
アーニーの顔もほころんだ。
守護遊霊の加護についてはメリットが複数用意されている。そのなかでも最大の利点は魔法による復活対象になることだ。
復活条件も厳しく、経験値減少などデメリットを伴う。しかし冒険者ならば復活できない一般人よりも復活な守護遊霊の加護があったほうが断然良いのだ。
「あまりに突然でびっくりしました」
エルゼも自分のギルドカードを眺めている。
加護の欄に○がついている。組合でも管理しやすい。
「魔神の血を引く一族は守護遊霊の加護がつきにくいと言われていましたから、本当に嬉しいです」
ウリカの声が感慨深い。目を瞑って追憶している。
加護があれば両親は……と思ったこともあるのだろう。
「守護遊霊たちは美人好きだからな。二人なら時間の問題だったろう」
守護遊霊は少女冒険者に優先して加護を与える傾向が強い。
アーニーみたいな男に守護遊霊がつく場合、求道者のように過酷な冒険を好む場合が多いのだ。
「おだてても何もでないですよー」
「ピエロギにチーズいれて」
「それぐらいならお安いご用です」
ウリカがにっこり笑う。
「でも守護遊霊からの交信はありませんね……」
「ですね。私もありません。どんな方なのでしょうか」
『俺俺。俺だよ俺。二人の守護遊霊も俺』
うさんくさい声が聞こえてきた。俺俺詐欺同然の声が響く。
「あんたかー!」
アーニーが頭を抱えた。
「アーニーさんの守護遊霊?! 本当に?」
ウリカにとって、それは大変な意味を持つことになる。
「ああ、なんということでしょう…… 大変光栄です……」
エルゼにとっても同様で震えている。
『君たちはアーニーと共によくイベントを乗り切ってくれた。せめてもの礼だ』
「「ありがとうございます!」」
二人の声は歓喜に染まる。
(内堀埋めにきた?)
心のなかで守護遊霊に尋ねる。まさか内側から裏切られるとは思わなかったアーニー。
(もとより埋まってるじゃん)
守護遊霊が即答する。
アーニーの守護遊霊が二人に加護を与える。
それは二人がアーニーの身内である証拠なのだ。
『メインはアーニーだけどいいよね』
「はい!」
二人の返事も弾んでいる。
「守護遊霊公認になってしまいましたねー。アーニーさん」
腕に絡みつくウリカ。
「ウリカ様と同じタイミングで何か申し訳ないです…… でも本当嬉しい」
「いいよ、そんなところまで気にしなくても!」
「守護遊霊って複数に加護与えることできたっけ……」
『セイエン使った量によるからな。俺なら余裕』
どや顔してそうな声が聞こえてきた。
アーニーの守護遊霊なのである。かなりのセイエンを召喚してきたはずだ。
『でも加護が3等分になるから、セイエンの使い方は慎重にね、はい、セイエン』
セイエンが3枚降臨してくる。単位は枚だ。
『ガチャ管理権はアーニーに一任』
「おうさ。大役だな」
メインのアーニーが彼女たちのガチャ権限を得ることになる。
「私たちにはまったく問題ありませんよ? ってエルゼ大丈夫かな」
「無論です」
守護遊霊によってアーニーたちの、主にガチャで算出される財産は共有されることになる。守護遊霊の一任で、アーニーが全面的に権利を有するのだ。
めったにないがパーティ解散した場合はアーニーが分配することになる。
『早く継承システムできないかなー。宿屋システムでもいいけれど』
守護遊霊の声が響く。
「継承システム?」
「ウリカ。触れるな」
差し迫ったアーニーの表情に、ウリカも黙ることにした。アーニーはもちろんその意図を悟っている。
『そのときは覚悟しろ、アーニー。ガチャの報告はあとでするように』
そういって守護遊霊の気配は消えていった。
「感動しているところ、悪いけどガチャ回そうか。今回は原資もたっぷりあるぞー」
「楽しみですね。今回は魔術文様と、あ、守護遊霊世界の洋服特集みたいです! これ可愛い」
「お、いいな。あたりの服は気合い入っているな……」
「魔術文様のこれは、ちょっと辛そう?」
「同じ文様を5枚集めてようやく効果が100%とか、神々も変なことを考えたものだ……」
「コンプリート……」
「それ以上はいけない」
無事話題を逸らすことができたようだ。
「それでは食事を片付けてから皆で回しましょう」
「私も手伝います。ウリカ様」
「お願いね」
皿を数枚重ねて、台所へ消えるウリカ。
同じように皿を重ねて移動する間際——
エルゼがそっとアーニーに耳打ちした。
「継承、楽しみです。どんな能力を継承された子か、どきどきです」
エルフとは思えぬ艶やかな声。
「エルゼ!」
小声でエルゼをたしなめる。
エルゼはくすっと笑いながら台所に消えてしまった。
脱力して机に突っ伏すアーニー。
そういえば一人忘れているような気がしたが、気にしないようにした。
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