第51話 鉄の森、蒸気の霧 - 16
「それじゃあ実射撃を3マガジン継続射撃頼む」
イネちゃんはルーインさんの所有している地下射撃場でバケツヘルムと称するのに相応しい防具を被り、土魔法と称した勇者の力で防御を固める形に架空金属粒子で銃と自分の間にビームバリアを構成させてから的に向かってルーインさんの試作したライフルを構える。
リコイルを利用したオートマチックシステムである都合、連続稼働が長ければ長くなるほど歪みが出て暴発の危険性が高まる。
今回はその限界値を調べる意味もあるけれど、それ以上に改良点の洗い出しが主な部分となる。
イネちゃんが安定した構造を教えるのは簡単ではあるけれど……この世界の技術文明の進化にイネちゃんが割り込むのは好ましくないどころか雑音にしかならないので個人的に絶対それはやりたくないからこそ、その進化の手助けとしてのデータ取りを安全に行うお仕事は率先してやるのは悪くないかもしれない。
そんなことを考えながら引き金を引くとかなり大きい
最後の1マガジンの中身を全部吐き出してから少しの残心をして銃口を下に向けた。
「どうだ?」
「どうもも何も反動が強くて訓練が必須だね。後マガジン2個目の後半から内部構造に少し歪みが出たからか違和感を感じたよ」
「実用化にはまだまだだな。よし、分解してどれだけ歪んだか確認する」
「持っていきます」
移動する時にイネちゃんでも少し確認してみる感じでは基礎構造自体に歪みは確認できないものの、駆動部が歪んだり接続杭が緩くなっているのを感じるのでこのまま連続で射撃し続けたら暴発か分解の流れになるだろう。
「雑にするのがちょっと怖いですね」
ルーインさんに渡す時に率直な感想も一緒に渡すと、ルーインさんは。
「成程な、こりゃオートマチック構造自体を再設計した方が良さそうだ」
「巨大化させて素材自体を頑強にすればこれでも行けるとは思いますけど……」
「都市防衛用ならそれでもいいがな、お前みたいな個人傭兵に売りつけるために小型化を目指している都合そうもいかねぇ」
「あーそれは確かに。個人携帯を前提とした仕様なら小型である方がメリットが多いですからね」
「でかさを要求してくる場面の方が少ないだろうからな、それこそ盾とかならでかい重い不便ってのでも十分価値はあるがこいつは武器な上に中遠距離の武器。近寄られる前提での設計も考えておかねぇとな」
それなら基礎設計をとことん頑丈にして銃身にナイフや長剣を接続する銃剣スタイルでも良さそうではあるけれど、結局のところ専用の訓練を積まないと短い槍としての運用になりがちなのも銃剣という代物なのでイネちゃんからの提案は控えておく。
先日見せてもらった設計図にそれっぽいスケッチがあったのも提案をひっこめるだけの判断材料……完全な0からの設計で高いレベルでの基礎設計ができる人であるのなら銃剣のそういった欠点は十分把握しているだろうし、まともに撃てない状態の銃にそんな重量物をつけること自体設計見直し確定の装備なので今回のテストには影も形もないくらいに現状必要ない、使えないと判断しているのがわかるからね、余計な言葉は必要ない。
そして盾なら取り回し最悪のでかい重いという要素も受け入れられるのも理解できる。
受けがなすためのバックラーやイネちゃんの籠手ならともかく、完全に受け止める前提の盾であるのなら材質と質量がものを言うので個人が持ち運べる限界として大楯分類の物が30kg……どころかそれ以上の物も存在していなくはないのだから。
問題は地球の場合それで止める相手は騎馬の突撃で1回耐えれば十分な代物であったのに対し、この世界の大楯で止める相手は自由に跳び回る魔獣だということ。
となれば取り回しの悪さが致命的なデメリットになるために傭兵でこれを持っている人間は運搬が問題にならない用意ができる人間か、都市防衛専属で雇われていて生存を大前提に考えているような人間しか存在しないため市場での需要という面に置いて量産する理由は全くと言っていいほどにない。
ただ都市防衛に使えるのは間違いないので専属軍の装備として少数生産されているのは間違いなく、職人ギルドのカウンター裏に商品サンプルだろう大楯が1つ飾られていたのを横目で確認している。
ともあれ今は銃なのだけれど、ルーインさんが分解している流れを見ているとイネちゃんの予想通り駆動部分の破損……というほどではないものの摩耗が目立っているのがわかる。
摩耗が激しい部分は例え設計が優秀であっても素材の硬度や製造時のわずかな寸法ズレなんかでも変わってくるところ。
こればかりは地球の製造体制ですら発生する部分なのでどうしようもないところはある。
「しかしこれはどうしたもんかな」
「使用しているときに感じたことですけれど、いちいち反動で撃鉄を動かすのは摩耗を早める以上に不安定になる気がしますね」
「設計としてできることをしてみたが……こりゃ排莢機構と一緒に動かす部分で弾をぶっ叩いてやる方が安定しそうだな」
まぁ……イネちゃんが今回試験した銃は基礎設計こそ優秀なれどその基礎設計部分に職人の遊び心が入った逸品だったのだ。
撃鉄動作部分を除けば粗悪コピーのよく見るアサルトライフルとほぼ同等だったので特に口を出さなかったわけだけれど……設計がダメだってことを確認するテストをやるのもイネちゃんが受けた依頼内容なので仕方がない。
「はい、そうした方がある程度遊びも用意できる気はします。同時に駆動部の摩耗も抑えられるんじゃないかなぁとは」
「実際に撃った人間の感想は大歓迎だな、現実的な提案ありがとよ」
基礎設計と高い職人技術のおかげで暴発しなかったものの、その2つが合わさってもイネちゃんが暴発や分解の危険性を感じる程度には邪魔な機構だったのだ。
ルーインさんも最初に排莢を行う機構に撃鉄の動作を行わせる方を設計していたようではあるが、イネちゃんにはわからないところで今使った銃の設計も確認しておきたい要素があったんだろう……それが職人のこだわりなのか商売としてのものなのかはわからないけれど、ルーインさん自身が危険を前提に忠告してきた辺り本人の意向ではなくスポンサーの意向だったりするのかもしれない。
「設計、変えちゃって大丈夫なんです?」
「もとより無理のある変更だったからな、実際にテストして俺の技術でも破損するってわかれば言い訳できる」
「スポンサーの意向ってやつですか」
「ま、そのようなもんに近いな。専門家が考える設計より俺の方がって奴はごまんといるもんで出資者以外からもそういう声はよくある」
そういえば元々ギルドの仕事としてアサルトライフルの設計がって感じの単語を聞いた覚えが……日記に書いたか忘れる程度には聞き流していたけれど、ギルド全体で設計を共有して規格統一する以上提案として登ってきたものをダメであると断言できるデータを用意したいためのテストが今回のものだったみたいだね。
「となると……」
「まぁ終わったから言うが、この設計はクソって証明のためのテストだったわけだ」
「ですよねー、だからあそこまで防御能力についてアレコレくどくなるくらい聞かれたわけだ」
「やれる傭兵なんざいないと言って差し支えないレベルに俺も不安だったが、使い手の腕もあるんだろうが無事でよかった」
「使った側からすれば職人の腕に助けられた印象ですけどね」
「よし、とりあえずこれも試してみてくれ」
そう言ってルーインさんが手渡してきた銃はオートマチックハンドガンにドラムマガジンが付けられたもので……。
「まさかこれも?」
「連続射撃試験だ。本体の耐久試験とマガジンの給弾試験両方同時にやれる銃だな」
「対人だと過剰火力だし魔獣相手だと力不足だと思いますけど……」
「需要自体はあるからな、盗賊団なんかの鎮圧なんかには需要はある」
「リロードを極力せずに盗賊団鎮圧を行う人達向けの需要ですか……」
意図は理解するし求められて作ろうとした理由もわかるけれど実際作ってしまったのか。
こうしてこの日のイネちゃんはびっくりとんでも銃の性能試験を行う日となったのだった。
正直ラッパ銃マシンガンとか出された時には正気を疑った。
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