当方、41才、独身。キャンプ好き。

砂路

夕日と。 

私はキャンプが好きだ。


キャンプというのは年柄年中私を受け入れてくれる。そう、世知辛い現代社会に於けるオアシスなのだ。


だから、未だに独身でも全く持って寂しくなど、無い。


そうだ、この前行ったキャンプも素晴らしかった。今回はその話をさせてもらおう。


△ △ △


秋。そうだな、まさしくその日はザ・秋だった。


美しく赤、黄、橙に色づいた木々達に、暑くも寒くもない最適な気温。空は雲一つなく、ため息が出るほどに心地良かった。まさに、キャンプ日和。うってつけである。


この日のキャンプも、朝イチバンから始まった。


夏が終わると、大体日が登っていない時間に出発することになる。秋とはいえ、朝は少し冷えるが、それがまた気持ち良いのだ。早速相棒のninja1000に挨拶をして、エンジンをつける。


さぁ、出発だ。今日は伊豆に行く。高台から海を一望できるような絶景を誇るキャンプ場で、界隈では有名な所である。私は1番高いサイトを予約した。


こんな高級宿であっても、キャンプであれば一泊高くて7000円足らずで済む。金がかかる趣味だと思われがちだが、初めに道具さえ一式揃えて仕舞えばほとんど金はかからないのだ。


△ △ △


さて、朝早くから向かっているが、チェックイン自体は13時からの様だ。そのため、かなり時間には余裕がある。ふむ、一体どうしたものか……。


……と言う様に、行程を全く決めてこないと、結局やることがないままに、その日一日ぼーっと適当に過ごしてしまうことがあるのだ。私のように旅慣れた熟練者ならまだしも、初心者キャンパーはしっかりと何をするか、など考えてきた方が良い。


今日は伊豆半島を徐々に南下し、最終的に南伊豆のキャンプ場にたどり着く予定である。私はまず、沼津は三津海水浴場へと向かった。


そう、あのラブライブ!サンシャイン!!の聖地の一つである。静岡にやってきて、それらを尋ねない理由が何処にあろうか、いや無い。


なるほど、ここがあの……!この場所は何回も作中に出てくるため、その印象とぴったり重なるこの砂浜はとても感慨深い。普通怪獣ちかちーはここに出没したのだなぁ。いやはや、泣けてくる。


そこそこの高さには登ってしまっているが、太陽がとても綺麗だった。水面に反射して、輝いていた。そう、まさに「輝き」である。


私は砂浜にAqoursと刻み、その場を後にした。その文字が波に飲まれてしまったかどうか、知っている物は誰もいまい。


△ △ △


次に向かったのは伊東は大室山である。リフトにのるのは恥ずかしかったが、最近設置されたらしい、ゆるキャン△ロケ地の看板をなんとしても拝まなければならないのだ。


実は、私はゆるキャン△の大ファンなのだ。


タイミングよく座り、ある程度進んでから景色を眺める。


あぁ、素晴らしい。今日は晴れていて本当によかった。まさに、いい眺めだねぃ。


「はーい、撮りますよー!」


どこからか声がした。あたりを見回すと、それは記念撮影のカメラからのものだった。あれ、自動撮影ではなかったのか。つい、驚いてしまった。変な顔で写ってしまったに違いない。……あとで証拠隠滅のため、購入していこう。


リフトを降りて、三角点を発見し、遂に展望台にたどり着いた。


おぉ、作中に記念撮影をしていたあの看板だ。まさに、そのまんま。ここがロケ地です看板もしっかりと確認できた。休日ということもあり、人がそこそこいたため長居はしなかったが、十二分に堪能できた。


さて、ワサビソフトクリームを頂いてから、そろそろキャンプ場へ向かうことにした。伊東から南伊までは言ってもまだ距離がある。道中温泉にも寄りたいので、昼前には移動を始めた。


△ △ △


ある程度南下したら昼飯を適当に済ませて、とりあえず次の目的地、温泉を目指す。

道中、めちゃめちゃにぐるぐる回る道路を通ったが、あれはただの螺旋状の道路なんてチャチなものじゃあ断じて無い。本当に恐ろしい物の片鱗を味わった。


ゆるキャン△では皆んな楽しそうにあそこを通り過ぎていたが、事故りそうったらありゃしない。本当に神経が擦り切れた。


下田温泉なる温泉施設に到着した。なんでも、海を一望できる露天風呂で有名らしい。Googleに載ってた画像もとても綺麗だったので、とても期待できる。


早速裸になり、体をきちんと洗ったあと、心して湯船につかった。


ふぅ、これぞ日本の心。旅の疲れをすっかり落としてくれる。景色も壮大だ。太平洋、だろうか、が一望できるのもなんだか自分が強くなったようで本当にキブンがいい。


風呂を上がったら、その後は諸々準備をしてすぐに温泉を発った。ここでグダグダしてしまうと簡単に廃人になってしまって一日が終わってしまう。強靭な意思を持て。そして、一生に内に一度は地上最強を目指すのだ。



そして、遂に私はキャンプ場に到着した。


おぉ、本当に景色が良い。音楽を流しながら気分良くテントとタープを張っていく。


聞いているのは、Bon JoviのLiving on a Prayerだ。最初のヴォコーダーを使うところ、昔はどうやっているのか見当もつかず、本当に不思議だった。


さて、テントを張り合えると、そこからはもう自由時間だ。既に午後16時を回っていたが、まだ空は明るかった。


秋の風が心地良い。春に比べると少し肌寒くなってきたが、まだ薄着でも大丈夫そうだ。


私は、ソロキャンプの空いた時間にはいつも執筆をしている。本業のサラリーマンとは別に、私はネット小説家をしているのだ。


1人では暇な時間がどうしても生まれてしまうため、こうして皆多種多様な暇つぶしを持っている。


代表作は「キャンプ中に異世界に召喚されたんだが、持ち物がテントのペグしかない件」である。PVも好評で、中々精神衛生が良い。


△ △ △


17時を回ったので、夜飯の準備を始める。今日のメニューは漢ステーキだ。


焚き火台を出し、その上で火をつけ始める。焚き火台が必要か否かはキャンプ場によって違うので、しっかり注意して貰いたいところである。


火をつけるコツは、よく言われることだが、空気の流れを意識することだ。


火とは、生き物なのだ。生物が空気無しにはとても生きることができないことと同じく、火もそれ無しにはすぐに死んでしまう。


まずは種火にジッポライターで火をつけ、細い枝から順にうつしていく。そうしたらば徐々に太いものも火に炙ってどんどん燃やしていく。


ぶっとい薪にも引火して、火が安定してきたらばもう安心だ。


さぁ、今日は漢ステーキなので、250gのステーキ用牛肉に、ニンニクもたっぷり用意した。


まずはニンニクの芽をとって薄く切る。私の包丁やまな板は、職人拘りの一品である。こういうところからしっかり揃えたくなるのが、キャンプというものなのだ。


次に、スキレットに牛脂で脂を引き、ニンニクチップを作る。


フハハ、これは凄いぞ。自家製ニンニクチップの破壊力ったらない。


それらをじっくり揚げている間に肉に下処理をする。肉の筋を丁寧に断ち切り、肉の威勢を削いでいく。フフ、これでお前らはもう私に固さという武器で抵抗できまい。故に、私に屠られるしかないのだ。


次にひとつまみの塩に、たっぷりの黒胡椒。それらをしっかりと肉に揉み込む。


さぁ、準備万端だ。


ニンニクチップは一度取り出して、同じスキレットで肉を焼く。我慢ならず、チップを1枚、味見してみる。


うむ。完璧だ。


さぁ、肉を焼こう。


ニンニクエキスが滲み出たアツアツの脂に、肉を思いのままに乗せる。


ジュー。


あぁ、素晴らしい音だ。まるで除夜の鐘。私の中の汚れの一切が消え失せていく。


肉の焼き方は人それぞれなので、ここで細かく色々と書き並べても野暮だろう。私はミディアムレア程度が好きなので、それを目指して焼いていく。


ポイントは、強火で短時間。これに尽きる。全表面にしっかりと焼き色がついたら、取り出してアルミホイルに包む。余熱でじっくりと火を通すのだ。


ちなみに私は5分程度で取り出す。


最終行程だ、ソースを作ろう。先程の肉汁でいっぱいのスキレットに酒と醤油を入れて、焼く。焦がすのだけは厳禁だ。


焼き醤油にすると、一層コクが深まって旨いのだ。


その中に先程のニンニクチップを戻し、ちょっと絡めたら完成だ。私流、完璧なニンニク醤油である。それを小皿に注いだら、ソースの準備は完了だ。


同時に、ちょうど5分が経った。


役者が揃った。


スキレットに肉を戻し、その上に先のソースを豪快にかける。


あとは持ってきたバゲットを切って火で炙ったら……


遂に、今晩の夜飯、完成である。


夕日が祝福してくれているかの様に私を、その空間を温かく照らしてくれた。


それは、本当に美しかった。


今日一日、本当に色々な事をした。沼津に伊東に下田と、色々な所へと行った。


今日は良い休日だ。


水面を眺めながら、ステーキをナイフで切った。中からは大量の肉汁が溢れ出してくる。


ソースをたっぷりとつけて、ニンニクチップと一緒に私はステーキを一口頬張った。




「……旨いッ」







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