第124話 踊り子リーファとの再開

 宵闇が辺りを包み、外灯ランタンに火が灯る頃、店内はショーの開幕を待ちわびる客で満員となり、定刻通りステージの幕が上がった。


 今夜最初のステージは男性ギタリストによるアコースティックギターの生演奏だ。

 軽快なテンポで食事を摂りながらBGMとして聞くには、うってつけの曲だ。


 その後、女性ボーカルデュオ、クラシックピアノの生演奏と続き、最後にお待ちかねのダンスショーが始まった。

 幕が上がるとステージの左右から10名のダンサーが笑顔で登場した。


 女性たちは、上はビキニトップス、下は真紅のパレオを巻き、小気味好い打楽器のリズムに合わせ、左右に激しく腰を振るポリネシアンダンスのような(と言うか、ほぼそのまんま)踊りを披露した。

 ステージが盛り上がりを見せ始めた頃、純白のパレオを付けた踊り子がステージ奥から登場すると、待ってましたと割れんばかりの拍手が響き渡った。


 圧倒的な存在感で、観客を魅了する彼女は、スリムながらも均整の取れたプロポーションで誰をも魅了する美貌の持ち主だった。


 華奢な体つきからは想像もできないほど、情熱的な踊りと魅力的な笑顔に釘付けとなり、オレは瞬きをするのも忘れるほど見入ってしまった。

 彼女こそ、この街の誰もを虜にするカリスマダンサー、リーファなのであった。

 ステージ上で熱演する彼女と何度も目が合い、オレが今夜来ていることをリーファは予め知っていたようだ。


 その場にいる誰もが息をするのを忘れるくらい、迫力のあるダンスを30分ほど披露したリーファがステージを降りると、サマージャケットを羽織って真っ直ぐにオレたちのテーブルへやってきた。


「喉が渇いたわ、何か一杯奢ってくれるかしら」

 そう言ってリーファは、微笑みながら、じっとオレを見つめた。

 久しぶりに見るリーファは相変わらず、いい女だった。

 年は20歳くらい、ウェーブの掛かった腰まである長いチェスナットブラウンの髪、情熱的な黒い瞳、整った顔立ちに誰をも魅了する魅力的な笑顔、華奢だがバランスの取れたボディ、他では見たことのないタイプの女性だ。


「何がいい?」


「そうね、じゃあジントニックをいただくわ」

 そう言うとリーファは隣のテーブルの空いている椅子を勝手に拝借してオレの隣に腰を下ろした。


 オレとリーファのやり取りを聞いていたサクラがジントニックを注文してくれた。


「久しぶりね、でもこんなに早く会えるとは思わなかったわ

 しかも、あなたここの領主様になったんですって?」


「あの後、色々あってね、気が付いたらこうなってたんだ」

 オレは苦笑いしながら答えた。


「改めてお礼を言わせてね。

 わたしを助けに来てくれてありがとう」

 リーファは、その場で深々と頭を下げた。

「貴方が来てくれなかったら、私は今頃どうなっていたか…」

 それは普段からサバサバした性格のリーファとは思えないくらい素直な感謝の言葉だった。


「いや、オレも拉致されてから、無我夢中だったし、運が良かっただけさ」


 その時オレはジェスティーナの刺すような視線を感じた。

「そうだ、リーファ紹介するよ。

 彼女がソランスター王国第3王女のジェスティーナ殿下だ」


 オレの言葉に驚いてリーファは、その場にひざまずこうとしたが、すんでの所でオレが制した。


「え、王女様が何故ここに!?」

 リーファは驚きを隠せなかった。


「今はお忍びで来てるから、どうか内密にね」

 そう言ってジェスティーナはリーファにウィンクして見せた。


「彼女はオレの婚約者フィアンセで、今回は国王陛下の名代として勅命を伝えに来たんだ」

 オレの言葉にリーファは動揺を隠せなかった。


「そっか~、こんな綺麗なお姫様が相手じゃ勝てるわけないわね」

 リーファはサラッとそんなことを言ってのけた。


 オレに気があると言うのは、一連の騒動の過程で何となく感じていたが、こうもハッキリと言われるとは思わなかった。


「道理でね、ステージ脇の席に凄い美女が来てるって店の男たちが噂してたから、誰かしらと思ってたの」

 リーファはウェイターが持ってきたジントニックを美味そうに飲みながらオレに聞いた。

「それで、他の方たちもお姫様?」


「いや、1人はオレの秘書で、後の4人はオレたちの護衛だ」


「なるほどね…

 それで、こんな美女軍団を引き連れて私に会いに来た理由わけは?」


 まだ事情を把握していないリーファに、今回オレたちがセントレーニアと旧サンドベリアに来た目的を話して聞かせた。

「事件の後、オレはすぐに王都に戻ったから、その後リーファがどうしているか気になってここに来たのは間違いないんだが、それとは別の大事な話があるんだ」

 オレはそこで一度言葉を止めてジッとリーファを見た。


 オレの真剣な眼差しに何かを察したらしく、リーファはこう答えた。

「いいわ、その話とやらを聞きましょう…

 ただし、貴方と2人きりでね」


 それを聞いていたジェスティーナが言った。

「それじゃ、私達先に部屋へ戻っているわね」

 そう告げるとサクラと護衛たちを連れてさっさと部屋に戻って行った。


婚約者フィアンセなのに申し訳ないわね」


「いや、いいんだ。

 彼女にはオレが君に話す内容を伝えてあるから」


「そうなの?

 ずいぶんと聞き分けの良いお姫様ね」


「ここじゃ人が多過ぎるから、どこか静かな場所はないかな…」

 オレがそう言うと、しばらく考えてからリーファは無言でオレを手招きした。


 リーファに付いてオレは店を出て、2軒隣の古びたバーへ入った。

「マスター、奥の部屋借りるわね」

 どうやら、ここはリーファが良く通っている店のようだ。


 カウンターを通り過ぎ、奥へと続く細い通路の先に小部屋があった。

 大きめのテーブルと向かい合わせのソファが2つあるだけの狭い部屋だ。


 ウェイターが注文を聞きに来て、オレはウィスキー、リーファはジントニックを注文した。


「で、その話って言うのは何?」

 オレとリーファは一度だけ男と女の関係になった仲だし、お互いに駆け引きは不要だ。


「単刀直入に言う。

 リーファ、君をスカウトしたいんだ」

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