第29話 大牙

 リゼが大牙オーガに切り掛かる。



 それに気付いた大牙オーガは棍棒を振り回してリゼを迎え撃とうとする。

 リゼは、素早い身のこなしで大牙オーガの棍棒をひらりと躱して行く。

 

「凄いなリゼさん。僕たちも雑魚ゴブリンをさっさと片付けて、大牙オーガをやっつけよう」


「りょうかいです先輩!」



 レンとシュバルツは、次々と湧いてくる雑魚ゴブリンを片付ける。


 しかし、雑魚ゴブリンの群れは倒しても次々と出てくる為、なかなかリゼの加勢に行けないでいた。

 


 レンは後方のコトに向かって叫んだ。


「コト、何か攻撃スピードを上げる魔法あったらかけてくれないかな?」

 

「えー、そんなの覚えてないわ」


「あ、私、忍速スピーダ使えます。レンさん、シュバルツさん、行きますよー」


「ありがとう!」



 ルフナはレンとシュバルツに移動系魔法を放つ。二人の攻撃速度が増し、雑魚ゴブリンを次々と倒して行く。


 

「色々な魔法がつかえるのね。詠唱も素早いし、さすが王女ね」

 コトはルフナの魔法に関心していた。



 一方、リゼは大牙オーガの棍棒の動きを避けるのに精一杯で、なかなか攻撃を当てられないでいた。


「やるな……ならば……」


 リゼは収納魔法ストレージャーで盾を収納し、攻撃を受け流さず、避ける事に専念した。

 そして再び収納魔法ストレージャーを使い、投げナイフを取り出し、大牙オーガの攻撃を避けながらナイフを投げて行く。


 グォォォォ…… 



 大牙オーガの体にナイフが突き刺さる。



 ダメージはそれほどなさそうだが、大牙オーガはナイフの方に気を取られて棍棒の振り方が雑になる。

 

「今だ……」

 リゼはその隙を見逃さず、素早く大牙オーガの懐に潜り込み、剣を振るう。

 


 グオオ!


 

 大牙オーガの巨躯に傷が入り、苦しそうに呻く。

 しかし、まだ致命傷には至っていない。

 


 大牙オーガはリゼに棍棒を叩きつけようとする。



 リゼは収納魔法ストレージで素早く盾を出し、棍棒の一撃を防いだ後、すぐさま後ろに飛び退く。


 再び次の攻撃の機会を窺って行く。



 その様子を傍目で見ながら、レンとシュバルツは雑魚ゴブリンを倒し続けていた。


「くそう、倒しても倒してもキリがないな……どうなってんだこれ」

 

 レンの顔には焦りの色が浮かんでいた。

 

「先輩……あそこ見てください。」

 

 シュバルツは洞窟の奥を指差す。

 


 洞窟の奥には、レン達が戦っている広い空間に、先へと繋がる通路がある。


 しかし、その通路の左右にも小さな穴があいていた。

 小鬼ゴブリンたちは、その小さな穴から這い出てきている。


 

「そうか、仕掛けギミックだ。ゴブリン達は、あの穴から出てくる……という事は、あの穴を塞がない限り、無限に小鬼ゴブリンが湧いてくるという仕掛けギミックになっているんだ。さすがシュバルツ。よく気がついたね」


「えへへ。……先輩、あの穴を塞ぎましょう。私が電磁銃レールガンであの穴を塞いじゃいます。先輩は援護を」


「わかった。雑魚ゴブリンは僕が片付けるから、シュバルツは穴を塞ぐ事に専念してくれ」



 レンはシュバルツの元に駆け寄り、周りの雑魚ゴブリンから倒して行った。

 

 

 シュバルツは動きを止め、電磁銃レールガンを構えて、充電を開始する。

 


 電磁銃レールガンは、エネルギーを十分蓄えた後、小鬼ゴブリンの這い出てくる穴の直上を狙い撃つ。

 


 激しい音が響き、穴の上部が崩れ落ちる。

 崩れた岩が一気に崩れ落ち、這い出てこようとする小鬼ゴブリンを押しつぶしながら、完全に穴は塞がれた。


 

「よし、成功だ!」

 穴の破壊に喜ぶレン。

 

「もう片方の穴も行きます」

 間髪入れず、電磁銃レールガンの充電を開始するシュバルツ。

 


 再びエネルギーが溜まり、電磁銃レールガンはもう一つの穴を狙い撃つ。

 電磁銃レールガンから放たれた一撃によって岩が崩れ、穴が塞がれる。


 

 そしてようやく、雑魚ゴブリンの出現は止まった。

 

 

「やったねシュバルツ、雑魚ゴブリンが湧いてこなくなったよ」

 

「先輩、やっぱり私たち、良い相棒コンビですね」



 シュバルツがレンの前に広げた手を出し、レンはその手にハイタッチをする。


 そしてすぐ目線を大牙オーガの方に向き直す。

 

「あとは、あいつだけだな……」

「行きましょう先輩」

 

 

 レンとシュバルツは二人揃って走り出す。 

 

 

 リゼは大牙オーガの攻撃を避けながら、再び攻撃する機会チャンスを窺っていた。

 

 しかし、手負いの大牙オーガはなかなか隙を見せない。

 

 最早、投げナイフにも怯まなくなっている。

 

 

「厄介だな……なんとかして、隙を作らねば、攻撃を与える事すらできないか……」


 リゼは大牙オーガの攻撃は避けられる物の、手詰まりになっていた。

 

 

「リゼさん、お待たせです!」

雑魚ゴブリンは全て片付けました」


 レンとシュバルツがリゼの元に駆け寄ってきた。

 

「レンさん、シュバルツさん。……助かります。では三人で一気に畳み掛けましょう」

 

「わかりました」

「りょうかいです」



 シュバルツがシュトロイゼルを構え、大牙オーガに乱射する。


 大牙オーガは棍棒を振り払ってシュトロイゼルの攻撃を跳ね返すも、弾は大牙オーガの身体に命中する。


 しかし、投げナイフ同様、大牙オーガの巨躯には致命傷には至らない。

 

 だが、大牙オーガがシュバルツの攻撃に気を取られている隙に、レンとリゼは大牙オーガの左右に周り込んでいた。


 レンとリゼは左右から大牙オーガを挟撃する。

 

 

 グオオオオォォ

 

 

 レンの剣戟が大牙オーガの身体に直撃ヒットし、激しく仰反る大牙オーガ


 間髪入れず、リゼの剣が大牙オーガの心臓を貫く。

 

 ついに大牙オーガは倒れ落ちる。

 やがて、光の粒子となった後、消え去る。

 

 

「……はぁ、はぁ……やった!」


 リゼは肩で息をしながら、安堵の安堵のため息を漏らす。

 

 

「……な、なんとか倒せましたね!」

 

 大牙オーガが消滅したのを確認したレンは、地面に座り込んだ。

 レンは、動き回って疲れていた。


「これで、この洞窟ダンジョンはクリアですね。経験値、経験値は……と。」

 シュバルツはウインドゥを開いて、EXP報酬ボーナスを確認している。

 

 

 その時だった。

 

 洞窟の奥、大牙オーガが出てきた穴の向こう側。

 その向こうが一瞬、きらりと光るのを、リゼは見逃さなかった。



「危ないっ!」

 リゼは条件反射的に走り出していた。


 

 闇の中から、一筋の、黒い魔法の光線ビームが放たれた。

 

 黒い魔法の光線ビームは真っ直ぐルフナの方へ向かって行く。


 その対角線上に割り込む様に、リゼは走り込んだ。

 

 黒い魔法の光線ビームはリゼの体を貫いた。


 リゼの身体を通過する際に、角度が変わり、黒い魔法の光線ビームはルフナから外れては壁に当たって消滅した。

 

 

 「リゼっ!」

 

 

 洞窟の中に、ルフナの叫び声がこだました……

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