第126話 ソランスター航空公社

 サンドベリアの紅玉ルビー改め、シュテリオンベルグの紅玉ルビーとなった踊り子リーファが、新領主であるオレの女になったと言う噂が街を駆け巡った。


 噂の出どころは、どうやらリーファ本人のようで、自分はシュテリオンベルグ伯爵の女になったと言い触らしているらしい。


 前伯爵の誘惑をかたくなに断っていたリーファが、あっさり新領主の女になったことには賛否両論があった。


 新領主が力ずくでモノにしたと言う者もいれば、自ら進んで女になったと言う者もいたが、この地を前領主の圧政から解放した英雄に助けられて惚れたと言う意見が大勢を占めていると、唄うクジラ亭のオーナーがオレに教えてくれた。


 その噂は当然オレのスタッフの耳にも入っているが、ジェスティーナ王女の手前、誰もその話題に触れないようにしていた。


 書面による正式契約を済ませ、リーファとそのダンスチーム12名はオレたちの仲間となった。


 正式契約なんて不要とリーファは言ったのだが、チームとの契約だからと説得して、サクラが専属契約書を作成し、チーム代表としてリーファのサインを貰った。


 お互いによく話し合って決めた契約内容は次の通りだ。

 当面の間、10日毎に領都シュテリオンベルグ → アクアスターリゾート → 王都フローリアの順で移動し、各地で6回の公演を行う。


 公演は1日2ステージで1ステージ当たり30分~40分。

 移動にかかる飛行船運賃、移動先の住居費用は全て会社負担。

 ただし、食事代は各自の負担とする(アクアスターリゾートでは3食付きで給与天引き)

 移動日を除き、基本的に週休2日。

 契約金は1人当たりスター金貨5枚(円換算で50万円)

 報酬は月払いで1人当たりスター金貨2枚(円換算で20万円)

 年間収益が当初計画を超えた場合は特別ボーナス(スター金貨1枚~最大5枚)を支給する。


 メンバーによると、これは破格の待遇だという。

 それはそうだ、一般庶民の平均的給与は1ヶ月金貨1枚であり、衣食住の住が無料なのだから、普通に生活していれば半分以上は貯金に回せるはずだ。

 公演が軌道に乗ったらメンバーを公募し、将来的には2チームから3チーム位に増やしたいとリーファは言っていた。


 チーム名は何か聞くと、『チーム名なんて無いわよ』と言うので、何か良い名前を考えるように言ったが、『皆んなと相談して決めた』とリーファがオレに伝えてきたチーム名は『シュテリオンベルグ・ダンシングチーム(SDT)』だった。


 王都フローリアでの公演は少し先になりそうだが、アクアスターリゾートでの公演は、早めに実施したいと思っていた。


 アスナに電話でアクアスターリゾートの予約状況を聞いた。

 今のところ予約は途切れなく、3ヶ月先まで満室なので、当分は問題ないが、新たな趣向を用意しないと飽きられるのは自明じめいの理である。


 領都シュテリエンベルグは課題も多く、オレはこの先1週間滞在する予定で、アスナにダンシングチームのスカウトが成功したことを告げ、インフィニティプールと湖畔の間に特設ステージを設営してもらうことにした。


 ステージの位置や概要はパソコンで図面を引きアスナにメールし、施工はローレン工務店に任せることにした。

 ローレンは元々執事であるが、オレが色々と無理難題を言うものだから、最近では大抵のことに対応できるまでスキルアップしていた。

 特に建物や構築物の施工は、かなりのレベルとなっているのだ。

 特技が建築施工と温泉掘削と言う執事長は、他に居ないだろう。


 ローレンにはシュテリオンベルグ・ダンシングチーム(SDT)の住居もお願いした。

 リーファを含め一気に13名もの住人が増えるので、ユニットタイプの従業員宿舎を発注しなければならないのだ。

 そうなるとまた異世界ネット通販『パラワショップ』の出番だ。

 玩具おもちゃのブロックを組み合わせるように建てるユニット型の部屋だが、今現在ある1階部分の屋根を一旦取り外し、2階部分に約70平米の共用リビングダイニングユニットを設置し、その周囲にシャワー・トイレ付の24平米(約14畳)の1ルームを12部屋組み付ける方式だ。

 階段は共用リビングダイニングに設置し、取り外した屋根を最後に乗せれば完成だ。

 工事はすべて『パラワシヨップ』が手配してくれた業者が行う。


 次は飛行船の選定と発注だ。

 以前、国王陛下からも王国内の定期航路開設について要請があり、飛行船の調達費用や運行都市、航路、離着陸地点、人員、運賃、ランニングコストなどについてアスナやサクラと詳細を詰めてきたが、運行の目途が立ち、飛行船の選定まで漕ぎ着けたのだ。


 王都と各主要都市を結ぶ週6便の定期航路を開設するためには、飛行船が4隻必要なことが分かった。

 どれくらい需要があるか、航路を開設しないと分からないが、潜在的な需要は間違いなくあるとアスナが分析してくれた。

 航路が開設され、安定的な運行が始まれば、物流革命が起き、王国経済は一気に活性化するとオレは予測していた。


 バレンシア商会では、このチャンスを逃すまいと総力を挙げて各地域の特産品の仕入と販売に力を入れるとアスナが言っていた。


 飛行船の運行会社は王国が40%(金貨2万枚)を出資し、オレと王室が各20%(金貨1万枚)、アルテオン公爵家とバレンシア商会が各10%(金貨5千枚)を出資した半官半民の『ソランスター航空公社』が設立された。


 既に出資金のスター金貨5万枚(円換算で50億円)は公社の口座にあるのだ。

 理事長にはオレが就任し、理事にはフローラ、アリエス、ジェスティーナのソランスター王女3姉妹、アルテオン公爵、内務大臣のロカレ・ブース、リカール・バレンシアの6名が名を連ね、事務長にはアスナ・バレンシアが就任した。

 王女が3人も理事としてメンバーに入っているのは、フローラとアリエスが王国代表、ジェスティーナが王室代表と言うことだ。

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