第118話 お別れ夕食会、そして新領地へ
プレオープンの
アスナの挨拶で夕食会が始まった。
「え~、お集まりの皆さま、こんばんは。
当リゾートの副社長を務めますアスナ・バレンシアです。
「当リゾートのプレオープン期間も明日で終了し、2日間の最終準備を経て、いよいよグランドオープンを迎えます。
皆さまは、既にお気づきでしょうが、当リゾートは施設もサービスもどんどん進化して行きます。
今後も一層サービスを進化させ、お客様満足度の向上に努めて参りますので、またのご来訪をスタッフ一同心よりお待ちしております。
私の挨拶は、これくらいにして、早速乾杯の音頭を取らせていただきます。
それでは皆様、グラスをお持ち下さい。
皆さまのご健康と当リゾートの繁栄を祈念致しまして、カンパ~イ!」
アスナの音頭で参加者一同はワイングラスを掲げ『カンパーイ』と唱和した。
最終夜のメニューは本格中華料理だった。
北京ダック、海老のチリソース、四川風麻婆豆腐、牛肉のXO醤炒め、海鮮蒸し餃子、冷菜三種盛り合わせ、海老炒飯、八宝菜、
全員が味わったことのない、異国の料理に興味津々でお互いに感想を述べ合い、それぞれが料理評論家のようであった。
わずか数日間の滞在であったが、すっかり打ち解けた
踊る銀ねこ亭の女将は、アルテオン公爵をどこぞの金持ちの商人とでも思っているようで、同じテーブルの隣の席に座り、公爵夫人を含め3人で談笑中だ。
酒も入り冗談を言って盛り上がり、腹を抱えて笑いながら公爵の肩をバンバン叩いていた。
オレは女将の隣りにいる人物が国王の弟で、かつ貴族の中でも最上位の公爵であることを知った時、女将がどんな反応を見せるか想像すると、笑いがこみ上げてきて思わずほくそ笑んでしまった。
いつの間にか、そのテーブルには何人もの人が集まり、椅子を持ち寄って傍に腰掛け女将のバカ話に耳を傾ける人が出るほどで、一同は楽しそうにパーティーを楽しんでいた。
大いに食べ、大いに飲み、大いに語った「お別れ夕食会」は2時間ほどで終了したが、飲み足りない人、語り足りない人は席をラウンジへ移し、2次会が開かれた。
バーカウンターから酒とツマミが提供され、その夜は深夜まで話に花が咲いた。
翌日、
帰り際、踊る銀ねこ亭の女将が、オレに挨拶に来た。
「カイトさん、今回はホンっトにいい思いさせてもらったよ、ありがとね~。
王都に来たらさ、必ず銀ねこ亭に寄っておくれよ、たっぷりサービスするからさ。
マリンの頑張ってる姿見て、あたしも亭主も安心したよ
娘のこと、どうぞ宜しくね」
そう言って女将は、存在感の希薄な亭主と共に船上の人となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレたちは、ほぼ同時刻に『空飛ぶイルカ号』に乗り、セントレーニアに向かっていた。
オレの領地となったセントレーニアと旧サンドベリアに新領主として初めて赴くのだ。
現地では、今後の領地経営について打ち合わせを行う予定だ。
今回オレに帯同するメンバーは、下記の通りだ
◎ジェスティーナ・ソランスター(ソランスター王国第3王女、カイトの婚約者)
◎サオトメ・サクラ(カイトの専属秘書)
◎ヴァレンス・バンダム(シュテリオンベルグ連絡担当官)
◎レガート・コランダム(旧サンドベリア地区駐留部隊司令官)
◎アーロン・リセット(対外折衝担当補佐官)
◎セレスティーナ・レイシス(内政担当補佐官、秘書、護衛、元
◎フェリン・ホワイトベリー(護衛、現役
◎リリアーナ・ブルーアイズ(護衛、現役
◎ステラ・リーン(護衛、S級冒険者、リーン伯爵家令嬢)
途中、セントレーニアから捕虜護送の任で王都に滞在していたレガート司令官の部下8名を飛行船に乗せてセントレーニアへ向かった。
今回、ジェスティーナがオレに同行するのには2つの役割がある。
まず1つは、国王の名代としてセントレーニア総督であるアレクス・ブリストール子爵に勅書を渡す役割だ。
当然の事ながら、その勅書には下記のことが書かれている。
◎王国法違反の重罪を犯した罰でエレーゼ元伯爵を処刑したこと。
◎カイトをシュテリオンベルグ伯爵として叙爵したこと。
◎旧サンドベリア領をシュテリオンベルグ伯爵の所領とすること。
◎王室直轄領のセントレーニアもシュテリオンベルグ伯爵の所領とすること。
◎現総督のブリストール子爵を領主代行の執政官に任命すること。
◎現副総督のハベル・バランタインを旧サンドベリア担当執政官に任命すること。
恐らくこの勅書を見れば、ブリストール総督は卒倒するほど驚くはずである。
この前まで騎士爵だったオレがほんの2週間ほどで自分を飛び越して伯爵となり、しかも新領主としてこの地に戻り、自分は周辺領地の監督不行き届きの罪を問われ、降格処分となる内容だからだ。
ジェスティーナのもう一つの役割は、新領主シュテリオンベルグ伯爵の
アクアスターリゾートから王都フローリアを経由してセントレーニアまでは、最短ルートを通っても約1800kmもの長距離飛行であり、最高時速250kmの『空飛ぶイルカ号』では片道7時間掛かる。
3日後のグランドオープンを控え、メイド達は全員リゾートに残してきたので、身の回りの世話は主にサクラの役割となるが、気を利かして秘書見習いのセレスティーナも手伝ってくれた。
7時間もの長旅となると、途中食事を取る必要がある。
リゾートの厨房にお願いして作ってもらった18人分の弁当を配ったり、お茶を入れたりとサクラもけっこう大変だ。
今日の弁当は、ジューシーなヒレ肉にパン粉を付けてサクサクに揚げたヒレカツサンドが4つと野菜スティック、ゆで玉子、ポテトが添えてあるボリューム満点の弁当だ。
野菜スティックはマヨネーズを付けて食べるようになっていた。
他の女性陣も手伝ってくれて、特製ヒレカツサンド弁当とお茶が全員に行き渡り、束の間の昼食タイムとなった。
地上3000mからの景色を眺めながらの昼食は格別なものであった。
『空飛ぶイルカ号』を購入した当時、最高時速250kmは、かなり速いと思ったが、1800kmもの距離を移動するには、もう少し高速な飛行船が欲しいとオレは思っていた。
リゾートで収益が上がるようになったら、異世界ネット通販『パラワショップ』で探してみよう。
オレがそんなことを思っているとヴァレンスが
「いや~、こんなにノンビリと休暇を取ったのは初めてです。
我々まで
「君等にもリゾートを見てもらいたかったし、部屋も空いてたから問題ないよ」
「ヴァレンス殿、後できっと我々に請求書が届くに違いありませんぞ」とレガート部隊長がニヤニヤ笑いながら、冗談交じりに言った。
「え、本当ですか、それは
「伯爵、その節はどうか分割払いでお願いします」とアーロン・リセットもその冗談に便乗して悪ノリしていた。
長旅を苦にもせず、そのような冗談を言いながら、彼らの表情は明るかった。
それもその筈だ、運良く新領主の直属の部下となり、1週間も癒やしのリゾートでノンビリ休暇を取ることが出来た訳だから、機嫌が悪い筈がない。
夕方5時30分、日も傾きかけた頃、セントレーニアの上空に到達し、飛行船『空飛ぶイルカ号』はゆっくりと降下を開始し、セントレーニア総督府内の広場に着陸した。
突然の飛行船の到着に総督府の警備兵たちは慌てて駆け寄ってきたが、中から降り立ったのが、総督の副官ヴァレンスとレガート隊長、それにオレだと分かると、警備兵は総督へ伝えに走った。
オレたちは飛行船を降り、同行した兵を残し、側近たちを率いて総督府の執務室を目指した。
執務室のドアをノックし、中に入るとブリストール総督が待っていた。
「これはカイト殿、ヴァレンスと兵たちを送り届けに来てくれたのですかな?」
「いや、それもあるけど、主な目的は別にあって…」と後ろに控えていたジェスティーナ王女に目配せした。
オレの後ろにいる女性が、ソランスター王国第3王女であることに気付いたブリストール総督は目を見張った。
「ジェスティーナ王女殿下!
自ら
「セントレーニア総督ブリストール子爵、ここに国王陛下の
事態を把握したブリストールは座っていた椅子から立ち上がると、ジェスティーナ王女の前に平伏した。
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