第117話 それぞれのリゾートライフ
8歳位の
あれ以来、スーは毎日オレの部屋に来て、パソコンを使わせてくれと言うようになった。
この世界に生まれたスーにとって、パソコンは未知の技術の集積であり、
試しにプログラミング言語(Python)を教えてみるとスーは瞬く間に習得した。
その後オレが作った予約システムの仕様書とソースコードを見せ、スタッフから出ていた予約システムの改善要望を説明すると、ネットで調べながらも、僅か3日間で完成させたのである。
その改善要望というのは下記のような内容だった。
アクアスター・リゾートの客室毎の予約状況はリスト形式でしか表示できず、しかも予約変更やキャンセルは別画面となっていたのだ。
これを部屋タイプ毎に月間表示のカレンダー形式で表示し、日付毎に予約済数と予約可能残がひと目で分かるように改良し、予約可能な場合は客室を指定してアサインできるように変更、更には予約日の変更やキャンセルにも対応できるようにしたいと言うものだ。
スーはこの要望を的確に把握し、実現してしまったのだ。
これらを実現するためには、パソコンやプログラミング言語の知識だけではなく、データベースやインターフェース、デバイス、ネットワークに関する知識も必要であるが、スーに取っては
頭脳の基本スペックの違いを見せつけられ、オレは自信を無くしかけたが、これが天才と一般人との違いと諦め、スー専用のパソコンを異世界ネット通販『パラワショップ』で購入することにした。
考え方を変えれば、今後システム開発の案件があれば、スーに任せれば良いのだから、オレとしては肩の荷が一つ下りたことになる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレとサクラの一件で、物議を
ローレンが提案した展望露天風呂計画は、既に温泉の掘削工事が始まっていたが、3本目の源泉ともなれば、さすがに慣れたものだ。
それと同時に屋上のペントハウスの隣にあるルーフトップが柵で仕切られ、浴槽の製作工事も始まっていた。
展望露天風呂は大きめの浴槽が2つと小さめの浴槽が3つ作られることになった。
大きめの浴槽は男性用と女性用、小さめの浴槽は貸切の家族風呂にする予定だ。
やはり女性からは混浴に抵抗があるとの意見が多く浴槽を分けたのと、家族で一緒に入りたいと言う要望に答えた形だ。
更に屋上からの景色がこんなに素晴らしいのに露天風呂だけではもったいないと言う話になり、屋上の一部を仕切ってルーフトップバーを作ることになったのだ。
スペースの関係で10人程度しか入れない小さなバーだが、それで十分であろう。
飛行船による遊覧飛行サービスは、王都との旅客運行のある日を除き、隔日で実施されることとなり、午前10時出発で湖の上空や近くの海岸線、ミラバス山の上空など約1時間の遊覧飛行を希望者は無料で楽しめるようになった。
湖の中島までの往復ハイキングは、参加者がカヌーに乗り自力でパドルを漕ぐのだが、島までは約2kmもあり結構良い運動になる。
島には手付かずの自然が残されており、周囲3kmの島はやや起伏のある草地と砂浜で、歩いて一周できるので、ハイキングに向いているのだ。
カヌーを漕いで往復1時間、ハイキングで歩いて1時間、途中休憩をとり、そこで湖を眺めながらゆっくり1時間、美味しい弁当を食べるのだ。
午前10時30分スタートで帰ってくるのは2時と全部で3時間30分のコースである。
参加者の声を聞くと、澄んだ空気と美しい景色を見ながら運動するのは、実に気持ちが良いと満足度も高いようだ。
敷地内で実施予定のトレッキング&ハイキングサービスはコースの選定中で、特にトレッキングコースは、ミラバス山の山麓をどの程度まで使って良いのか確認が必要で保留となっていた。
湖畔でのバーベキュー企画は青空の下、湖から10mほど離れた位置に設置したウッドデッキの上に大きなスクエアタープを張り、その下でバーベキューを実施した。
王都から来た人たちは、湖畔でのバーベキューなど初めてのイベントであり、
バーベキューコンロには紀州備長炭で
ウッドデッキの隅には簡易的なカウンターバーを設置し、参加者たちは好みのドリンクが注文できるようにしていた。
ソフトドリンクや生ビール、ワインはもちろん、スコッチウィスキーやバーボン、テキーラ、日本酒、酎ハイや梅酒まである。
これ程多くの種類の酒を、どこから仕入れたのか。
メイド長のソニアに聞くと、案の定異世界ネット通販『パラワショップ』だと言う。
またウッドデッキ上のアウトドアチェアやテーブルなどもキャンプ用の新品が使われていたが、企画立案から数日しか無かったのに、これほど短期間に配達してくれるとは、さすがは『パラワショップ』、恐るべしである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
売店では温泉饅頭が人気で、こし餡と抹茶餡の2種類が売れていた。
温泉饅頭は1週間ほど日持ちするので、公爵は親しい人へのお土産としてバラ撒くのだと大量に買っていた。
その他にもサイダーや、温泉卵、無添加石鹸や浴衣などリゾートのオリジナル商品を爆買いし、ポーションも制限数まで購入して売上に貢献してくれた。
オレが公爵にスイートルームの泊まり心地を聞いてみると、バルコニーからの素晴らしい眺望、室内もゆったりと広く、上品な内装で、家具や建具も洗練された良いものを使っているし、アメニティなどにも満足だと感想を述べた。
また、
公爵は「どうだ儂の妾にならんか」とエミリアを口説いたそうだが、笑顔で丁重にお断りされたそうだ。
エミリアの評価には及ばなかったものの、同じスイートルームでバレンシア商会当主とアスナの部屋の
これもエミリアの優れた指導の
踊る銀ねこ亭の女将もリゾートライフを満喫していた。
部屋は豪華で落ち着いているし、周りは静かでどこもかしこも絵のような素晴らしい風景で、特に温泉がいいねぇと言っていた。
今日は亭主と一緒に湖でカヌーに乗り、虹鱒を釣ったり、自分でパドルを操作してカヌーを漕いでみたそうだ。
「ここはホントにいい所だね~。
今回は命の洗濯をさせてもらったよ、カイトさん、ありがとね~。
何かアドバイスするところがないか探してみたけど何もなかったよ」
これは女将の最高の褒め言葉と受け取っていいだろう。
「ここには、もう来ることも無いだろうけど、いい思いさせてもらったよ」とシミジミと女将が言う。
「また、来ればいいじゃないですか」
「ムリムリ~、1週間2人で金貨6枚(60万円)なんだろ、あたし等の稼ぎじゃ一生掛かっても無理だよ」
なるほど、確かに女将の言うことにも一理ある。
庶民にとっては金貨6枚は6ヶ月分の月収に相当するのだ。
おいそれと出せる金額で無いのは間違いない。
女将の話を聞いてからオレは暫し考えた。
娘(マリン)が勤めているのに泊まりに来る事もできない高級リゾートとは、幾ら何でもちょっと寂しすぎる。
それなら家族が安く泊まれるような仕組みを作れば良いのではないか。
オレはアスナに相談して従業員割引制度を創設することにした。
その内容はこうだ。
◎希望する従業員とその家族は通常料金の1割の金額でリゾートに宿泊できる。
◎家族の範囲は2親等までとする。
◎利用できるのは1人年1回までとする(権利の翌年繰越はできない)
◎利用日数は最大6泊までとする。
◎利用人数は最大で6名までとする。
◎年末年始など繁忙期は利用不可(利用不可日別途設定)
◎他の従業員が予約している日は利用できない
◎従業員が勤務日にリゾートを利用する場合は有給休暇扱いとする
◎従業員割引は入社1年経過後に権利が発生する。
9割が会社負担なのだから、けっこうな大盤振る舞いである。
アスナに草案を見せたところ
「いいんじゃない、なかなか良く出来てると思うわ」と褒めてくれた。
「これで従業員たちがモチベーションを上げてくれれば、安いもんだよ」
1年間真面目に働けば全員が権利を獲得できる訳で、従業員のやる気に繋がれば良いなとオレは思った。
オレは、この内容を文書にして全従業員に配った。
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