第103話 真実は一つ? ④

「次ね。リアルに発展する場合」


「はい」


「まず、これがいきなりノーにならないのは共通認識でいいよね?」


「はい。勿論です」



 人によってはネットゲームでの恋愛がいきなりノーになる人もいるだろう。気持ちもわかる。でも私たちにはゲームから始まった恋愛で結ばれようとしている共通の友人がいる。



「じゃあ、ネットで出会った人に恋をしました。リアルで会ってみたら思ったような人ではなかったので冷めてしまいました。これは、本当の恋ではなかったからなのかな?」



 ううん?



「どういう意味でしょう?」


「付き合ってみたら思ったような人じゃなかったとか、素敵な人だったのに結婚したら問題点があったとかも良くある話じゃない? 百年の恋も冷めるなんていうじゃない。その時もそれまでの気持ちとかも嘘になるのかな」



「……」



「一緒じゃない? きっかけは何でもさ。リアルでもネットでも、よくわかってない人のことを好きになって、よくわかって来て嫌いになったり、逆に好きになったり。ブレーキばかりとも限らないかもよ。会ってみたら理想の相手だったりするかもだし。これは恋愛です、これはごっこです、とこっちがわけるのは難しいような気がするなあ」



 なるほど。ネットだからじゃなくて、リアルだからじゃなくて、ただ相手を知らないから。ただ相手を知ったから。




「惹かれたり惹いたりして、それを何て呼ぶのかはわかんないけどさ。そこになんて名前を付けるかはその人次第でないかな。それぞれ好きな名前で呼べばいいと思うよ」



 感心しながらログを読み直す。いいこと言うじゃないか師匠。ネット恋愛の相談を受ける時もすこしいい答えを返せそうな気がする。



 そうだ。出会ったことで嫌いになることばかりじゃない。



 気になっていた人と実際に会って、更に惹かれて、惹かれあって。その例を私は、私たちは良く知っている。


 ショウスケさんとブンプクさんの結婚式は後一か月ほどに迫っていた。お二人はその準備で忙しいらしくなかなかログインしてこない。


 なんと、その披露宴に私も招待されているのだ。リアルでお葉書を頂いて、出席でちゃんと出席で返事を書いた。ネットで調べたので「寿」の文字で「御」を消すとこまでバッチリだ。身内以外の結婚式に出席するのは初めてで、とても楽しみである。


 結構大きなお式になるらしいのだけど、新婦側—ブンプクさん側の友人として<なごみ家>のメンバーと猫さんが参加する。ブンプクさん側になるのは双方の友人の数のバランスをとる為らしい。


 お二人の晴れ姿を見るのは勿論楽しみだけど、他の方と会えるのも楽しみだ。




「…………。にょーん!」




 突然師匠が椅子を降りると右手を斜め上、左手を斜め下にして膝を付くいつもの変なポーズを決めた。


 はいはい。沈黙が流れてふと素に戻って恥ずかしくなっちゃったんですね。わかるわかる。



「もう。素直に感心してたのに台無しです!」


「え、マジで? じゃあ今の無し!」


「手遅れです!」



 素直に褒めると師匠は照れてしまうからね。このくらいでいいのである。



「まあそれぞれとは言っても、中にはネット内で恋人になって、お金で苦労しているなんて話持ちかけるのもいるから、それは論外ね?」


「そんな人いるんですか?」



 びっくりだ。それを出だす方も、それに乗っちゃう方も。



「嘘みたいでしょ。いるんだなこれが。ネットの中であった人に、貴方にあって初めて私は真実の愛を知った、みたいなことを言われてね。でも今の恋人と別れることが出来ない。それにはお金が必要だ、なんてね。お金を貰ったらもちろん消えちゃうんだけど。20万円盗られたって話聞いたなあ」


「えええ。それ、訴えたりできないんですか?」


「できるのかもしれないけどね。裁判とかするには時間もお金が掛かるしね。でも一番大きいのは、騙された方が騙されたと思ってないことだろうね」



 お金盗られて相手が消えちゃっても後もまだ信じてるってこと?そんなことあるのかな。



「何故でしょう?」


「多分、嘘だと決めちゃいたくないんだと思う。もしかしたら、自分は真実の愛を試されているんじゃないかって、ずっと信じていたいんじゃないかな」



 訴えたりしたら、お金よりももっと大事なものを失ってしまうから。でもそれははじめから幻。からっぽの宝箱。


 ざりざりする。せっかくリアルのしがらみから解放される場所なのに、そんな話があるんだ。



「ひどい話ですね」


「コヒナさんも変な人に騙されないようにね? ネットでもリアルでも、簡単に人を信じちゃいけないよ?」


「大丈夫ですよ!」



 全くもう、子ども扱いしてからに。前にもこんなこと言われたなあ。




「これは抜きにしても恋愛がネットからリアルに発展するのは難しいよね。極端な話性別だってわかんないわけだし。俺達も今回あってみたら思っていた性別と違うなんてことも」


「でもリンゴさんは別として、ショウスケさんとブンプクさんは確定じゃないですか」



 お二人に関してはリアルのお名前も把握しているので間違いない。リンゴさんは逆の意味で確定。



「さすがにヴァンクさんとハクイさんはそのままでしょうし、わからないのは猫さんくらいですね」


「猫さんか。ううん? あんまり考えたことなかったなあ。そう言えばどっちだろう」



 考えたことないというのは正解かもしれない。べつに猫さんが男の人でも女の人でも困ることは無い。猫さんは猫さんだ。リアルで会ってもへー、そうだったんだと思うだけだ。



「私は猫さんは女の人だと思います」



 おっと失言。コレ猫さんに聞かれたらまずいぞ。こすられてしまう。訂正、女の猫さん。



「そうかなあ。普通に男だと思うけどなあ。尚特に根拠はない」



 普通にってなんだ。




「でもお話してればだいたいわかりますよー」


「そうかなあ。どうだろう。俺もこう見えて実は中身超絶美少女だからね」


「あははははは」



 気が付くともう大分遅い時間。きょうはここまでと言うことになった。


 羊さん探しを手伝うなんて言っておいて、結局長話に付き合ってもらってしまった。申し訳ない。


 ログアウトして寝る準備を始めた。



 結婚式が楽しみだ。みんなと会える。師匠にも会える。着ていくのはコヒナさんと同じ色のドレス。みんな、私だと気づいてくれるだろうか。


 猫さんは男の人かな。女の人かな。師匠と私で意見が割れたのでどっちだったとしても喜びそうだ。もし女の人だったら猫さんはきっと言うんだ。「おめーは見る目がねえんだにゃ!」って。そしたら一緒になって師匠を攻撃してやろう。



 ふふふ。



 師匠、どんな顔してるんだろな? そういやさっき超絶美少女っていってたっけ。ぶははは。


 超絶美少女って。


 実は女の子、とかならともかく―




 …………。




 えっ?



 あれ? えっ、嘘。


 ちょっと待って。それは困る。


 いや、別に困んないか。でも……。




 えっ、どうしよう。どうしよう?




 冗談だよね? 師匠、男の人だよね?


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